第一九話 突撃



「総員! 進め!」


 長官が先陣を切り市街地に突入していく。

 『FD』を振り切り火砲陣地を叩くためだ。

 

 ここで足止めを食らうわけにはいかないので、荷物は輸送車両で運んでもらい、最低限自分の武装を抱え全速力で駆け抜ける。

 輸送車両を襲わせないために、歩兵は囮の役割も果たすのだ。


 『FD』は設定された範囲内で行動停止の命令が下るまで動き続ける、だからいつまで待っても、火砲陣地を取り囲む市街地に配置された『FD』が無力化されることはない。


「止まるな! 進め!」


 すでに数名が焼かれ、切り裂かれ、足を止めている。

 しかし振り返ってはいけない、足を止めれば犬の餌だ。


「畜生!」「shit!」


 俺の耳には、英語日本語かまわず悪態をつく声が聞こえてくる。

 あと少しだ、あと少しで市街地を抜ける、そんな時。


「あ! ああ!」


 俺の部隊の後ろを走っていた兵が燃えた、俺がいるのはちょうど中間の当たり、後方の人員が全滅したのか『FD』の視線を切れたのか分からないが、ここまで来たのは事実だ。


「クソ、もうここまで食い破ってきたか!」


 俺は『FD』に向かって適当に『89式』を撃つ。


「行け! 止まるな!」


 そう叫ぶと、他の兵たちはまた走り出す。

 俺は『89式』を構えながら下がる、無理なことは分かっているがここで時間を稼がなくては。


「クソ!」


 『FD』は俺に向けてとびかかり、ブレードで俺の首を狙う、俺はそれを紙一重でかわし、脚のあたりに『89式』を撃つが。


「やっぱり効かないよな!」


 いちばん装甲が薄いと思っていた足の装甲も『89式』じゃ効かなかった、『FD』は口を開き、火炎放射の準備をする。

 ヤバイ! そう思った直後。


「え?」


 鋭い飛翔音とともに『FD』の首が打ち抜かれた。

 倒れた犬はそのまま起き上がらない、よく見ると首から体につながるケーブルが切断されていた。


「……まさか」


 こんな狙撃をできるやつ、俺の知る限り一人しかいない。

 そいつの姿を探して、市街地の端にある時計台に双眼鏡を向けると、木製のライフルを構える空の姿、その隣には、それを満足そうに見つめるkarの姿があった。


「何してんだあいつは」


 重傷者ベッドにいたんじゃないのか? 俺はそう考えながら、また駆けだした。




 少し走るとほかの部隊と合流した。


 市街地をよけて側面から回り込んだ戦車部隊が先行して重装甲の敵を薙ぎ払い、火砲陣地を攻撃してもらいに行っているのだが、火砲の砲弾はまだ雨のように絶え間なく降ってくる。


「航大、聞こえるか⁉」


 俺が無線で『Ⅳ号戦車』に繋ぐと爆音交じりの声が返ってくる。


「なんだ! こっちは最前線で忙しいんだが!」


 『Ⅳ号戦車』は、戦車部隊の先導者パスファインダーとして最前線を走る、忙しいのはごもっともだ。


「火砲陣地にたどり着けたか⁉」

「たどり着けてたら、そっちはそんなに忙しくないだろう! 野砲団体に足止め食らってんだよこっちは! おかげであと4500m地点から一歩も動けねえ!」


 なるほど、市街地に野砲がなかったのはこっちにまとめていたからか。


「いくつだ⁉」

「多分、十前後!」


 多いな! どんだけため込んでたんだ……。


「分かった! 航空支援を要請するから、あと三分耐えろ! 支援が終わったら、続けてくれよ!」


 そう言って通信の相手を、空母に切り換える。


「航空支援、座標4、5、4、1、目標野砲! 対空砲火注意!」


 火砲陣地から4500m、砲弾は来るだろうが、機銃弾はほとんど飛んでこないはず、航空支援を要請しても問題ないよな……。


 そんなことを考えながら再び足を進める、敵歩兵はほとんど襲ってこない、来るのは無造作に降り注ぐ砲弾の雨と自動人形による自爆特攻、機銃掃射だ。

 犬と違い自動人形の装甲は薄く、さほど賢くないため打ち破ることは容易、だがあくまで銃を撃つことはできる。

 たったそれだけの動作ができるだけで、簡単に人は殺せるものだ。





「おい! 各カード、まだ生きてるか!」


 俺は野砲に向けて砲弾を発射しながら無線を繋ぐ、スペード、クローバー、ダイヤは、すぐに返事が返るが。


「おい、ジョーカーとハートはどうした⁉」


 俺が、爆音に負けじと声を張り上げ聞く。


「ジョーカーは火砲に、ハートは野砲にやられました!」


 スペードから返事が返った、これで残りは、俺達含めて三輌だ。


「ダイヤよりプレイヤーに、後ろより航空機八機接近!」


 航空支援が到着したようだ。

 俺は後ろに双眼を向け、どれだけ爆弾を持ってきたのか確認する。


「『九九艦爆』が三機で……それぞれ60キロ二つと250キロ一つ、『九七艦攻』六機で……60キロ六つの奴と800キロ一つの奴で分けたのか」


 これだけあれば完全に野砲は沈黙してくれそうだな。


「プレイヤーより各カードに、航空支援が終わったら、全力で野砲をぶっとばせ!」


 俺がそう無線を入れると、正面に小さな60キロ爆弾が降り注いで砲を黙らせる。

 そこに追い打ちをかけるように250キロ、800キロが野砲を吹き飛ばし、あるものは弾薬に当たって誘爆を起した。


「戦車前進!」


 指示を全車両に出し、ダメージを受けた野砲を叩く、もうさっきほどの砲弾は飛んでこなかった。

 ただ、空から襲う砲弾の雨は止まないようだ。


「どうせなら空から叩いてくれよ」


 俺がそうこぼすと、Ⅳ号が戒めるように言った。


「敵の火砲陣地の対空砲火は盛んだ、艦上機のみで攻撃するのは損害が多すぎる」


 俺は、へいへいと頷き顔を上から出す。


「うへー、ひでえありさま……」


 あたりは俺たちが打ち込んだ砲弾と、空からの爆弾によって吹き飛ばされた機械の腕や頭、足が散乱している。

 これが人だったらと思うとぞっとする。


「さて、あと4500m進むとしよう」


 野砲が止んだことで、後からちらほら味方の歩兵も出てくる、俺たちは火砲を避けながらまた前進を始めた。





「なあⅣ号」


 俺は車体前部につく機銃を構えながら聞く。


「なんだ」


「子供が人を殺すこと、子供が殺されることが、そんなに悪いことなんだろうか?」


 俺は聞く。

 俺の目線の先にはMGになぎ倒される自動人形、もしこの兵たちが俺と同い年ぐらいの兵だとしても俺は引き金を引ける、その自信がある。


「もしそれを肯定してしまったら、大人が人を殺すことを許しているようになる」


 そうⅣ号が言う。


「つまりどういう意味だ?」


 何が言いたいのかよくわからず聞き返すと、Ⅳ号は冷たい声で、しかしどこか悲しげな声で言い放った。


「人を殺すのは私達兵器だけで十分だ、それを操る人も、人同士で戦うことも必要ない、人が人を殺すことは間違いだ」


 Ⅳ号は、どうも反戦思想が色濃い気がする、まあべつに悪いとは思わない。


 俺は肯定も否定もせず、機銃を撃つことに集中する。

 そんな時、『Ⅳ号戦車』の隣を有馬が走り抜けていった。


♢  ♢  ♢  登場兵器紹介・味方  ♢  ♢  ♢

車輌名:『Ⅿ4A2シャーマン』 車種:量産中戦車  

所属:ビッグアメリカ


全長:5.84メートル   全幅:2.6メートル 

全高:2.67メートル 最大速力:38キロ 


搭載エンジン:GM6046複列12気筒ディーゼル 450馬力

    主砲:37.5口径75ミリ戦車砲M3 一門

  同軸機銃:12.7ミリ重機関銃M2・一丁

    副砲:7.62ミリ機関銃・一丁


 現在アメリカが量産しているWSの中戦車、後々にはA3に変えるつもりらしく、A2はそこまで大量に作られているわけではない。自動化を大きく取り入れているため、一人ですべての操作を行えるようになっている。試験目的のため、あえて自動操縦にはなっていない。

♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢

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