第一四話 カウアイ上陸戦

艦隊現在地、カウアイ島海岸20キロ


「全砲門砲撃開始!」


 その合図で、カウアイの沖に並んだ三隻の戦艦『大和』『長門』『陸奥』が、空襲で破壊しきれなかった砲台や歩兵を薙ぎ払う、撃ちだされるのは全て、対地対空攻撃用の三式弾だ。



 さて、砲撃を開始して四分半、高角砲や副砲での砲撃も行い、島の固定砲台は完全に沈黙したようだ。

 砲弾が飛んでこないのを確認し、艦内で待機していた兵士たちは一斉に甲板へと出てくる。


 一方整備課は、大発艇の整備を完了し、海の上へと浮かべ始めた。


「さて、行くとしよう」

 

 咲間長官が艦橋を出る。


「自分も失礼します」


 俺も続いて艦橋を出る、その時大和の声が、耳元近くで聞こえた。


「絶対死なないでね」


 何を言うか。


「当たり前だ」


 俺はそう、大和に返した。


 甲板に出ると、すでに数個の大発艇が兵を大量に連れ、陸へと向かっている。

 その中には米軍の兵も見れる、今回上陸から奪還まで、日本側は約2000人、アメリカ側が約3000人の人が参加する。


 日本の2000人と言うのは、本土から来た高速輸送船たちに乗っていた人員だ。

 カウアイ占領の情報が出てすぐに本土では、40ノット近く出る高速輸送船『ハヤブサ』の一号、二号、三号が、数隻の護衛駆逐艦と共に出港、先にミッドウェイに向かっていた戦艦組と合流、そのまま一緒に来たという感じだ。


「さて、行きますか」


 俺は、国から支給された旧自衛隊装備を整える。

 背中には『89式小銃』、SIGの『p220』通称『9㎜拳銃』は、腰に装着する、軍は旧自衛隊装備が標準装備として、国から支給されたのだが……古い。


 『89式』や『9㎜拳銃』は2000年代初期に使われていた銃で、今はとっくに、何度も改良した『20式』と『SFP9』に変わっている。

 そこで、国から支給される武器に不満がある者は自分専用の銃を使うことができる、その代わり弾は自分で準備し、日常の手入れは全て自身で行う。

 弾切れになっても自己責任、なので自分専用の銃を使う人は少ない。


 しかし空は例外である。

 自分用の銃をいくつか保有し、必要に応じて持ち替えている。


「で、今回はその二丁か」


 空は、背中に銃剣のついた『karカル』を、腰に『ベレッタ92』を入れる、時代遅れの装備だが、空には丁度いいのだろう。


「そう、『kar』は実戦で試してみたいし、今回塹壕戦が多そうだから一様ハンドガンをね」


 ARアサルトライフルを持っていけば済む話なんだがな~。

 空はどうもARを好きになれないらしい、そうこう言っている間にも、敵の弾丸が大発艇をかすめる。


「アホ! 死にたくなければ伏せとけ!」


 操縦士が叫ぶと、一斉に俺たちは体を屈める、何度か大発艇の側面や正面をガツンと弾丸が叩く音が響くが、今のところ、人には当たっていない。


「陸までもつかな?」

「そんなにボロじゃないだろう」


 今回は空襲と艦砲射撃で砲台系がほとんど壊されているため、大発艇に砲弾が当たることはない。

 陸に着く前に壊れることはないだろう、と言うかないであってほしい。


 弾丸を潜り抜けること数分後、目と鼻の先に陸がある、大発艇の扉が下りれば突撃開始だ。


「有馬、行くぞ」


 無線で咲間長官から声が聞こえる。


「了解」


 短く声を返し、操縦者に扉を開けるように指示を出す。

 その隣の大発艇からはすでに人が飛び出していた、俺は扉がバチャンと水の上に倒れ込み、視界が開けた瞬間。


「全員突撃!」


 そう叫んだ。

 その一声で皆が駆けだす、まずはビーチの制圧だ、ビーチを守っている敵兵を抹殺し、味方が安全に上陸できる場所を確保する、その後工作艦が錨を下ろし拠点を築く。


「散開!」


 俺の指示で分隊ごとに分かれ、それぞれが自分の目指す塹壕に駆け込む、俺と空が率いる部隊は正面の塹壕だ。


 中ですぐに兵の姿をみることはなかった、道が二手に分かれ、それぞれが大きめなトーチカにつながる。

 俺と空は左右にわかれ、二つの部屋を制圧にかかる、俺は右に向かった。


「邪魔だ!」


 俺は『89式』を連射し、視界に入った敵を一掃していく。

 思ったより数が多くない、これも艦砲射撃のおかげだな……ありがたやありがたや。

 俺がトーチカの中に入りこむと、敵もこちらに気付き、銃を乱射する、敵の銃声がいったん止んだ時に、ピンを外しておいたグレネードを転がす。

 爆発音と金属の破片が飛び散る音を聞き、壁から『89式』を突き出して敵をねじ伏せる。


「あと三人!」


 俺は照準に入った三人、いや自動人形だから三体を壊し、トーチカの中心に移動する。


「制圧完了か?」


 俺はあたりを見渡しながら『89式』のマガジンを外し、新しいマガジンを付け直す。


「空は大丈夫か?」


 俺はあたりを隅々まで確認し、もといた場所まで戻るとまだ空の姿はなかった。


「まだ終わってないのか……」


 俺は空の援護に動くべく、左側のトーチカに向かった。

 道中、敵、正確には生きた敵と出くわすことはなかった。




 塹壕を進みトーチカに入ると、俺はパチャリと水を踏んだ、しかし水にしてはどうも気分が悪い、俺はその足をゆっくり戻し、明るいところで確認する。


「……血か……」


 水かと思っていたその液体は、どうやら敵の死体から流れ出た血液の用だ。

 こっちの塹壕は機械ではなく人の兵が守っていたらしい、俺は血だまりを超え、中に入るとそこには……。


「空?」


 倒れ込む死体の中心、血溜まりの上に空が立っていた。

 その姿はいつもの青い髪と白い肌ではなく、返り血を浴び真っ赤に染まっている。

 『kar』の銃剣も鋼色ではなく赤黒い血で覆われ、ぽたぽたと血が滴っていた。


 俺はそんな空の姿に驚き、もう一度よく全体を見ると、左腹部の服に焦げ跡、そして機銃弾が貫通した後があった。

 肩にも銃痕が残っている。


「制圧完了」


 その一言だけを残し空は倒れる、その時俺は我に返り、空に駆け寄った。


「空!」


 傷口に布を当て、出血を食い止めながら周りを見渡す。

 入り口に固定機銃、兵士が手に握るのも機銃系が多い、こちらのトーチカの方が圧倒的に高火力だったらしい。

 部屋の広さ的にもそこそこ大きく、上陸阻止の上で中心的存在だったようだ。


「有馬、ビーチ制圧完了だ」


 咲間長官からの無線を聞き、俺はまた短く返事をし、空を抱えて外に出る。

救護用のボートがいくつも近づき、さらにその後ろから占領したハナペペ湾に錨を下ろすため工作艦の二隻が近づく、医療施設並び拠点になるためだ。

 戦艦は艦砲射撃と近海警備のために移動している。


「有馬さん!」


 圭の声が聞こえた。


「空さんをこちらへ」

 

 そう言って圭は俺を、『明石』の中へ案内する。


「腹と肩に数発、出血多量で意識不明だ」

 

 俺は空の様態を、圭に話す。


「わかりました、あとはこちらで面倒を見るので有馬さんは戦場に戻ってください」


 圭は空を重傷者用の担架に乗せ、奥へ入っていく。


「空は大丈夫にゃ」


 静かに明石が姿を現した。


「見た感じ弾は貫通し、内臓も無事にゃ」


 それならいいのだが。


「明石、空を頼む」

 

 俺は自然と明石の頭に手を乗せた。


「うにゃ~任せるにゃ、圭もなかなかの手練れだったにゃ、きっと大丈夫にゃ」


 その言葉を聞いて、俺は詰まっていた息を吐きだす。

 その後『89式』のバラ弾を、開いたマガジンに詰め直し、ビーチに出た。

 いくつかのテントは、軽傷者を手当てするためのものだ、重傷者だけが艦の中に入り、治療を受けることになる。


「有馬、敵航空基地を発見したぞ」


 咲間長官が俺のもとに駆け寄り、地図を見せる。


「ここだ」


 長官が指差したのはカウアイのもともと市街地だった場所だ、どうやら最初から開けた土地と倉庫があったらしく、そこを上手く使ったようだ。


「それで、どうやって叩くんですか? そこだと艦砲射撃ですか?」


 俺が聞くと、長官は首を振る。


「今戦艦組は、ニイハウで艦砲射撃をしているからしばらく戻ってこない」


 なんとタイミングが悪い……平地だから、無駄に兵を突撃させると一気に死ぬ、それは避けなければならない。


「戦車を出すか」


 俺はぼそりとつぶやく。


「戦車部隊を出すのか……まあ妥当かもしれんな、至急輸送船を呼ぶとしよう」


 そう言うと、咲間長官は無線機を持ち出す。


「至急、戦車部隊を用意しろ」


 俺はふと、Ⅳ号フォースと航大のことを思い出す。


 「大丈夫かな~」

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