第一八話 決断
俺は前線の基地まで戻ってぽけーっと、空を眺めていた。
次の作戦は30分後、その作戦でこの島の上陸作戦が終わり、今回の作戦にけりが付く。
「問題なのはここ、敵の本拠地手前にある有刺鉄線群、ここで足止めを食らうと機銃掃射で全滅だ」
そこで戦車の出番なんだが、無論敵もそれを警戒して対戦車地雷があるだろう、そこでこれを使う。
「航大、爆芯の準備できたか?」
爆芯、爆発撤去用鉄芯、時限式で爆発する棒を前方に射出し、埋まっている地雷や障害物をぶち壊す。
それをⅣ号戦車に装備してもらい、地雷と有刺鉄線を除去してもらう、ただその先は入り組んだ市街地で戦車の動きが鈍るため、突入は歩兵のみで行う。
「ああ今終わった、ずいぶん無理くりの装着だが一様使えるはずだ」
本来、Ⅳ号のような車体が三角形に近い戦車では爆芯は乗せないのだが、今回は特例で無理やり括り付けた。
「そろそろ時間だ、位置につきたまえ」
咲間長官が通信で言う、長官はすでに第一偵察部隊を指揮して前線にいる。
「野砲は見えましたか?」
「現在捜索中だがまだ見えていない」
まだ発見できずか……少し危ないな……。
「了解です」
そう言って、通信を切る。
戦車にとって野砲は命取りだ、見えない死角から大口径の砲弾を撃ち込まれれば、たとえ重戦車でも一発で行動不能になる場合が多い、それに野砲は数人で簡単に移動させられるから厄介なのだ。
「航大、野砲に注意しながら戦車前進」
俺が言うと、ゆっくりと『Ⅳ号戦車』の履帯が回り前に進みだす、その後ろに歩兵隊が列を作って進み始めた。
しばらく進むと白い建物が見え始める、カウアイの市街地だ、まあ正確には市街地だった場所だが。
戦争が始まり、アメリカは二次大戦の真珠湾攻撃のような過ちを起さぬよう、ハワイ島の住民を本土に避難させた。
おかげで今ハワイは、完全な軍事基地として活動している。
「戦車を先行させる、全員ゆっくりと俺の後ろから続け、戦車が入り口を制圧したら突入するから合図を待て」
俺は後ろの全員に伝え、航大に合図を送る。
そうすると『Ⅳ号戦車』が草原を抜け、市街地入り口に立つ、その瞬間敵も気付いたのか機銃を撃ち始める。
しかし戦車の装甲に7、62ミリの機銃は意味がなく、12、7ミリの機銃は、多少の打撃を与えるだけだ。
一度、『Ⅳ号』は砲撃を行い、機銃を少し黙らせる、その隙に航大が中でスイッチを押し爆芯を射出、爆破する。
盛大に火花を散らし鉄線が砕け地雷が誘爆する、それにつられて後ろの機銃群も、しばしば数を減らす。
爆発が落ち着いたところで、二本目を撃ちだす、それを航大は五回繰り返した。
「敵の機銃沈黙、もういいぞ」
航大からそれだけ無線が入る。
俺は後ろに合図を送り、一斉に駆け出し市街地に突入した、予定通り三部隊に別れ右、左、中心から市街地の中心に向かう、俺は中心の部隊を引き連れて奥に進むと。
「右翼接敵!」
俺は無線を受け取り、指示を出す。
「全員突撃!」
できれば接敵せずに本陣に突入、突破したかったが敵に見つかった以上こそこそする必要はない、まっすぐ突っ走り本陣を叩くだけだ。
右から銃声が聞こえだした、どうやら銃撃戦が始まったみたいだ。
「突入!」
そう叫ぶと同時に、衝撃を受けるとすぐに爆発する、衝撃手榴弾を敵陣地に投げ込み土塁を乗り越える。
左側からは咲間長官の率いる偵察隊と、左翼部隊が突入を開始した。
陣地に入ってまず、敵の数をざっと数えてみるが……40前後とかなり少ない、ならば、俺たちの70人小隊で抑え込める、増援を呼ぶ必要はないな。
「機銃を優先して叩け!」
それだけ言って俺は駆けだした、他の兵たちは各自で発砲し敵を殲滅する。
俺が向かうのは基地の中心、ここの現場を指揮している人物の元だ。
「どけ!」
俺は、テントの周りに立っていた兵を『89式』で撃ち無力化、そのままテントの中に侵入すると、金属の右手が俺に向かう。
「死ね!」
俺はその腕を『89式』で受ける、そこに人間の腕で俺の脇腹にストレートが入る。
「ぐふ!」
俺は腹を抑え後退る。
その時初めて敵の全体が見えた。
機械のメカメカしい右腕、黒い士官服で胸にボルトとネジが一本の紋章、下級士官の証拠だ。
「若僧が」
その士官は俺に拳銃を向ける、癖でその銃の種類を見極めようと見つめそうになるが、 現状を思い出し顔をそらす。
その瞬間に、俺の頬を弾丸が掠める、その時ちらりと銃のグリップが目に入った、グリップにつく星を中心に円のマーク……トカレフシリーズか……いや、今はどうでもいいんだが。
俺は左に体を倒したタイミングで、腰から『9㎜拳銃』を抜く、流れるままに安全装置を外し、敵に向けて二発発砲、一発が敵の肩をかすめる。
「うっ」
敵はかすかに呻き再び銃口を向ける、しかしその時すでに俺は引き金に手をかけていた。
敵が発砲するよりも早く撃つ、撃ちだされた弾丸はまっすぐ直線を飛び、敵の頭を貫いた。
「いててて……」
俺は殴られた脇腹をさすりながら敵のトカレフを取り上げる。
「う~ん、これは『TT34』か?」
俺は暫くその銃を見つめていたが現状を思い出し、その銃を机に置く。
「おっと、こんなところで油売ってる場合じゃないな、さっさと書類を処分しないと」
俺は敵の資料や通信機材が置かれた机の上に、発火用ダイナマイトを仕掛け、テントを出る、銃声もまばらになり、制圧はほとんど完了した、今頃はダイナマイトが爆発してテントもろとも燃えてることだろう。
「お疲れ」
咲間長官が俺の後ろから声をかける、俺はその声に言葉を返そうと後を振り返る、その一瞬であたりが火の海へと変わった。
「うああああああ!」
陣地の入り口付近にいた兵が燃えている、その後ろには。
「畜生! 『FD』だ!」
咲間長官はそう叫ぶ。
『FD』ファイヤードッグ、WASが作り出した無尽蔵殺戮兵器、背中にタンクを背負い、口につけた火炎放射器と足についたブレードで人間を殺す、見た目が犬に似ていることからこの名前が付けられた。
「熱い! 熱いいい! ああああああぁ!」
体に火が付いた兵は地べたを転げまわり、首をかっ切られた兵は何も言わず崩れ落ちる。
「見た感じ、五匹か」
俺は、走って海岸側へ向かう途中で数を数えた。
数名の兵がやけくそで、『89式』を犬に向けて放つが簡単にはじかれ、すぐに火炎放射器のお返しが来る。
表面は特殊な金属板で作られているので5、56ミリレベルじゃ簡単には抜けない。
「この野郎!」
一人の兵が、手榴弾を投げ込む。
「馬鹿! やめろ!」
俺が叫ぶが、その兵の手から手榴弾は離れ犬の足元に転がる、それをみた瞬間、犬は目の色を変え、それを口に咥え射出した。
「ああああ!」
撃ちだされた手榴弾は、投げた兵の足元に戻り爆発した。
あの犬の口は万能なもので、火炎放射をすることもできれば、相手に噛みつくこともできる。
そして何より厄介なのが、グレランを撃てるということだ、口の中で圧縮した空気を使って手榴弾を飛ばす、その手榴弾はもちろん、敵が投げた手榴弾も飛ばしかえすことができるのだ。
転がる死体をそのままに、俺達は必死に市街地から撤退した。
「一体、何人死んだ」
俺はそう言って、医療テントに寝転ぶ負傷者を見る、圧倒的に負傷者の人数が少ない、皆即死だったからだ。
『FD』の運動神経はもちろん機械のため普通の犬よりも高い、人間の走るスピードには簡単についてくることができる。
燃やされた者、首を切られた者、投げたグレネードを投げ返された者、死に方は様々だ、実に気分が悪い。
「先行部隊70人中死者48名、重傷者13名、今動けるのは9名。遅れてきた制圧部隊600人中死者21名重傷者29名。動ける人は550人とまだ到着していなかった1318人です。一様予備援軍として600人の人員がこちらに向かってきています」
上陸の時に死んだ人も合わせると、81人死亡、今動けるのは2468人、二次攻撃隊の人数が約2700か……。
「有馬、いったん見直そう」
咲間長官はカウアイ島の地図を広げる。
「まず、現在位置の海岸がここ」
青で印をつけ、人員の駒を置く。
「そして中間地点の航空基地がここ」
また青で印をつける、そして戦車に待機してもらっているので青い戦車を示す駒を置く。
「そして『FD』が発見された町がここ一帯」
赤で印をつけ、歩兵の駒を置く、居るのは人ではなく犬だが。
「で、問題なのがここだな」
黄色で印をつけ、火砲を示す駒を置く。
「まさかこんなものを隠していたなんて考えもしませんでしたね」
『FD』の領域から逃げ出せ、皆の気が緩んだ撤退途中、どこからともなく降り注いだ砲弾で死傷者を増やしてしまった。
空母で偵察機代わりに使用している『九七艦攻』によく探してもらった結果、火砲軍で囲われた本陣と思われる場所を発見した。
「ほんと、失態だったな」
長官は頭を掻きながら言う。
確かに最初からもっとよく偵察し、見つけておくべきだった。
いつの時代でも日本は作戦実行中偵察を疎かにしてしまうのか? 慢心、ダメ、絶対、だな。
「それで、どうやって叩きましょうか」
俺が聞くと長官はうーんと悩む、俺も考えてみるが……。
「空襲か正攻法しかないが……」
偵察機の情報によると、火砲陣地の周辺は対空火砲が豊富なので、低空での爆撃は難しい。
しかし高高度から狙うには陣地が小さすぎるとのことで、空襲は余り有効ではない、どうやら配置的に考えても、真っ直ぐいってぶっ飛ばすしか道はないみたいだ。
「……何人死ぬんですか?」
俺が言うと、長官は口を開く。
「ざっと3000人近くは、死ぬ覚悟をした方がいいかもしれないな」
つまり二次攻撃隊も巻き込んで総突撃し、敵地を占領すると?
……作戦とはけして言えない、まるで二〇三高地だ……時代が変わっても、戦い方の根本的な部分は変わらないのかもしれないな……。
「明日の朝に仕掛けるぞ」
「了解」
俺と長官は、そこで分かれた。
現在、8月25日、18時12分、今回の作戦は、いったん終了となった。
「諸君、非常に辛いお知らせだ」
長官が全兵を並べ、今回の作戦を話す。
「今回の作戦で、おそらくここにいる半数が死ぬ、それは免れない事の用だ」
現在、8月26日、08時30分、総突撃の20分前だ。
「しかし、ここでの活躍を諸君らが上げることでハワイ諸島を救い、日本本土への攻撃を防ぐことができる、それを頭に入れ戦ってもらいたい……覚悟はいいな!」
最期の一声に、周りの兵たちが雄叫びを上げる。
それは気合を入れたのか、死の恐怖から目を背けたのか……。
軍に入る時、面接、アンケート、試験すべてで同じ質問項目がある、
それは―――――
『日本のために、死ぬことはできますか?』
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