第二〇八話 空母会議

 しばらくすると作戦室に、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、瑞鶴、プライズが姿を現し、浅間長官が扉を開けてやってきた。


「この面子を集めるということは、次は艦隊決戦ではなく航空決戦を仕掛けるのですね! そうなんですね!」


 赤城が、意気揚々とそう言いながら席に着いた。

 そんな赤城を、瑞鶴は苦笑いしながら眺める。


「何か言いたげですね、瑞鶴」

「いいえ、なーんにも」


 そう言いながら二人も席に着き、全員が席に着いた。


「赤城の言う通り、次の海戦は機動部隊が主力となる航空決戦を仕掛けるつもりだ、そこで皆の意見を聞くために、ここに集めたんだ」


 俺が言うと、皆の顔がパーと明るくなる。


「是非、お任せ下さい!」

「ようやく私達の出番か!」


 赤城とプライズが立ち上がってそう言う。


「落ち着け落ち着け」


 俺が静止して席に座らせる。


「今の段階では、どれくらい作戦が立案できているんだ? 相変わらず、『フライングトール』と『スレイブニル』の対策を考えた上での海戦になるんだろ?」


 そう浅間長官が言う。


「そうですね……『フライングトール』についてはある程度考えていますが、『スレイブニル』については……今回は対策しないで行こうかと思っています」

「それじゃあ、私達空母六隻と自衛隊の『しろわし』『かが』『しょうほう』で運百機の相手することになるのかい?」


 蒼龍が不安げにそう聞いてくる。


「正確には、君たち含めた空母十隻と潜水艦四隻で、敵機動艦隊を殲滅する」

 

 作戦内容はこうだ。

 用意する戦力は、クロイツ所属『グラーフシェッペリン』、桜日軍所属『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』『瑞鶴』、桜日自衛隊所属『しろわし』『しょうほう』、米海軍所属『エンタープライズ』、許可が取れれば『イントレピット』も出撃させる。

 その補助に、現在無事な駆逐艦隊、防空巡洋艦『古鷹』、航空戦艦『扶桑』、そしてこの作戦の要となる水中艦隊、『せいりゅう』『おうりゅう』『しょうりゅう』『じんりゅう』『伊403』、以下の戦力で、空前絶後の大機動部隊を編成し、北海に進出、敵主力地点であるブラックプールと、その周辺に空爆を敢行する。

 それを察知した敵艦隊は、之を迎え撃とうと出撃してくるはずだ、それを叩く。


「水中艦隊って、もしかしてスレイブニルを倒すために?」


 瑞鶴がそう聞いてくるので、俺は頷いて答える。


「そうだ、ヨミの索敵技術を最大限使用し、スレイブニルを潜水艦たちに片っ端から食ってもらい、頭数を減らした上で航空機を迎え撃つ」


 最初は後手に回り、敵航空戦力を削ることに集中、スレイブニルの数が減って戦いやすくなったところで、一挙に機動部隊を叩き潰す。


「では、今回の出撃は『扶桑』を除いて、戦艦は出撃しないのですか?」


 加賀が手を上げて尋ねる。


「一様そのつもりだ」

「では、艦隊指揮は誰が執るのかね?」


 浅間長官はそう言いながら、胸ポケットから煙草を取り出し口元に加える。


「吸うなら窓開けてくださいね」


 そう釘を刺したうえで、言葉を続ける。


「それはもちろん、『赤城』艦長である浅間長官に……執って……いただこうかと……」


 空母の皆の表情がどんどん暗くなっているのを見て、言葉を止めた。


「……私はそれでもかまわないが、不調の兵器は運用したくないぞ」


 浅間長官はにやにやしながら、煙草を吹かす。


「……浅間長官と俺で指揮を執るよ」


 そう言うと、プライズが俺に飛びついてきた。


「それでこそ我が指揮官だ!」


 瑞鶴が無理矢理プライズを引き離し、席に着かせる。

 この流れ、何回目だろうか……。


「でも、大和は今回出撃しないしなぁ……」


 そうぼやくと、俺の座る隣に大和が姿を現した。


「え、連れてってくれないの?」

「まあ、今回砲撃戦はしないからな……」


 『扶桑』は航空戦艦で水上機を運用できるから、『古鷹』は防空巡洋艦だからであって、敵水上艦艇への攻撃はもっぱら航空攻撃のみだ。

 一様水雷艇対策に『Ⅽ型』は持っていくが、『大和』の主砲は対水雷艇には使いにくいからな……。


「じゃあ、指揮官はどの艦に乗艦されますか?」


 ……どうしよう、皆の目が怖い。


「ぶー、私も連れて行ってくれてもいいじゃん……」


 大和は相変わらず、皮肉れているし。


「す、少なくとも『赤城』には浅間長官がいるから、無理として……」

「そうですね、一隻に司令官が固まるのは良くないかもしれませんね」


 赤城は少し残念そうだったが、そう言って引き下がった。


「なら私に乗ってはいかがでしょう、陣形を組むとき赤城さんの隣に着くことになるでしょうから、浅間長官とは連絡が取りやすいはずです」


 加賀がそう言って立ちあがる。


「それらな逆に僕たちのどちらかの方がいいんじゃないかな? 主要空母は浅間長官、補助空母は司令って感じで」

「僕もそう思うよ」


 蒼龍と飛龍が対抗して立ち上がる。


「それなら私のが良いでしょ、私には55号ステルスレーダーがあるし、一番沈む可能性は低いしね」


 瑞鶴も負けじと立ち上がる。

 あー収集つかなくなってきたぞこれ。

 皆がそう牽制しあう中、一人プライズは呆れたような顔でその様子を見ていた。


「プライズがこの言い合いに混ざらないのは意外だな」


 そう俺が呟くと、プライズはため息をついて言う。


「冷静に考えて、WSの空母でなく『しろわし』に乗せるべきだろう、通信環境も守備情況も整っている、指揮官座乗艦としてこれ以上うってつけの艦は無いだろう」

 

 ……やっぱプライズって、一番冷静なんだよな……どこか冷めているという事も出来るが。


「…………いや、ほんと君たち面白いな」


 浅間長官は、ぷかぷか煙を浮かせながら笑っていた。


 その後、冷静になった俺たちは、作戦時の立ち回りや航空機運用術、それぞれの役割などの細かい点を決めていた。

 その際、情熱的に日本機の特性を生かして戦おうとする桜日のWSに対して、鋭い目で不測の事態とデメリットを追求するプライズの姿は対照的だった。


 もしかしたら、太平洋戦争で日本が負けた一番の理由はこれなのかもしれないなと、静かに思っていた。

 

「あ! エンタープライズ! あんた司令官さんに近づきすぎ!」

「ああこれはすまない指揮官、ついつい考え込んでいたらここまで来てしまった」


 そうプレイズは言いながら俺の腕に自身の腕を絡めてくる。


「指揮官は暖かいのでな、ついついこうしてくっつきたくなってしまう」


 やっぱり違うかも……。






 艦隊詳細

旗艦 現代空母 『しろわし』

主力 現代空母 『しょうほう』『いずも』『イントレピット』

WS空母

『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』『瑞鶴』『グラーフ・ツェッペリン』

『エンタープライズ』

補助 

戦艦『扶桑』

巡洋艦『古鷹』『アトランタ』

駆逐艦『A型』七隻『B型』六隻『Ⅽ型』二隻

クルーザー『シャイロー』『アンツィオ』

デストロイヤー『ラッセル』『ラメ―ジ』

潜水艦『バージニア』『せいりゅう』『おうりゅう』『しょうりゅう』『じんりゅう』『伊―403』



 作戦概要

 艦隊を集結、航空機を搭載したのち、北海へ進出、ブラックプールへ接近、空襲を敢行する。

 同時進行で、海中の『スレイブニル』艦隊の殲滅活動を実行、敵機動部隊と接敵したら空襲を止め、艦隊を移動、敵機動部隊主力艦『ベルゼブブ』『サラマンダー』撃沈を最重要目標として航空攻撃を実行、敵艦隊を撃滅する。

 航空決戦勝利を持って海上の制空権確保とする。

 

 その後、港で補給を受けたのち、陸と連携してブリテン島の攻略を完了する。

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