第一一話 作戦準備

 俺はまたもや『大和』の作戦室にいる、カウアイ、ニイハウ奪還作戦の内容を、俺と咲間長官、コルトさんで、詳細を決めているところだ。


「空襲による奇襲はもちろんとして、どうやって海岸の砲を完全に黙らせるかだな」


咲間長官は、地図を指さす。


「まあ、艦砲射撃しかないだろうな、こちらは人を乗せる輸送艦が少ないから、人員用のボートが足りない、そこで戦艦から人を陸に上げるとすれば、艦砲射撃をしながら近づき、戦艦に無理やり乗せた舟艇で強行上陸を決行する、これでいいか?」


 作戦方針はこうだ、まず空母四隻を主力とした機動部隊で奇襲をかけ、威力偵察を行う、必用があれば二次攻撃で砲台や基地を叩く。

 その後、『大和』旗艦とする上陸部隊で強行上陸を決行、上陸を完了したら、後衛に配置する戦艦とともに近海の制海権を握る。

 必要であれば、さらに艦砲射撃を続行する。

 

 ただ、ニイハウは情報にもよるが、空襲、艦砲射撃で沈黙させ、身柄の確保にだけ三小隊を向かわせる、ニイハウは部隊が大規模に展開できるだけの島ではないからだ。


「陸での作戦指揮は私と有馬で行う、その間艦隊の行動計画はお任せする、コルト長官」

「ああ、わかっている」


 その言葉を受け取り、コルト長官は作戦室を後にした。

 出港まであと二時間、艦の乗員に作戦を伝えに行くのだろう。


「さて、私も久しぶりの実戦だ、準備運動しておくか」


 咲間長官は生き生きと言う。


「え、まさか前線で指揮をするつもりですか? 長官、確か少将ですよね?」


 この人確か、50過ぎだった気がするんだが……つかそもそも久しぶりの実戦って何?


「ああもちろんだ、、部下を導かねばならん、少将になったからと言って、前線から引くつもりはない」


 そう言って、咲間長官は壁にかかっていたを持ち出す。


「それに、戦線長官の正式名称は戦術的作戦思考及び最前線管理長官、最前線の管理は、自らがその場にいないとできないからな」


 軍の総合本部も、無茶な役職を作るもんだ……。


「はぁ、死なないでくださいよ?」


 咲間長官は「もちろんだ!」と言ってはいるが……心配だ、頼むから無茶しないでほしい、ただでさえ将クラスの人間が不足しているのに、ここで死なれても困る……。


「有馬君、居るか?」

「はい?」

 

 作戦室の扉が開き、凌空長官が入る。


「何か御用でしょうか?」


 俺が聞くと、テクテクと後ろから四人が入ってくる、航大、圭、空、吹雪だ。


「え、なんかしたの? お前ら」


 俺はみんなの顔を見渡す、怒られている雰囲気ではない。


「WSのことを、君の分隊の子たちにも話した」

 

 え、なんで。


「そんな軽い情報だったんですか、WSについては……」

 

 俺がそう呆れ気味に聞くと、凌空長官は笑いながら答える。


「いや、流石にWSの情報を知っているのが私達だけだと指揮が難しいので、君の部下にもWSのことを話し、パートナーになってもらうことにした、これで348部隊は、WS専属の部隊ってことだな」


 満足そうに満面の笑みでそんなこと言われても……。


「なに、いずれほかの兵にも話していく予定だったから別に構わない、それに君の分隊は異端児だから問題ないだろう、なんせあのを解決した訓練兵達の部隊だからな」


 ……久しぶりにその名を聞いた。

 長野占領事件、長野県の山奥にWASの基地が発見され、そこからWASが撤退するために長野県の一つの町が占領された時、誰一人として死人を出さず人質を解放し、敵を鎮圧した部隊、それが俺たちの部隊である、348部隊だ。

 

 俺達含め数個の訓練部隊は、遠征訓練で、たまたま長野の山奥にこもっており、占領された時、いることに気付かれていなかった。

 そんな中、警察にWASが逃げないよう牽制してもらい、自衛隊軍が到着するまで訓練部隊は手を出すなと言われていた。

 しかし俺は348部隊単隊で、WASの立てこもる建物に突入、制圧したのだ。

 基本年齢17歳の若い分隊、しかも訓練部隊が行ったことに日本が衝撃を受けた。

 俺は、その時軍が来るまで待っていてはWASが逃げてしまうことに気づき、遠征時の長官の目を搔い潜って突入を決行したのだ。


「あれは別に、WSには関係ないじゃないですか……」

「細かいことは気にするな、それぞれWSのパートナーに定め、そこの班長になってもらうことにした、空君は歩兵、航大君は戦車、吹雪君は航空機、浅井君は衛生班だな、勿論、それに合わせて階級も底上げしてある、心配するな」


 凌空長官はそう言って俺にメモを渡した。

 空の歩兵と圭の衛生課は納得、航大は工業大で、車のエンジン整備をやっていたらしいから、勝手が近い戦車を選んだのだろう。

 吹雪に関しても、航空機が好きなのは昔から知っていたので、特段気にかかることはない自然な配置だった。


「連れていってやれ」


 俺は深いため息をつき、四人を外に連れ出した。




 陸に降りてすぐにあるホンダの普通車に乗り込んだ、軍人になる時俺は、何かと便利なので普通車と中型バイクの免許を取った。


「さてお前ら、階級結局どうなったんだ?」


 俺が、車を運転しながら聞く。

 みんな、やや複雑そうな表情で俺の言葉を聞いていた。


「私は変わらず、航大、吹雪が中尉、圭が少尉になったよ、之で皆、小隊ぐらいなら指揮を取れるよ」


 空が言う。

 空はまあいいとして、三人は指揮の勉強してないけど大丈夫なのか?

 

 ……まあ大丈夫じゃないからみんなこんな表情なんだろうなぁ。


「これで有馬は私たちの前でも、WSと会話できるようになったからいいじゃない」


 吹雪が茶化すようにそう言った。

 まあ確かに、一人にならなくともWSと会話できるのはありがたいが……なんだか、自分だけの特権を持っていかれたようで少し残念だった。


「そうそう、俺たちに隠し事はよくないぜ」


 航大が親指を立てる。


「まあ、この分隊は巻き込まれ体質ってことですよ、有馬さん認めましょう」


 圭までもが言う。

 なんでこの部隊はこんなに軽いんだ……最初に聞いた時疑わなかったのか? 普通に考えておかしいだろ、WSの存在なんて。


「お前らなぁ……」


 俺は、自分の分隊の適応力の高さに感心すると共に、巻き込まれ体質という言葉に納得してしまい、改めてため息をついていた。

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