第一五話 橋頭保確保

「ばっくしゅん!」


 俺、坪井航大は『Ⅳ号』の中で盛大なくしゃみをかました。


「どうした? 風邪か?」


 Ⅳ号が言う、別に風邪は引いてないと思うが何となく寒気がした。


「なんでもない、仕事はきちんとするさ」


 俺たちは有馬たち上陸部隊の通信で、現在指定ポイントKに向かっている。


「目標は敵航空基地の制圧だったな」


 Ⅳ号がさっき聞いた目標を復唱する。

 今回の作戦は敵航空基地に潜入、ひたすら歩兵と航空機をつぶし、味方が進軍しやすいようにする。

 おそらく敵航空機と戦車の追撃を受けるから、そこは何とか頑張れと。


「ま、なんとかなるだろう」


 俺はそう言って足を延ばす。

 操縦は全てⅣ号が、砲撃関連は俺がやるので乗組員は一人だけだ、中はそれなりに広い。


「プレイヤーから各カードへ、ちゃんとついてきてるか~」


 俺が無線で五輌の戦車に聞くとそれぞれ返事が来る、ちゃんとついてきているようだ。

 俺は天蓋を開け、後ろを確認すると、確かに五輌は縦一列で俺の乗る『Ⅳ号戦車』に並んでいた。


「ん? なんの音だ?」


 俺は不審なエンジン音を聞き、正面を見る。


「お! きなすったか」


 俺は急いで車輌内に入り、無線を繋ぐ。

 今の無線は、自動でその車輌に適した言語に変換される仕様だ、便利だよなぁ~。


「こちらプレイヤー、敵機正面二機! 爆装してるからな、気い抜くなよ!」

「「「「「了解!」」」」」


 そう声が返ると同時に、正面から機銃掃射が襲った。

 金属を叩く音が聞こえた後、エンジン音が遠ざかって行った。


「まだ来るぞ!」


 Ⅳ号が叫ぶ、俺はもう一度天蓋を開け上部に着いた機銃を航空機に向かってぶちかます。


「墜ちろ!」


 多分絶対、ほぼ百パーセント当たらないと思うが。


「無駄なことをするな、死ぬぞ」


 ずいぶん冷静だな、まあ戦車からしたら日常茶判事か。


「へえへえ、すいやせん」


 俺は引っ込んで天蓋を閉じ席に着く、もう一度エンジン音が聞こえるが、今度は機銃の音が聞こえない、ということは……。


「爆弾来るぞ!」


 俺は無線で伝え、衝撃に備える。

 少し離れたところに爆弾は着弾し、小さな土埃を巻き起こす、爆発の大きさからみて60キロ相当の爆弾だ。

 そんなことを考えているとあと一発も外れ、戦車隊は無傷で切り抜けた。


「やはり、戦闘機の暖降下爆撃は命中率がよくないな」


 Ⅳ号は冷静に分析する、流石歴戦の戦車だな。

 だがまあいくつか言えるのは、まだ倉庫にそれほど敵機はいない、爆弾の補給が届いていない、戦闘機しかいない、だろう。


「目的地まであと数分だ、気を引き締めていこう」


 俺は座り直し戦車に揺らされること数分、敵の基地であるK地点にたどり着いた。


「来た来た、さあ仕事の時間だ、プレイヤーよりスペードとダイヤに、敵歩兵を警戒しつつ倉庫を破壊、プレイヤーよりクローバーとハートに、滑走路を破壊しろ、プレイヤーよりジョーカーへ、プレイヤーと敵戦車を警戒する、行動開始!」


 それぞれ行動を振り分けはしたが、結局全部『Ⅿ4A2シャーマン』中戦車で、魂は入っていないWSだ、誰がどの仕事をしても特に問題は無い。


「ジョーカー、滑走路周辺を回って、敵戦車を発見したら発砲しながら滑走路内に逃げろ」


 いったん無線を切り倉庫の裏に移動する。

 ここらは森林が切り開かれて基地にされたように見えるが、周りは手付かずなのか木が多い、奇襲されないよう細心の注意を払わないと。




「敵車輌は……まだ見えないな」

 

 Ⅳ号がぽつりと言うが、後ろで、装甲が徹甲弾を弾く独特の音が聞こえた。


「行くぞ!」


 Ⅳ号は急反転し、基地の中心に向かう。

 そこではジョーカーと、滑走路を破壊していたクローバー、ハートが敵戦車三輌と撃ち合っていた。


「敵車輌は中戦車二と重戦車一だな」

 

 俺は、敵の車種を確認し、砲塔のスコープを覗く、よくボディーを見てみると、型番号が振られていたため、量産型の戦車だと分かった。


「タイミングがきたら撃っていいぞ」


 Ⅳ号から声が聞こえ、俺は引き金を引く。

 発射された砲弾は重戦車のすぐ近くに着弾し、微妙な音と土煙をたてる。


「プレイヤーより全カードに、俺が重戦車を引き受ける、三輌で中戦車二輌を頼む」


 返事はないが、三輌の砲撃が中戦車に殺到しタゲを引き受ける。

 そうすると残りの重戦車は予想通り、単機になったこちらに砲塔を向ける、ぱっと見、砲サイズはそこまで大きくない。


「覚悟は良いな!」


 Ⅳ号がスロットルを最大まで飛ばし、敵車輌の側面に入り込む。

 俺はそれに合わせて砲塔を回転し、砲弾を叩き込む。


「チッ! 硬い!」


 側面に一発ぶち当てたが甲高い音を立ててはじかれる、俺は装填を急いで終わらせ、再び照準を合わせ、打ち込む、今度は上部構造に当たり、火花を散らす。


「またか!」


 WASの車輌は聞いていた通り、硬いやつが多いみたいだ、資料によると航空機もらしい、まあ陸専門の俺からしたらあまり関係ないが。

 そんなことを考えながら装填を終わらせ、再び照準を合わせようと、砲塔を回転させるとⅣ号が言う。


「いいか、一瞬だけ背後で停止する、その時にエンジン付近にぶち当てろ」


 そう言ってⅣ号は敵弾を躱しながら敵に近づいていく、一発かすめたが問題なさそうだ。


「いまだ!」


 急ブレーキがかかり、車体が敵の砲塔の動きよりも早く背後に回る、微弱に回していた砲塔の照準が敵のエンジン部をとらえた瞬間、俺は引き金を引いた。

 撃鉄を起し、砲弾がエンジンめがけ飛んでいく。

 その弾はやや薄い装甲を貫き、エンジンの中へと入っていく。


「衝撃に備えろ!」


 大爆発。

 爆風でⅣ号も煽られるがもちろん倒れることはない、爆風が収まり砂埃も収まったころで天蓋を開けて、周りを確認する。


「さて、終わったかな」


 あたりのいたるところから煙が上がり、倉庫は跡形もなくバラバラになっている、その下には、押しつぶされた航空機が多数残っていた。


「作戦成功、被害は0、歩兵の進軍を要請する」

「こちら有馬、お疲れさん、これから歩兵を移動する、そのまま周辺を警戒しといてくれ」

「了解」


 そう言って無線を切る。

 無線に出たのは有馬だった、戦場の指揮官として戦うあいつも大変そうだな……。


「さて、全軍航空基地に拠点を移すぞ」


 俺が伝えると安易テントをたたみ機材をまとめる、皆の準備が整ったところで、進軍を始めた。


 別に昔のように歌いながら進むことはない、昔は軍歌を歌いながら進軍し、士気を高めていたらしいが、別に今いる人員はそんなに天皇万歳軍万歳なんて人は少ない。

 まあそんな人が大勢集まるのもやや困りごとだが、そんなことを思いながら俺は航空基地へと足を進めた。


「うわぁー派手にやったな……」


 俺は航大と合流し状況を聞いた。


「まあな、戦車部隊の初任務だ、盛大にいかないと」


 この状況を作った当の本人は現在、『Ⅳ号戦車』のエンジンを調整している。

 航大は工業校出身で車いじりが好きなのだ、どっからどう考えても、車のエンジンと戦車のエンジンは別物だとおもうのだが、航大曰く「車ってつくなら何でもOK!」だそうだ。


「さて、話はそれで終わりだな」


 航大からの報告を聞き終え、俺は持ってきた移動用のバイクを借りる。


「どっか行くのか?」


 航大が手を止めこちらを見る。


「ちょっと、二人と一機の様子を見に行くのさ」


 そう言って俺は、移動用のバイクにまたがった。


♢  ♢  ♢  登場兵器紹介・味方  ♢  ♢  ♢

車輌名:『Panzerkampfwagen IV(Ⅳ号戦車)』 車種:支援戦車  

所属:アイザンクロイツ


全長:7.02メートル   全幅:2.7メートル 

全高:2.67メートル 最大速力:39キロ 


搭載エンジン:マイバッハ HL 120 TRMV型12気筒ガソリン 300馬力

    主砲:43口径75ミリ KwK 40 一門

  同軸機銃:7.92ミリ機関銃MG34・一丁

    副砲:7.92ミリ機関銃MG34・一丁   


 ドイツが生産した傑作中戦車、蘇らせたのはその中の『G型』である。初期より長口径化した主砲で装甲を打ち破り、主砲手が使う主砲と同方向に撃てる同軸機銃、別の射手が使う副砲にはMG34採用されており、歩兵をいともたやすく穴だらけにすることができる。すべての性能が一通り揃っており、非常に使いやすい戦車と言えるだろう。

♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る