第二〇三話 シェフィールド攻防戦
「さあ、仕事の時間だ! 野郎ども、花火を上げるぞ!」
北欧部隊のカチューシャ隊代表が、怒声に近い声でそう下令する。
「『カチューシャ2』、攻撃モードへ移行! 射撃準備!」
その声で、数十両の車体のコンテナが約45度の仰角を取って立ち上がり、縦横の壁がボコボコと盛り上がっていく。
そこに装填されているのは、15センチ破砕無誘導ロケット弾が装填されている。
「諸元入力! 攻撃エリア範囲、D2からⅭ1! うちーかたーはじめー!」
その号令の二秒後、辺りはまるでスモークを炊きながら数千の水銀灯を灯したかのような情況となり、声はかき消され視界は遮られ、肌を刺激するほど一気に温度が上がる。
「初弾発射終了! 30秒後に再射撃!」
「これより、『19式自走榴弾砲』10輌にて、効力射を実行する!」
松本中佐がそう無線で告げると、指揮官車輛の砲塔がゆっくりと戦場へ向く、それに続いて、ほか車輌も砲塔を傾けていく。
「諸元、自動共有システム良好、修正なし、撃ち方始め!」
今度は一斉に155ミリの榴弾砲が火を噴いた。
同時刻、シェフィールド前線。
「制圧射来ます!」
無線で私のもとへ報告が来ると同時に、運百というロケット弾が前方の塹壕群、有刺鉄線、トーチカ、監視台、戦車など、ありとあらゆるものの上に降り注ぐ。
その爆音は、全く私の声を後ろに届かせることを許さなかった。
号令が聞えないぐらいの射撃ってどうなのよ……。
これ、冗談抜きで鼓膜破れるよ?
射撃が一瞬止んだタイミングを見計らって、私は腕を大きく振り下げた。
「全員ッ突撃ッ!」
私渾身の一声で全兵士が立ち上がり、林の中の塹壕から平地へと飛び出していく。
それを見て、側面で待機していた機甲師団も全速で突撃を開始する。
私は、その光景を走りながら確認する。
「『チハ』が先陣、その後方に『T―38』が一列に並び、現代戦車とティーガーが構える……作戦もクソもない突撃だね」
でもその突撃こそが、戦術的勝利を得る最後のステップだ。
私がそんなことを言っている間にも、先頭の『チハ』は、敵の生き残っている野砲や戦車の砲弾を正面からくらい、跡形もないほどに爆散する。
そんな敵の頭上に、今度は155ミリの砲弾が同時炸裂する。
「そう言えば『19式』の10輌持ってきたんだっけ……」
欧州に持ってきた貴重な30輌の内10輌を輸送船で送ってもらい、ここに運んできた。
しかしその程度で黙る敵部隊ではなく、弾着から数秒後、再び砲撃と機銃掃射を始めた。
「ああああ、腕が! 俺の腕がぁ!」
「いたい、痛いよぉ、ああ、ぁあああ!」
日本語、ロシア語、ドイツ語、様々な言葉で苦痛に悶える声がする。
だが振り返っても立ち止まってもいけない、何故なら止まった次の瞬間、自分もその声を発することになるかもしれないから。
砲声と銃声と怒声とが居れ交じる戦場に、再びロケット弾が敵陣地へ降り注いだ。
「主力戦車隊はこれより敵防衛陣地の破壊を試みる、パンツッアーフォー!」
私の号令で、複数の戦車達がエンジン音を響かせ敵陣地へと突入していく。
前線を張っていた『チハ』隊は、主砲を連射しながら敵陣地の奥へ奥へと浸透していき、『T―38』たちが、それを後方掩護する。
我々『ティーガー』と『74式』は、余った重装甲車輛や先頭集団が取りこぼした物を、『アハトアハト』や『51口径105mmライフル砲L7A1』で粉砕していく。
「各車輛よ聞け! 無尽蔵に湧いて出てくる機械歩兵どもやその機械たちの味方をする裏切り者どもは、灼熱の榴弾で薙ぎ払え!」
その声に合わせて、私の乗る『ティーガー』、愛称『ゴリアテ』は砲口から榴弾を発射し、機銃を乱射する人型を消し飛ばす。
「鋼鉄に身を纏い、我らの行く先を阻もうとする獅子や城壁たちは、銀色に輝く徹甲弾で打ち砕け!」
その声に合わせて、『ゴリアテ』は砲口から徹甲弾を発射し、こちらへと照準を向ける『スコルピオン』重戦車を粉砕する。
「一機、一体、一輌、一人たりとも逃すな! サーチアンドデストロイ、サーチアンドデストロイだ! 人類の裏切り者どもを、生かしてこの島から逃がすな!」
「防衛線突破! 道が開けました!」
「このままシェフィールドまでパンツッアーフォー!」
「前線は、激しい戦いが続いているようです」
ハインケル長官の狂気に近い演説は後方の火力投射舞台にも、通信機を介して指揮車輌の役割を果たす『10式』の中でも聞こえていた。
「火力投射部隊全体へ、攻撃目標をキラマーシュ前線からシェフィールド周辺の塹壕群へ、機甲師団が到着するまえに頭数を減らすぞ」
「了解、諸元再入力します」
俺の言ったとおり実行すべく、部隊が移動を開始する。
「松本さん、聞こえる?」
前線の歩兵を指揮する雨衣少佐から声が聞えた。
「どうした?」
「歩兵も機甲師団の跡を追うから、移動用のトラックを前線に持ってきて欲しいんだ、頼める?」
あの突撃の後で、まだ前へ進みたがるのか……。
「分かった、20輌の移動用トラックと装甲車を送る、負傷兵は置いて行けよ、後方部隊で保護するから」
「了解、シェフィールドを抑えたらまた通信を入れるから、その時は全部隊まとめてシェフィールドに直行してね」
そこで通信は切れる。
「全く、どこまでも身勝手な奴だな」
だが、その分強力な戦力なのだが……。
「まあいい、今は仕事をしよう」
そう言って、俺は別の回線に通信を繋げる。
「輸送隊、前線へ向かってくれ、歩兵を機甲師団に追従させる……ああ、頼む」
そんなことを話していると、別の受話器が鳴った。
指揮官車両として運用する際特設する衛星電話だ。
「こちら松本、どうした?」
「こちらコンドル隊、空爆終了を報告する」
コンドル隊か、シェフィールドに先制攻撃を仕掛けていた『B52Ⅼ』の部隊だ。
「ただ、一点気になったことが」
「どうした?」
この声はアメリカ人、通信機を介して日本語になってはいるが、所々ネイティブな発音が聞こえてくる。
「異様な命中率を誇る機銃座がありました」
……どうゆうことだ?
「詳しく聞こう」
俺が無線機を構え聞く体制を取ると肘が当たったのか、飲み切った缶コーヒーが、カランと言う音を立てて倒れ込んだ。
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