第二一二話 初接敵

 WSの艦載機たちが爆撃を行っている間、北海の上空ではマッハ2の激戦が行われていた。


「ゼウス2、ブレイク! 右に機体を捻ろ!」

「バッド4、そのまま速度を上げて一旦離脱しろ! 後方に無人機が3機食いついているぞ!」


 パイロットの無線には、Gに耐える呻き声と、ブレイクと叫ぶ怒鳴り声が飛び交っている。

 空母から飛び立ったゼウス隊8機、バッド隊6機は、今のところ損害はないまま、無人機の攻撃をいなしながら、徐々に『フライングトール』へと近づいていく。


「全機聞け! 正面の雲の層を抜ければ『フライングトール』が見えるはずだ! 無人機をふり払ったら、一斉に雲に飛び込むぞ!」


 ゼウス1が、機銃で無人機を砕きながらそう全機に告げる。

 交戦を続けていた全機はその声を聞き、相手取る無人機を堕とすか振り切った後、機首を一斉に上へと向ける。


「行くぞ!」


 ゼウス1が雲に飛び込むのと同時に、他の機体たちも雲へと飛び込んでいく。

 無人機たちは、雲に飛び込んだ機体を追いかけはせず、雲を迂回し、雲より上へ行ける道を探しに行った。

 雲の中を飛ぶこと十数秒、一気に視界が晴れ、一面の青空が広がる。


「抜けた!」


 誰かがそう言うと同時に、各自の機体から、ミサイルロックの警報が鳴り響く。


「ミサイル多重ロック、来るぞ!」


 バッド1の叫びと同時に、皆チャコフレアをばら撒き、機体の姿勢を正す。

 数秒後に、数十の一斉に飛来するが、何とか誘導を振り切った。


「ようやくご対面だな」


 誰かの呟きと、再度のミサイル警告は同時だった。


「ゼウス隊行くぞ!」

「バッド隊続け!」


 各隊の一番機がそう言って、エンジンを赤くしながら、『フライングトール』へと向かっていく、『F』たちはまだ母機に戻ってこれていない今が好機と皆思っていた。


「バッド隊、俺たちが敵機を攻撃する、その間に、敵を隅々まで調べてくれ」

「了解した」


 ゼウス隊が囮となって情報偵察を行う、そのような考えで、二つの隊は行動を開始した。


「……ターゲット表示が出ない……まだ未確認の情報が多いからか……」


 ゼウス1がそう呟きながら、ミサイルシーカーを起動させる。


「どんな機体でも、エンジンが壊れれば飛ぶことなんてできない! FOX2!」


 その叫びと共に、胴体のミサイルラックから、一本ハルパーが発射される。

 発射されたミサイルは真っ直ぐ飛翔し、一際大きい主機と思われるプロペラに命中するが、爆炎が晴れると、何事もなかったかのようにプロペラは勢いよく回っていた。


「まるで効いてねぇ……通常兵装じゃ無理か?」


 そう呟きながら様子を窺っていたゼウス1の元に、通信が入る。


「こちら『しろわし』CIC、敵機に高エネルギー反応あり! 警戒せよ!」


 知らせを受けた機体たちが一斉に『フライングトール』から距離を取る。

 その間にも、ゼウス1は『フライングトール』を凝視し続けている。


「……ッツ! レーザー来るぞ!」

 

 二等辺三角形の頂点部分から、まばゆい紫色のレーザーが伸び、空中に居る機体を薙ぎ払うように振り回す。


「クッソ! 被弾、羽を持ってかれた、脱出する!」

 

 ゼウス5がそう言って機体を捨て、コックピットから座席を打ち上げる。


「ゼウス5、この時期の北海は尋常じゃなく冷たい、何とか助けに行くまで耐えていろ」

「了解!」


 ゼウス1は奥歯を噛みしめながら、『しろわし』に通信を繋ぐ。


「こちらゼウス1、ゼウス5が落ちた、至急回収を頼む」

「了解した、潜水艦を向かわせる」


 通信が終ると、ゼウス1はミサイルを掻い潜りながら、再び『フライングトール』へと向かっていった。


「ミサイルがダメなら、機銃はどうだ!」


 そう言いながら、ヘッドギアにターゲットリングが表示されるまで『フライングトール』に近づく。


「な、こいつ!」


 しかし、機銃を撃つ前に機体を翻し、再び距離を取った。

 ゼウス1の視線の先には、いくつもの銃身を束ねたバルカン砲、CWLSと思われるものが設置されていた。


「レーザーに艦載機にミサイル、さらには迎撃用のCLWSか……空中空母、いや、空母の方がまだ沈めるのは楽だぞ」


 悪態をついても状況は変わらない、そう判断したのか、ゼウス1は再び攻撃のチャンスを窺い始めた。


「せめてエンジンが一つでも止められれば、退いてくれると思うんだが……」


 その呟きは、ミサイルの飛翔音にかき消されていた。

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