第二一一話 ホーク隊、飛翔
現在、21日、8時31分、シェフィールド。
「第一歩兵群壊滅!」
「前衛車輛に損害在り!」
「一部の『パンター』が包囲、身動き取れてません!」
立て続けに来る報告に、ハインケル機甲師団長は心底うんざりしていた。
「どうなっている? 敵の戦車は明らかに少数だ、なのになぜここまで戦線が停滞する? 歩兵だけでこの量の戦車を止めているとでも言うのか?」
ハインケル長官は、部下や兵器の練度にある程度の信頼があった、自身でAIを学習させたWSたち、さらには米独露の現代戦車、練度は十分なはずだった。
その為、怒りよりも戸惑いの方が大きかった、何故止められるのかと。
「情報だ……情報が欲しい、敵の正確な規模と展開位置の情報が欲しい……」
ハインケル師団長はそう言って、通信機に手を伸ばす。
「航空支援はまだか?」
「後十数分で、空母から発艦した攻撃隊が到着します」
「攻撃じゃない、偵察の航空支援が欲しい、具体的には地上スキャンだ」
通信相手は吹雪であり、第二次シェフィールド攻略戦の、地上からの航空指揮をとっているのだ。
「制空権が取れていない空で、偵察機を飛ばすのは、かなり厳しい――」
吹雪が言い切る前に、ハインケル師団長は言った。
「頼む」
その声は真剣なもので、吹雪は否定する気を失っていた。
「分かりました……『サニー』とホーク隊に出撃させます」
『地上スキャン』、それは2030年代に確立された新たな偵察技術で、『電子偵察機』や『空中管制機』が行うことができる偵察方法。
機体から広域電波を地上に発信し、反射してくる電磁波、敵通信機の電波、金属の持つ磁力をキャッチし、ある程度何がどこにあるのかを把握することができる。
しかし、之を行うためには、かなりの低空を無防備な状態で偵察機が飛行することになるため、制空権が取れていない状態では、非常に危険な行為となっている。
現在、8時40分、ロンドン飛行場。
「……え、もうちょっと反対して欲しかったんだけど」
吹雪は、困惑しながらホーク隊に指示を伝えていた。
「なーにをいまさら、ARの時は毎回こんなようなミッションばかりだったからな」
ホーク隊3番機、カインズがそう言う。
「そうそう、制空権が取れていない状態での偵察機の飛行なんて日常茶判事、なんだったら、制空権を完全に失った空で、誘導爆弾の終末誘導をしたこともあるぞ?」
ホーク隊6番機、ビルもそれに続く。
「ええ……」
「まあそうゆう事です、ホーク隊、1から8番機、全て離陸準備は整っていますよ」
ホーク隊2番機、リュークが言ったところで、吹雪は通信機から一旦口を離した。
「ほんっと、めんどくさい部隊」
ため息をついた後、切り換えて再び通信機に向かう。
「今回の目的は敵地偵察をする『E10サニー』を護衛すること、護衛目標が地上スキャンできない状態になったらミッション失敗、制空戦闘に切り換えて……健闘を祈るわ」
「「「「「「「「ラジャー」」」」」」」
八人の声が重なると同時に、目の前の滑走路に並んでいた8機の『F47』たちが空へと舞い上がって行く。
「とゆうか、部隊準備ができたことは、一番機が報告しなさいよね……」
そんなことをぼやきながら、吹雪は飛んでいく飛行機たちを見送っていた。
「各機、異常は無いな、お前らなら心配いらないと思うが、護衛はしっかり頼むぞ」
『サニー』からの通信が、ホーク隊各機に届く。
「無論だ」
「俺らが失敗する時は、1が落ちた時だけだ」
「おいおい、責任は全部ホーク1か?」
実にのんびりとした会話が通信機を介して続いていた。
数分飛んで、再び『サニー』から通信が入る。
「これより交戦空域に入る、ホーク隊、ミサイルフリー、エンゲージ!」
その掛け声と共に、ホーク1がアフターバーナーを全開にし、全速力で戦場へと向かう。
それを追いかけるように、2、3、4番機、高度を下げながら『サニー』と5、6番機、さらに高度を下げながら、7、8番機が追従する。
今回、『F47』の装備は、それぞれ役割に応じた物が入っている。
2、3、4番機は制空権確保が主目的の為、機首下に『S―3』一本、前部ミサイルラックは『ハルパー』が五本、後部ラックは『SSAM―9』が五本となっている。
羽下には、機動力と速度を落とさないよう積んでいない。
逆に、7、8番機は地対空装備の敵を殲滅するため、後部ラックは空対地ミサイルの『LB―5』、羽下には対艦攻撃も可能な『ボンド』が四本装備となっている。
5、6番機は『サニー』周辺での護衛のため、羽下は『R―12』二本、後部『DDSG』が五本となっている。
「敵機出現、前方より6機、機種は『N型ジェット』だ」
『サニー』の指示で、一番先頭に居たホーク1が真っ先に対応した。
ホーク1の武装は、羽下、機首下のミサイルは変わらずだが、前部『ハルパー』、後部『ⅬB―5』と言うように、対地対空両方できる武装となっている。
「前方六機は俺が対応する、両側面から接近する機体を堕とせ」
ホーク1はそれだけ伝えると、羽下の『R―12』ミサイル二本を発射し、二機を撃墜する。
その光景を見ていた2、3番機が両サイドに分かれ、新たに電探へと映った敵機へと向かっていく。
「私は数が多くなった方に加勢しに行くわね」
四番機は『サニー』と同じ航路をたどったまま進んでいた。
空対空組が仕事をする中、対地組も攻撃を開始していた。
「8番機、ついてこい! 機銃の連続掃射で、対空陣地を薙ぎ払うぞ!」
「はい! 8番機続きます!」
前線より少し下がった位置に展開する対空陣地を横断するように、二機の『F47』が機銃を発射する。
Ⅿ61バルカンが唸りを上げて20ミリの機銃弾を発射し、比装甲車輛を叩いていく。
一斉射浴びせた後、二機は機体を縦回転させ、後部ラックから『ⅬB―5』を二本ずつ発射すると、まだ稼働していた車両や対空銃座にミサイルが向い、辺りに子爆弾を振りまきながら命中する。
「調子いいですね! 次行きましょう! 次!」
「おいおい、あんまり先走るなよ?」
8番機の元気な声を、7番機はたしなめる。
現在、9時12分、シェフィールド上空、航空優勢。
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