第二〇五話 誤算
「ざっとこんな感じだ」
俺は、コンドル隊からの報告を聞いて背筋に虫が走るような感覚に襲われた。
直感的に、今攻め入っては不味いとどこかで言っているようだった。
進軍を始めてから15分、まだ引き返せる、まだ間に合う……。
そんな俺の心境を裏切るように、通信機からいやな音が聞こえる。
「接続エラー⁉」
すでにやられた? いやそんなはずはない、あの二人に限ってそんなはずは……。
「とにかく何でもいい、つながってくれ!」
接続できる通信手段を探しながら、操縦主に本体まで合流の指示をタッチパネル操作で伝える。
後方支援隊はこのままゆっくり行かせる、万が一前線が下がった時に撤退しにくいからだ。
「衛星通信ならいけるな……」
俺はそう呟き受話器を取る。
「聞こえますか、ハインケル長官」
「松本か、どうした? わざわざ衛星電話など、無線機を使えば――いい――な――ま――つもと――し――ろ――――?」
声がとぎれとぎれに聞こえる。
やはり、通信環境が悪いのか?
「通信環境不安定、敵基地、想定より強力な可能性あり、攻勢を一時中止せよ、繰り返す、攻勢を中止せよ!」
俺がそう繰り返している間にも、ガサガサという雑音が受話器から聞こえる。
「クッソ! なんでこんなに電波が悪いんだ!」
イライラしながら受話器を戻し、肘が当たったのか空の缶コーヒーが、音を立てて転げ落ちた。
と同時に、正面モニターに敵歩兵接近の警告音が響く。
その音とともに、主砲同軸機銃の発射音が響いた。
驚き車長席から上部に着く機銃を手にかけると、側面からこちらを狙う数名の歩兵が見えた。
「しまっ―――」
その歩兵たちの手元には、ジャベリン誘導ミサイル。
俺が瞬きした時には、そのミサイルの弾頭は、俺の乗る『10式』へと飛翔していた。
現在、15時02分、シェフィールド。
「敵に注意しつつ町の中へと浸透せよ、車輌部隊はこの町を包囲するように展開、警戒包囲を行う」
無線機から、声質の悪い音でハインケル長官の指示が聞える。
「全く……仲介役の通信兵、しっかり仕事してよね、ほんと……」
私は愚痴を零しながら無線機を切り、トラックでついてきた部隊に向き直る。
「どうやら本部の松本さんとも連絡は取れないし、ハインケル長官は進めって言うし、もうどうすればいいか分からないから、部隊を三つに分けるよ」
一つは私と共に、敵陣地へ侵攻する部隊。
一つは少数で、本部の松本さんと連絡を取る部隊。
一つはここに残り、歩兵と一緒に運んできた橋頭保に置く弾薬などの補給物資を守る部隊。
「まあ、第一と大島は私に付いてくるとして、後は勝手にしてていいよ、あーでも第四、五部隊は頭数多いから、ついてきて欲しいかな」
私がそう言うと、大島は笑いながら『Ⅿ2ブローニング』を肩に担ぎ、こっちに近づいてくる。
「なんだなんだ、悪魔の子でも、敵地制圧には重機関銃の火力が必要か?」
相も変わらずうるさい声。
「しょうがないでしょ、小銃だけじゃ火力不足な可能性あるし、私も下手に暴れる訳にはいかないし」
「まあ任せとけ、第一、四、五で、俺合わせて重機関銃持ちは五人、その内俺以外が持つのは『MINIMI』だ、一人で火力支援ができる、之だけいりゃあ十分だろ」
そう言って、自慢のⅯ2ブローニングをこちらに見せびらかす。
「MMGは良いぞぉ、なんてったて火力が違う、装弾数が違う、破壊力が違う」
始まったよ……。
「私はSRの方が好きなの、別にいいでしょ」
「そんなこと言い合ってられる状態じゃないでしょ……」
石塚が89式の弾倉に弾を詰めながら、呆れ気味に言う。
「……そうだね、異常事態なのは間違いない、早く合流できるよう拠点をさっさと落としちゃおう!」
私がそう拳を上げると、一同立ち上がり「応!」と短く答えてくれた。
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