第二〇九話 キッカ作戦強行始動

 現在、2月21日、0時00分、ロンドン。


「全車輛、パンツァーフォー!」


 まだ月が輝くこの時間に、各国の戦車がエンジンを吹かす。


現代車輌

『M1エイブラムス』15輌

『74式』4輌

『T18』15輌

『レオパルトV』20輌

WS車両

『ティーガー』10輌

『ティーガーⅢ』1輌 

『T―34』40輌

『パンター』20輌 

『シャーマン』3500輌


 その他車輛20輌、歩兵5000人

 

 尋常では無い量の戦車隊が、シェフィールドへ向けて動き出していた。


「ご丁寧に包囲などするものか、今度こそ、鋼鉄の津波で押しつぶしてくれるわ」


 ハインケル師団長は、きつく拳を握りしめる。


「ああ、今度は私もいる、数も十分だ、負けるはずはない」


 現代車輌部隊、指揮官車輛『レオパルト』に乗るハインケル機甲師団長のもとに、WS車輛部隊、指揮官車輛『ティーガーⅢ』のWS、ティーガーから無線が入る。


「我らゲルマン民族の誇り、侮るなよ」




 遡る事8時間前、20日、14時20分、ヤーデ湾。




「全艦艇機関始動、抜錨!」

 

 俺の一言で、湾に居る艦たちが出撃する。


「史上類を見ない大機動部隊だ、どんなことになるのやら……」


 そう嘆くと、後ろから笑い声が聞こえてきた。


「いやー、まさか指揮官がこの艦に乗艦していただけることになるとは、いやはや、光栄ですなぁ、有馬司令?」


 だー、めんどくさいのが来た。


「貴方のが階級上なんですから、変な言葉遣いしないでくださいよ、植木少将?」


 植木少将、役職は第一機動艦隊司令官、まあ海自に機動部隊は二つしかないので、実質、海自の機動艦隊の総司令に当たる。


「二人してCICで騒がないでくださいよ」


 してこの人は『しろわし』の艦長、高杉純也大佐、俺がいないときは、植木さんと高杉艦長でこの艦は仕切られている。

 現在は艦長高杉、航空幕僚植木、作戦幕僚有馬、という形でこの艦の役職についている。


「よろしくお願いします、有馬戦線長官」


 高杉艦長がそう言って、俺に敬礼する。


「やめてくださいよ、そちらの方が全然年上なのに」


 高杉大佐は現在59歳とそこそこの年齢で、そんな人に敬語を使われるのはいささか違和感がある。


「そんじゃまあ、いっちょ行きますか」


 CIC内で顔合わせが終ると、植木さんがそう言ったのに続いて高杉艦長が叫ぶ。


「『しろわし』抜錨! 第二船速!」

「エンジン始動、第二船速にて出港」


 復唱の声が聞え、『しろわし』の艦体が動きだした。

 この艦は、新型のハイパワーガスタービンエンジンを搭載しており、大きさの割にスムーズに艦は動きだし、なおかつ最高船速も38ノットと高速になっている。


 原子力を搭載した艦は、表向きには日本で持つことができないため、ガスタービンエンジンに研究路線を振り切った結果、原子炉と遜色のない機関を作ることに成功した。

 まあヨミの機関は小型原子炉なんですけどね……ヨミは、表向きは存在しない艦になっているので、セーフセーフ。


「有馬、航路はまっすぐ『キョウト』で良いんだな」

「はい、敵機部隊を誘い出すためにも偽装航路は使わず、真っ直ぐ向かってください」


 地点『キョウト』、これは北海のとある位置を示した暗号で、北海でブラックプールに最も近い場所だ。

 ブラックプールはアイリッシュ海側の港町のため、北海から攻撃するにはブリテン島をまたぐため、出来る限り近づかなくてはならない。


「島を跨いでの爆撃、本当に大丈夫なんですか?」


 だから敬語は辞めてくださいって高杉さん……。


「無理そうならシェフィールド、もしくはその他敵基地を叩いて後退させます、機体の損耗は出来る限り抑えたいですしね」


 あくまでも目的は機動艦隊、そう、機動艦隊だ。

 俺はそう自身に言い聞かせていた。

 

 過去の大戦では、作戦の目標を見失い、勝利を得たはずなのに戦略的には負けたという事態が何度か起こっている、そんな失態は犯したくない。


「航路決定、自動操艦に切り換えます」


 そう報告が入ると、俺と植木さん、高杉大佐が囲っていた電子机の上の海図に航路が白い点線で示され、俺たちがいる機動艦隊が青い駒で表示される。

 右下には、オート操艦と赤文字で浮かび上がる。


「この机便利ですねぇ……」


 俺は、一人で勝手に感心していた。

 いつだか明石が研究所で使っていた机と似たもので、表面がモニターの役割をしている。


「欲しけりゃ本部にでも言って、『大和』に乗せてもらえばいいじゃねえか」


 WSはそう簡単に電子機器載せられんのよ……キューブの保持に艦内の電力ほぼ持ってかれるし……。


「艦長、『赤城』よりS無線が来ています」

「繋いでくれ」


 そう言うと、CICのスピーカーから浅間長官の声が聞えてきた。


「浅間だ、哨戒機の発艦はこちらがする、本艦は常に全力発艦できる用意をしておいてくれ」


 なんだか気になる言い方だ。


「承知しました……何か理由がおありですか?」


 植木さんが敬語使ってる……まあそれもそうか、相手大将だもんな……。


「『瑞鶴』の55号ステルスレーダーが、北極より南下してくる『フライングトール』と思われる機影を発見した」


 来やがった、一番来てほしくないやつが動きだしやがった。


「行方不明だと思っていたが、北極上空で待機していたのか……」


 じゃあ、ブリテン島各地で飛んでいる『タイプA』たちは北極から飛んできたのか? そんな訳あるか、あの機体のどこにそんな量の燃料が詰めるんだよ。


「ゼウス隊に出撃体制維持を命じておくか」


 植木さんがそう呟き、高杉大佐が指示を出す。


「それじゃあ、頼んだぞ」


 そこで、浅間長官からの無線は切れた。


「これは……ちょっと考えなくちゃいけないことが増えた気がするなぁ」


 俺は、そうぼやいて、机に映った地図を眺めていた。

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