第一二話 新たな仲間

 そうこう言っている間に、『大和』より少し離れたところに錨を下ろしていた、『明石』にたどり着いた。


「おーい、明石ーいるかー」


 俺が呼ぶと、目の前に薄い光を放って現れた。


「にゃ、呼んだかにゃ?」


 あくびをしながら首をひねる明石。

 俺はそんな明石の前に、圭を差し出す。


「こいつを預けに来た」

「どうも、浅井圭です……よろしく?」


 そう言って圭を明石の方に寄らせる、圭たちには声しか聞こえていない。

 明石は圭の姿をまじまじと見つめ言う。


「ほほん、人手が増えるのは大助かりにゃ」


 そう言って、明石は圭に言う。


「圭には『明石』艦内の医療施設を任せるにゃ、明石の声が聞こえたら、心の中で返事をするにゃ、そうすれば明石にだけ聞えるにゃ、その時は明石の指示を聞いてほしいのにゃ」


 圭は「了解ですっ」といって、『明石』に乗り込む。


「有馬さん、僕頑張りますね!」

「おう、しっかりな」


 そう俺は言葉を返し、明石の姿が消えたのを見て、隣の輸送船に車を走らせる。





 次は航大の戦車、メモには米軍の輸送船に入っていると書いてあったが……。


「ここだな……」


 俺は倉庫を開ける、すでにこの輸送船に乗っていた米兵には、確認を取った。


「「……なんで米軍戦車じゃねえんだ」」


 俺と航大は、その戦車を見て首をひねる、そこにいたのは、であるPzⅣ、多目的支援戦車『Ⅳ号戦車』だった。

 おっかしいなぁ~この輸送船は、米軍のものを輸送しているはずだから、てっきり、米軍主力の『Ⅿ4シャーマン』や『Ⅿ26パーシング』が乗っているものと思っていたのだが……。


「さっき聞いてきたけど、どうやらドイツにジェット機を売ったお返しに、この戦車と資金をもらったらしいよ」

 

 お返しでこの戦車、WSを渡していいのかドイツ……いや、今はか……。


「ん? 誰だ、貴様らは」

 

 『Ⅳ号戦車』の上に人影が見える。

 大戦中のドイツ軍長官服セットで頭から足先までそろえ、少し白っぽい髪が帽子から延び出ている。


「もしかして、Ⅳ号戦車か?」


 俺が声をかけると覇気のこもった鋭い目で、こちらを見つめる。


「ああ、まあそういうことになるな」


 そう答えたⅣ号戦車のもとに、航大を向かわせる。


「あなたの乗員になる人を連れてきました」

「ど、どうも坪井航大つぼいこうだいです」


 そう言って航大は『Ⅳ号戦車』に近づくと、Ⅳ号戦車は、今度は航大に鋭い視線を見つめる。

 その目は真剣であり、どこまでも見透かすような目をしていた。


「少し話をしよう、乗れ」


 そう言われ、航大が戦車に乗り込む。

 そう言えばⅣ号戦車は、俺が姿を見えたことについて何も言わない、クロイツではもうすでに姿が見えるようになっているのだろうか?


「この少年は預かっておこう、後はこの少年次第だ」


 そうⅣ号戦車は言った後、車内に入ったが、最後に一言付け加えた。


「私の事は『Ⅳ号(フォース)』と呼べ」

「あ、はい了解です……」


 呼び方にこだわりあるんだなぁ。





 俺と空、吹雪はまたまた車を走らせ、次は『赤城』に向かった。


 『赤城』はこの後オワフに向けてすぐに出港するため、東側に錨を下ろしており、『大和』はまだ補給中の為、物資倉庫が設置されている南側に錨を下ろしている。

 そんな『赤城』の甲板には、深緑の羽を生やす航空機が佇んでいた。


「『零式艦上戦闘機』……これは五二型だね」


 吹雪は、機体に触れながら言う。

 その言葉に反応したのか、コックピットが一瞬光り、中から一人の少女が降りてきた。


「初めまして、有馬さん、吹雪、空」


 そう言って出てきた少女は、大正時代のような振袖で、袖は羽と同じ色。

 こげ茶色の短い髪を、鶴の飾りがつく髪飾りで後ろに縛る、首元には、季節はずれの、やや黒っぽいマフラーを巻いている。


「君が零戦か」


 『零戦』の少女は、静かに頷き、甲板の木と草履の擦れる音を響かせながら、こちらに歩み寄る。


「これからよろしく吹雪、長官から話は聞いてるよ」

「うん、よろしくね」


 この二人はすぐに馴染めそうだな……でも何故だろう、吹雪の顔が見たことないぐらい穏やかな顔をしている、声に馴染みがあったのだろうか?


「有馬さんですね、私は『零式艦上戦闘機』通称『零戦』です、『ぜろ』でも『れい』でも、お好きなように読んでください」

「分かった、なら『ぜろ』と呼ばせてもらうよ、これからよろしくな」

「こちらこそ、力を尽くさせていただきます」


 そう言うと、零は姿を消した。





 俺は残った空を車に乗せ、本土から来た高速輸送船『ハヤブサ』に向かった。

 この艦はカウアイ占領の報と同時に、本土の陸戦隊を乗せて、ミッドウェイに来た輸送船だ。

 最速は40ノット以上出るとさえ言われる高速性で、護衛なしでここまで跳んできたのだ。


「これか……」


 俺は武器庫の一番奥にある一つのケースを開ける。


「『Kar98k』」


 大戦中のライフルの中でトップクラスに知名度が高く、最初から最後まで、ドイツの戦線を支え続けたライフルが仕舞われていた。

 

 この銃は、さっきの『Ⅳ号フォース』と同じく、ドイツのWSだが、日本がクロイツとの技術交流を行った際、記念品として一丁譲り受けたものだ。

 同じ理由でkar以外にも『Ⅴ1』を譲り受け、国内で多少手を加えて量産している。

 空は兵器の腕はそこまでなので、銃器のWSのパートナーにしてもらったらしい。


「あ? お前たち、誰だ?」


 強い口調で現れた赤髪の女性は、Ⅳ号と似た士官服を着ている。

 だが、上は腕を通さず羽織っていて、下には真っ白いTシャツを着ている、目は髪の赤に少し黒を足したような色だ。


「『Kar98k』か、君の主を連れてきたぞ」


 そう言って、空を前に出す。

 空も姿が見えていないはずなのに、姿が在る方向をむく。

空のことだから、音がどこから出ているかで姿がどこにあるのか判断できるのだろう、前にそんな話を聞いた覚えがある。


「私は雨衣空、よろしく」


 Kar98kは皆と同じように、空の目をじっと見つめる。


 さっきから皆、人の目をじっと見つめてから受け入れている、WSには人間の目で何かが判断できるのだろうか?


「なかなか筋がありそうだ、よろしくな!」


 空はその返答を聞いて、すっと銃を持ち試しに構えてみる。

 数秒経ち。


「おお……良い!」


 何かに納得したのか『Kar』の構えを解き、ライフルケースにしまった。


「私の事はそうだな……『kar(カル)』と呼ぶと良い!」


 元気良いなぁ。

 そう思いながら、俺は空を連れて『大和』に帰った、もうすでに空母は出発しているので、吹雪と零はもう戦地に向かっているはずだ。


「空、俺たちもいい加減、準備しに行くぞ」

「ほいほーい」


 そんな適当な返事が返ってきた。





 丸一日、艦隊はカウアイ島に向けて進み、夜明けとちょうどに先行している空母たちの艦載機が発艦準備を始める。

 

 まだ少し薄暗いが、全員持ち場についている、後は空母部隊から準備完了の連絡を待つばかりだ。

 連絡が来れば、今すぐにでも上陸部隊は微速から全速に切り換え、島へ直行する。


「伝令! 『赤城』から『大和』へ、我、攻撃隊発艦準備完了、攻撃要請求ム」


 艦橋にその声が響くと、航海長が大きく叫ぶ。

 その声に、長官組と俺は顔を引き締め、頭を戦争に切り換える。

 今から向かう場所は戦地、人が死ぬ場所だ。


「両弦前進全速!」




 それに続けて、咲間長官は口を開く。




「作戦発令! ニイタカヤマノボレ〇五二〇」




 意味は、空襲を決行せよ、05時20分。


 現在8月26日、05時20分、あの時と同じような形で、カウアイ奪還作戦が、決行された、あの四隻の空母にとっては少し複雑かも知れないが……。

 だが、再び戦争を始めるということで、戒めを込めてこの言葉を使い、戦いを始めることを咲間長官と決めたのだ。

 百年前、日本にしてになるはずだった戦争を始めた、

」を使って。


♢  ♢  ♢ 登場兵器紹介・味方 ♢  ♢  ♢

機名:『零式艦上戦闘機五二型』 機種:艦上戦闘機  所属:桜日国


  全長:9.1メートル   全幅:11メートル 

最大速力:565キロ  航続距離:2,560km


搭載エンジン:栄三一甲エンジン 1100馬力

    武装:機首/九七式7.7ミリ機銃・二丁

       翼内/九九式20ミリ機銃・二丁

    爆装:30キロ爆弾×2

       60キロ爆弾×2


 日本が誇る、格闘戦最強の軽戦闘機。徹底的に無駄をそぎ、肉抜き骨抜きをした結果、莫大な航続距離を得た。しかし防弾版などの防御機能が皆無なため、当たれば即ち死と同義となる。WSとして復元し、三菱が量産しているが、基本は自動操縦装置を搭載し、AI操縦機となっている。

♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢

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