第二〇四話 敵基地上空


 遡る事数分前、14時20分、シェフィールド上空、高度7000m。



「『一式陸攻』隊、『零戦』隊と共に突入を開始する」


 コンドル隊一番機にそう声が届く。


「ラジャー、数分遅れてこちらも突入する、敵対空砲群と戦闘機群の掃討を頼む」

「『ベティ』たち、大丈夫でしょうか?」


 副操縦士が、心配そうに呟く。


「いくら軽装甲とはいえ攻撃機は攻撃機だ、簡単に落とされることはないだろう、それに、隊を率いているのは大戦の英霊だ、ここは大日本帝国の実力をお手並み拝見といこうじゃないか」



 

 同時刻、シェフィールド上空、高度4500m。




「各機、突レ!」


 俺の号令で、後続する『一式陸攻』39機が、一つ10機四つの三角形の形に並び各自の機体を近づけ合う。

 そうしているうちに、上部からブザーが響いた。


「上か!」


 敵機はどうやら、自分たちよりも少し高い位置にいたようで、覆いかぶさるように襲い掛かってきた。


「『零戦』『メッサー』、出番だ!」

「言われなくとも!」


 俺たちの護衛をしてくれているのは、『零戦』14機『Me―109G』12機『M0J』4機だ。

 どんな敵でも対応できるよう少し離れた位置にジェット機の護衛もついている。


「零、敵の機種を報告してくれ!」


 もし本部から聞いた『FAツインデーモン』とか言う機体だと、加速を上手く使い、零を無視してこっちに襲いかかって来る可能性がある。


「敵機、『Z3ボレアース』!」


 焦った声で、そう零が機種を伝える。


「クソッ! 目覚めて最初に相まみえるのは、レシプロじゃなくてロケット機か!」


 『Z3ボレアース』、最速750キロの後退翼ロケット機で、機首には20ミリ四門の機銃をつけ、ガンポッドを吊るすと30ミリも撃ってくる。


「ガンポはついてなくて機数は10! まだ何とか出来るから、爆撃に集中して!」


 零から、そう勇ましい声で叱咤が入る。


「分かった、気をつけろよ!」


 そう声援を送った後に視線を正面に戻し、爆撃コースに機体を戻す。


「そろそろか……」


 ある程度目標に近づくと、ガコンという音と共に機体が軽くなる。

 爆撃主が爆弾を投下したのだろう、それに続いて後方の機体たちも対空陣地に持ってきた250キロ爆弾を投下していく。


「よし、とんづらこくぞ!」


 機体の尾翼と主翼を僅かに動かし水平旋回を行いながら、敵地上空から逃れる進路を取るころ、零から悲鳴に近い嘆きが聞えた。





「何、なんなの⁉」


 私は久しぶりに本気で恐怖を感じながら、『Z3』の相手をしていた。

 私が恐れているのは敵機ではない。

 敵機は確かに強力だが倒せない相手ではない……それよりも問題なのが……。


 私の側を飛んでいた一機の『零戦』が、地上から撃ちだされた赤い火筒に貫かれ爆散する。


「何なの⁉ この機銃は! 誰が撃ってるの⁉」


 異常なまでの命中率を誇る機銃だ。

 付け加える、対空機銃ではない、重機関銃だ。


「弾の速度や大きさからみて対空機銃じゃない、でもここは高度5000近くよ? そんなところを重機関銃で撃ち抜けるわけ無いじゃない!」


 逃げ回る『Z3』を撃ち落とし、私がぐるりと機体を翻すと、一機の『一式陸攻』の左翼に、満遍なく機銃弾が命中するのを見てしまった。


「また!」


 被弾した機体は、左翼から大爆発を起こし真っ逆さまに地面へと吸い込まれていった。


「もう無理! 私達じゃこの空は飛んでいられない! 撤退する!」


 それだけ、爆撃のリーダーであるコンドル隊の一番機に連絡し、エンジン全開でこの空域から離脱する進路を取った。





「おいおいおい、なんだか下がやべぇ状況になってるぞ」


 コンドル隊一番機の副操縦士が慌てたように告げる。


「ああ、どうやら俺が想定していたよりこの陣地はやばい場所なのかもしれないな」

 

 額に冷や汗を浮かべながら、操縦士は操縦桿を握り直す。


「敵機接近!」


 尾部機銃主から、通信機を介してそう声が届く。

 同時に、ミサイルロックの警報がコックピットに響き渡る。


「ッチ! わざわざプロペラ機にジェットは向かわせないってか?」


 悪態をつきながら、チャコフレアをまき散らす。


「ミサイル回避! 敵機、『N型ジェット』4機!」

 

 『B52Ⅼ』6機の編隊に、4機のジェットが群がる。

 上部の機銃はCLWSになっているため、自動で敵機を追尾、20ミリ弾をぶちまけ弾幕を張る。


「くっそ、こうなるなら一機でも護衛機をつければよかったな」


 敵に感づかれないよう、護衛機は付けずに高高度を飛んでいたが、結局は見つかってしまいこうして迎撃を受けている。

 しかし、まだ希望の光は残っていた。


「ゼロ、これより敵機の迎撃に入る、機銃掃射を中止せよ」

「頼もしい援軍が残っていてくれたもんだな」


 操縦主は口元を緩めて、CLWSの自動迎撃を切る。

 そうすると、後方で激しい風切り音が響きだした。


「各機、『B52』を襲わせるな、こいつは一機あたり70億だぞ!」

「「「応!」」」


 俺の声に、三人の僚機から勇ましい返事が返る。


「敵機は四、一機ずつ相手どれるぞ!」


 こちらに向かって来る敵機を視界にとらえ機体を急反転、機首を敵機の方へ向ける。


「尾田さん! 危ないですよ!」


 味方からの忠告を無視して俺は向き合ったまま機銃を発射、それと同時に右側にロールをしながら敵機の視界から外れる。

 俺の機銃掃射を受けた敵機は羽から火を噴き、真っ逆さまに地面へと落ちて行った。


「ほらな、大丈夫だった」

「もっと安全な戦い方してくださいよ」


 そう言いつつも無線の相手、郷田も機体を急回転させながら機銃を発射、敵機を墜とす。


「なーに、ゼロは危ない戦い方してなんぼよ、なんてったってこいつは一つ先の時代を行く戦闘機だからな」


 俺は何度かこいつで実戦を潜り抜け、そう心の中で思っていた。

 今の時代、ミサイルの進化と共にその対抗手段も増えていき、どちらが先にミサイルを撃ちきるかの勝負になりつつある。

 

 そんな中、この機体の主な攻撃手段は機銃。

 最初期からあるこの攻撃手段は、どんな手を使っても当たればダメージを受けるし、防御手段は避けるしかない。

 マッハの戦場で機銃は無力などと言うが、それは己の技量不足ゆえの事、そんな道を貫き通して誕生したのがこの『Ⅿ0』だ。

 確かに、機銃を当てられない者はこの機体は向かない、だが己の技量さえあれば、絶対に敵を撃墜することができる。


「全部落としたな」


 周囲を見渡し、レーダーにも反応が無いことを確認して、俺は機体を『B52Ⅼ』の側に落ち着かせる。

 ふとコックピットの中を見ると操縦士が、グットサインをこちらに向けていた。


「たく、調子がいいやつらだな」


 こちらもグットサインを出してそれに答えた。

 爆撃はこれにて終了、ロンドン飛行場に帰投する。

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