外伝 のんびり屋さんのサンタクロース 後編


現在、2月18日、05時10分、ゼーブルッヘ港。


「出航!」


 『サンタ一号』の艦長の号令で、中型輸送船三隻が出港する。


「約160キロ、ロンドンより東に位置するキャンベイ島までの航路……でもこの船が出せる最大船速は20ノット……全速航行ですか?」

「そうだな……のんびり進めはしないだろうから、最初からエンジン全開で行こうか」


 その声を聴いて、指示が飛ぶ。


「最大船速!」

「最大船速よーそろー!」


 一方空では……



「……さすがに気張るな」

「そうだな……護衛機は俺たちだけだもんな」


 すでに空に、『Ⅽ130』二機と『ラファール』が翼を広げていた。


「そんなに気にするな、俺たちは正直囮だ、無理せず離脱しろ」


 輸送機のパイロットからそう声が飛ぶ。


「そんなの、軍人としての誇りが許さねえよ」

「そうか……なら、地獄の底まで、お付き合い願おうか」

「おうよ」




現在、05時55分、北海南部、目的地まで80キロ。



「……来たな」

「ええ……来ました」


 艦内に響き渡る警報にも、乗員たちは一切動じなかった。


「数は」

「われら『サンタ一号』のもとには30機、『サンタ二号』と『サンタ三号』のほうには……」


 観測員が押し黙る。


「どうした?」

「……駆逐艦4隻、巡洋艦1隻です」


 その報告を聞いて、一同息を飲んだ。


「二号、三号は無理か……」

「おそらく……」


 



「敵艦隊接近中!」

「こいつらを一号のもとに行かせるな! 戦闘態勢! 右砲戦!」

「我々も精一杯援護する」


 二号、三号は、装備した40ミリ対空機銃二丁と8センチ砲一門を構える。

 上空のスピットも敵艦へ向かおうとするが、それを二号の艦長が止めた。


「いや、お前たちは一号の援護に行け、あっちの敵は飛行機だ、お前たちの真価が発揮されるのはそっちだろ」

「しかし――」

「行け!」


 航空隊の言葉をさえぎって、艦長はそう叫んだ。


「……了解、御武運を」


 その一言に、艦長は苦笑いする。


「もと海軍少佐、舐めるなよ!」

「敵艦目視で捉えました!」

「面舵90! 敵艦へまっすぐ進め!」


 そんなやりとりが終わるころ、敵艦の甲板上に、発砲炎が上がった。


「敵艦発砲!」

「こちらも撃ちますか?」

「まだだ、この距離じゃ当たらん」


 その言葉通り、敵の砲弾は艦を挟むようにして着弾した。


「再び発砲炎!」

「ビビるな! 進め!」


 着実に距離が詰まる中、段々と着弾が迫ってくる。

 そんな中、ついに艦体が大きく揺すられた。


「艦中央部に着弾! 火災発生!」

「消化急げ、アハトアハト撃ち方用意!」


 ここに来て、艦長は攻撃の指示を出した。


「測距よし! 装填よし! 打ち方用意よし!」

「撃ち方はじめ!」


 



 艦隊が接敵している中、空でも脅威は近づいてきていた。


「高速飛行物体接近中、おそらく『N型ジェット』だ」

「これなら、なんとか相手できそうだが……」

「まあ、だけじゃないだろうな……」


 そんな会話をしながら機体をバンクさせ、トナカイ1が向かってくる敵機へと加速する。


「コンタクト、これより交戦を開始する」


 トナカイ1がそう言いながら、ミサイルの発射スイッチに手をかけた。


「トナカイ1! 9時の方向から超高速の敵機!」


 その声でとっさに機体をひねり、降下の体制をとる。

 直後、赤い火筒が通り過ぎた。


「こいつは!」


 すさまじい速度で通り過ぎていく黄色塗装の機体。

 ゴールウェイ湾でスワロー隊たちを襲ったうちの一機である、『サンダーバード』がこの場に現れていた。


「こんな小規模輸送に『サンダーバード』なんて持ち出してくるなよ!」


 ハルパーを『N型』に向けて発射した後、機首を『サンダーバード』のほうへ向ける。


「こちらトナカイ2! こっちにも『N型』が二機出た、対処に当たる!」

「援護は頼めないか……」


 機体を切り返し、こちらに向かう『サンダーバード』を見つめながら、そう呟く。


「……お前と『N型』を落とせば撃墜5……晴れてエースの仲間入りだ」


 そう意気込んで、トナカイ1は敵機へ向かって行った。




 現在、6時15分、サンタ二号、目的地まであと70キロ。


「艦首に亀裂! もう持ちません!」

「機関止めるな! このまま敵艦に突っ込むぞ!」


 サンタ三号はすでに撃沈、二号もすでに虫の息だった。


「対空砲台に直撃弾! 沈黙!」

「甲板修復要員との連絡途絶!」

「右舷に亀裂! 浸水加速!」


 直撃弾に艦体を揺らされながら、低下した船速で敵旗艦と思われる巡洋艦に向かっていた。


「進め進め進め!」


 艦長の声をさえぎるように、敵弾が艦橋へと命中する。


「ぬう!」


 艦橋の左側に命中したため、左寄りに立っていた人たちは即死、ちょうど真ん中辺りに立っていた艦長は、肘より先を失っていた。


「艦長!」

「気にするな!」


 目と鼻の先に敵艦が移った時、二発目が艦橋を襲った。

 およそ15センチの榴弾が艦橋をたたき、残っていた右側を吹き飛ばした。


 だがその数秒後、鈍い音と鉄がこすれる音をたてながら、『サンタ二号』は敵艦へと突っ込んでいった。




「トナカイ1、応答しろ! トナカイ1!」


 同じころ、空の上でも戦局は決しようとしていた。


「駄目か」

「……残念だが」


 なんとかトナカイ2は、直接輸送機に向かってくる『N型』2機を落としたが、『サンダーバード』を相手取っていたトナカイ1との通信が、たった今途切れた。


「来るぞ!」


 その直後、正面から電撃走る。

 輸送機『サンタ4号』の羽に穴が開いた。


「くそ! 食らった!」


 その報告を受けて、トナカイ2は機体を急回転させ、『サンダーバード』へと向かう。


「駄目だ! トナカイ2、逃げろ!」

「お前たちこそ逃げろ! 船は残り一隻、全土の子供たち分足りなかったらどうする、子供たちの夢を壊す気か!」


 その一喝とともにトナカイ2はミサイルを放つ。


「高度を下げながら速度を稼ぎ、ロンドンまでむかえ!」

「―――ッ! 了解、サンタ4号、サンタ5号、作戦を遂行する!」


 機体の機首を下げ、輸送機たちが離脱していく。

 それを確認して、トナカイ2は覚悟を決める。


「お前は行かせないぞ!」


 アフターバナーに点火し、速度を最大まで加速させる。

 それに気づいた『サンダーバード』は大きく機体を回転させ、トナカイ2の方へ向かって行く。


「知ってるぞ! お前の自慢は機首の20ミリ二門の火力と、直線飛行時のスピード! だから正面反抗ヘッドオンを好む!」


 互いに機首を向き合わせ、機銃を発射しあう。


「落ちろ!」


 目と鼻の先に機体が迫っても、トナカイ2は機体の進行方向をずらさなった。


「あああああああああああああ!」


 サンタ4号、5号の元には、トナカイ2号の断末魔が響いていた。


「仕事は、果たすぞ……」

「ああ、必ず、子供たちに夢をとど――――」


 直後爆発、被弾していた羽が限界を迎えたのか、大きな炎を上げて高度を急激に下げ始めた。


「……くそ」




現在、7時50分、ロンドン。




「さあ、少し遅れてしまったが、クリスマスプレゼントだよ」


 サンタのカッコをした『愛を運ぶ救済船』のメンバーが、プレゼントを配る。


「君は何が欲しいんだい?」

「僕はパズル!」

「私は絵本!」

「僕はね、僕はね……鉄砲が欲しい!」


 プレゼントを配る手を止めて、その子に視線を合わせる。


「どうして鉄砲が欲しいんだい?」

「パパが戦ってるから、僕も一緒に戦いたいんだ!」


 少年の目はいたって真剣な目でそう言った。


「そうか……でも残念、鉄砲は持ってきてないんだ」


 しょんぼりする少年の頭を撫でながらサンタが言った。


「君の戦いは、戦場で銃を持つことじゃない、戦い疲れたパパを癒してあげることだ……」

「……わかった、サンタさんがそう言うなら、そうする……」

「いい子だ、パパはどんな兵士さんなんだ?」


 そう聞くと、少年は元気よく言った。


「うん、『スピットファイア』っていう飛行機に乗って戦っているんだよ!」

「……君の名前は?」

「ランパード・マーリンだよ」


 その一言に、男は目を見開き、プレゼントを渡した。


「なら、君にはこのラジコンの飛行機を上げよう、大切に遊ぶんだぞ?」

「うん、ありがとう!」


 そう無邪気な笑顔で去っていった。


「戦争なんて、くそくらえだ……」


 男は、涙をぬぐってプレゼントを配るの作業に戻っていった。



 簡易作戦報告書


参加社『愛を運ぶ救済船』

使用兵器

『中型輸送船』三隻 『Ⅽ130』二機 『ラファール』二機 

『スピットファイア』九機

損害

『中型輸送船』二隻撃沈 『Ⅽ130』一機撃墜 『ラファール』二機撃墜

『スピットファイア』九機撃墜

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