第二〇話 作戦完了
俺は航空支援が終了し、航空機たちが空母に帰っていくのを後方から確認した後、戦車たちが蹂躙した野砲陣地を通り抜ける。
「航大は大丈夫か? あいつくたばってないよな?」
そんな言葉が自然と口からこぼれた。
火砲の砲弾は前衛に集中しだしたのか、あまりこちらに降ってこなくなった、なので救急車両も呼び、前戦から運ばれてくる負傷者や道中で拾った負傷者を、ここで手当てしている。
俺も一人怪我人を見つけたので、一度前線を離れここに運びに来たのだ。
「さて、前戦に戻りましょうかね」
テントに運び終わった後俺は、負傷者の並ぶテントを後にした。
俺がここでぐずぐずしていると歩兵が足踏みしてしまう、咲間長官率いる左翼突入部隊も動き出したみたいだしな。
「こちら有馬、今からそちらに戻る、状況を教えろ、繰り返す、状況を言え」
俺が無線で前線の通信課に呼びかける、そうすると爆音と機銃音に紛れて声が返ってきた。
「こちら戦車隊に随伴する第31班、状況を知らせます」
戦車隊の随伴ってことは一番前か。
「戦車の機銃をフルに活用しながらゆっくりと前進中、火砲はほとんど当たりませんが敵機銃座が増えてきました!」
陣地に近づくにつれて機銃座の数も増えたか、やっぱり戦車を先行させて正解だったな。
「了解、そのままゆっくりと進め、こちらもすぐ前線に戻る」
「了解!」
そう言って小隊との無線は途切れた。
「急ぐか」
俺はそうぼやき、少し足を進める速度を速める。
俺の周りには、前衛の後受け役である後衛がじりじりと進んでいる、敵が後ろから回り込んできた時、前衛を攻撃させないためだ。
「後衛部隊隊長!」
俺がそう叫ぶと、一人の兵が走って俺の横に立つ。
「これより自分は前線に戻る、後受けの前進速度を少し早め、このまま進んでくれ」
「了解」
俺が指示を出すと、その人は無線機を使って俺の指示を各員に送った。
それを確認して、俺は全速力で走り出す。
前線に急いで、この目で状況を確認しないと落ち着かないのだ。
それからしばらく走り、戦車隊の随伴隊、すなわち最前列の部隊にたどり着く手前無線が入った。
前戦からの報告かと思い、通信を聞く。
「こちら有馬、何か?」
後ろから圧巻の機銃音が聞こえる、さらに言えば、ちらほら火炎放射器の音も聞こえてくる、どうやら相当まずい状況の用だ。
「こちら左翼突入部隊、火砲陣地手前にたどり着きましたが、有刺鉄線と機銃座が邪魔で突入できません! さらに敵は火炎放射器を持っている模様!」
破綻した。
今回は正面から最初に突撃し敵の勢力を集中的に配備させ、開いた側面から咲間長官率いる突入部隊が陣地に侵入、混乱している隙に正面も突入、制圧するはずだった。
だが敵は、側面にもばっちり防衛姿勢を築けるほど勢力を持っていたか。
「正面部隊も陣地に向かっている、合流して突入を目指す!」
「りょう、う、うわああああああ!」
「おい、どうした⁉ おい!」
通信先で火炎放射器の音が聞こえた直後、無線が途切れた。
「畜生! 敵の正確な数が分からない、一体どれだけの機械歩兵がいるんだ⁉」
俺は悪態をつきながら、目線にとらえた戦車の背後に回る。
「通信課!」
「はい!」
俺が呼ぶと、背中に電話を背負った通信課の兵が横に来た。
「全正面部隊に繋げろ!」
そう伝え、あたりを見渡す。
ちらほらと倒れているものもいるが、一様部隊としてはまだ生きているようだ、正面は戦車の機銃で飛び出してきたものは小銃で貫く。
「繋がりました!」
そう言って、俺に受話器を差し出す。
「こちら有馬、全部隊に告ぐ、左翼陣によると敵機銃と有刺鉄線で前に進めないとのことだ。よって作戦を変更、合流してから突入を目指す、俺は先行して左翼の指揮官と合流する、各自の判断で前進する速度を速めよ!」
俺は伝令を伝え終えると、受話器を返す。
「お気をつけて!」
そう通信課の兵は言って受話器を戻した。
「ありがとう、行ってくる」
俺はそう言葉を残して『Ⅳ号戦車』の横をすり抜け、前線へと進んでいった。
「畜生、ひどい有様だな」
俺は戦車の先に進み、目標である火砲陣地の小高い丘にたどり着いた。
しかしそこに人影はほとんどなくまる焦げになった、人間だったものがそこら中に転がっている。
「まだ生きてる奴はいないのか……」
俺は敵の機銃座に見つからないようこっそりと近づいていく、そんな時有刺鉄線の手前で隠れる長官の姿を見つけた。
「しぶとい爺さんだな」
俺はそう言って、長官の隠れる穴の中に飛び込んだ。
「お疲れ、よくここまでこれたな」
「ええ、それはお互い様ですね」
咲間長官は、敵が隠れながら機銃を撃つために掘った穴に、身を潜めていた。
「ほんと、ここからどうするかな」
長官は『89式』を持たず、ハンドガンのグロック18と腰にぶら下げた日本刀だけだ、話を聞くと『89式』は犬に食われたらしい。
そんな状況からどうやって生還したのか是非教えてほしいが、それは生きて帰れたらだな。
「あと二マガしか残ってないですね……」
俺は、ポーチに入ったマガジンを確認する。
『89式』のマガジンが二つ、拳銃が三つと弾薬的には厳しい。
俺は残弾が僅かになったマガジンを抜き、新しいものを差し込む、拳銃は撃ってないから弾薬は減っていない。
「どうやってこの状況を切り抜けるつもりなんですか? 長官」
あたりには火砲の砲弾が一定の間隔で降り注ぐ。
目の前には鉄線で囲われた火砲陣地があるが、一歩でも穴から出たら、機銃弾で蜂巣確定だ。
「いっそ『Ⅴ1』でも撃つか」
そう言って咲間長官は信号弾を構えるが。
「今ここで撃ったら俺たちの直上に落ちてきますけど」
俺の一言に「だよな」といって、再び引っ込んだ。
ほんとは巡行ミサイルで座標を指定し撃ちたいが、あいにくそんな現代武器は持ってきていない。
空母に乗せた二発の『Ⅴ1』を、信号弾を上げたところに落としてもらうほかに、敵に大きな打撃を当てられない。
だが日本が改良した『Ⅴ1』は、信号弾から延びる黒い煙に含まれる砂鉄に反応して落下場所を調整する。
ここから斜めに打つと、黒い煙を辿ってここに落ちてきてしまうのだ。
「有馬」
長官が信号弾を握りしめながら俺の名前を呼ぶ。
「どうしました?」
名前を呼ばれた俺は外の様子を窺うのを止め、長官の方に顔を向ける。
「私がいなくなっても戦線長官としてやっていけるか?」
急に何を言い出すんだ?
「私が教えたことを使って、大和たちが海戦をするときや、陸で戦うときでも、きちんと指揮を執れるか?」
長官は俺の肩をつかみ言う。
「何を言っているのですか?」
「答えろ」
長官の表情は真剣だ、これまで見たことないぐらい。
「……できます」
そう言うと、長官は優しく微笑んだ。
「あの『娘』たちを頼むぞ」
そう言って穴の外に飛び出し、刀を抜き一直線に駆けだした。
「長官! いけない、早まってはだめだ!」
「おおおおおおおお!」
止まらなかった。
刀で鉄線を切り開き、グロックで敵の自動人形を打ち倒す、しかしその体を無慈悲に機銃弾が数発貫いた。
長官の体が鞭打ち倒れこむ。
「ちょうかああああああああああああん!」
長官は倒れこんでも血反吐を吐きながらも手を持ち上げ、信号弾黒を打ち上げた。
数秒後、ボボボと小さいロケットエンジンで滑空する爆弾が、上空にゆっくりと現れる。
長官を助けるために穴から出ようとするが、敵の機銃弾がそれを阻止した。
俺が穴に戻るのと同時に、長官の上空でエンジンが止まり、落下を始めた。
穴の中から長官の最後の瞬間を見つめていた……最後の一瞬―――
―——長官は笑っていた。
「あああああああ、ァ! オェェ」
強烈な吐き気がして、その場にうずくまる。
『Ⅴ1』、それは二次世界大戦中ドイツが発明した無人ロッケト爆弾、一定の場所を設定すると、自動でその場に向かい落下、その場を地獄へと変える。
それを目の前で、今この瞬間俺は見た。
落下地点から炎を噴き上げ、周囲のものを焼き払い、爆風で辺を薙ぎ払う。
土埃が落ち着くと、そこには熱でひしゃげた火砲と、真っ黒になった地面だけが残っていた。
「有馬!」
『Ⅳ号戦車』が近くに止まり、天蓋が開くとそこから航大が俺に手を伸ばした。
「航大……」
「もうすぐここら一体を掃討するための艦攻が来る、同士討ちされる前にずらかるぞ」
作戦計画上『Ⅴ1』を打ち込むのは制圧が終わり、敵の火砲を破壊する時の為に、使用する予定だった物で、『Ⅴ1』を発射すると同時に、艦攻が仕上げをしに来るのだ。
俺は航大に言われた通り戦車に乗り込む。
進軍してきた道を戻る道中、上空を大量の『九七艦攻』が通り過ぎた、その腹には、大量の60キロ爆弾と焼夷弾が抱えられていた。
作戦報告書
カウアイ奪還作戦
総員5203、死者3842、重傷者219健全者1142、咲間啓樹戦線長官死亡
使用WS
戦艦『大和』『武蔵』『長門』『陸奥』空母『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』
護衛艦三隻、米軍側重巡一駆逐三戦艦『アリゾナ』
航空機『零戦』『九七艦攻』『九九艦爆』『Ⅴ1』
上陸から始め、航空基地の制圧、火砲陣地と市街地の制圧にて終了全体的に日本兵の未熟さが目立った。
偵察をおろそかにしてしまったことからの被害と考えらえる、九七艦攻で偵察を行ったが性能不足、艦偵の開発を速やかに行ってもらいたい。
追記、ハワイ島の周辺の警戒態勢を強化するらしい、内容については連合より連絡を
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