外章 戦士のいない桜日


現在、2月12日、11時23分、南大東島沖。




「レーダーにて艦隊補足! 国籍応答色反応なし、IFF応答なし!」

「間違いないな……全艦、ミサイル攻撃用意!」


 インドネシアより派遣された桜日防衛艦隊の旗艦である駆逐艦『スカルノ』のCICは、敵艦隊発見の報により、一気に緊張感を増していた。

 この艦隊には、他にインドネシア海軍所属、駆逐艦『ブルネイ』、中華連邦中華人民共和国所属、巡洋艦『山東』、中華連邦中華民国(台湾)所属、駆逐艦『馬公』が続いてる。


「我々は日本に頭を下げられてここにいるのだ、信頼には答えなくてはならん」


 この艦隊は、一部の主力艦とWS艦艇が欧州へ出払ってしまうことを受け、桜日政府が東南アジアの国々、中華連邦に頭を下げ、派遣を依頼した艦隊の一つだ。

 艦隊自体はあと二つ、陸では合計で二個師団、空では約80機の航空機が、日本の防衛を行うために駆けつけてくれた。


「射線クリア、標的ロック、VLSオープン……発射準備よし」

「YJ-18、発射!」

「発射!」


 一斉に艦隊から対艦ミサイルが放たれ、敵艦へと向かう。

 しかし、敵側も艦隊に気づいており、艦対艦ミサイルを同時に発射していた。


「敵艦よりミサイル飛来! 到達まであと170秒!」


 その様子を確認した乗員がそう報告すると、艦長は新たな指揮を下した。


「全艦取り舵いっぱい! トライデント発射用意!」


 一斉に艦隊が左方向へ艦首を向けだす頃、敵のミサイルはすぐそこまで迫っていた。


「トライデントの射程に入りました!」

「ミサイル近接防空はじめ!」


 その号令で、『スカルノ』の甲板からはトライデントのうちの一本がミサイルへ向かていく。

 少し遅れて、『山東』に搭載された迎撃ミサイルも発射された。


「発射したミサイル、敵艦へ到達まで後10秒!」

「敵ミサイル二本撃墜! あと一本です!」


 報告がCIC内を飛び交う。

 迎撃ミサイルで打ち漏らした一本が艦隊へ近づくと、近接防空火器であるCWISがうねりを上げ、迎撃した。


「敵艦へミサイル到達! 二隻の撃沈を確認! 他艦艇発見できず」

「……ひとまず、片付いたな」


 この頃になって、WASの量産艦に簡易的ではあるが、対艦ミサイルを装備しだしたことが明らかになり、海の危険度がより一層増していた。


「日本が返ってくるまで、東アジアの海は、我々で守らねばならない……しかし、本当に我々にそのようなことは可能なのだろうか……」


 駆逐艦『スカルノ』艦長は、そう静かに呟いていた。




 現在、2月15日、北海道択捉島防空基地。




「迎撃圏に敵爆撃機編隊が侵入、これを撃退せよ」


 滑走路に続々と機体が並んでいき、少し離れた位置では、一機の『一式陸攻』が飛び上がっていた。


「敵編隊『Ⅴ22インドラ』24機『N型ジェット』12機『S型戦闘機』22機の戦爆連合の模様、この数の編隊だ、北欧の見張りは発見できなかったそうだが『S7プレイヤー』が潜んでいることが想定される、見つけ次第撃墜せよ」


 管制塔から続けて敵の情報が入り、着々と離陸の準備が整う。

 滑走路に向かうは、中国の『J20』8機、タイの『su-30』4機、そして日本からは無人の『試製震電改』20機が並んでいる。


「これより、迎撃隊をコードネームで呼称する」


 その声とともに、ジェット機に乗り込んでいるパイロットのヘッドギアには、部隊名と番号が表示される。


「了解、こちらレッド1、全機離陸準備完了」

「了解、レッド隊、出撃!」


 その号令で、『J20』が離陸を始める。

 8機すべてが離陸したのち、『su-30』が滑走路に入る。


「こちらオレンジ1、全機離陸準備完了」

「了解、オレンジ隊、出撃!」


 今度は『su-30』たちが離陸する。

 最後に残った『試製震電改』は、管制塔の指示を待つことなく、一機ずつ空へと昇っていく。


「全機離陸確認、高度制限解除、グッドラック」


 それを最後に、管制塔との通信は切断される。

 

「全機、全力で迎撃に当たれ、町の警報を鳴らさせるなよ」


 レッド1が、そう言って皆の指揮を鼓舞して数分後、ジェット機たちは敵編隊の姿を捉えた。


「敵編隊を視認、これより攻撃に移る!」


 エンジン質力を上げて編隊へ向かっていくと、護衛をしていたジェット機たちが、レッド隊たちに機首を向ける。

 

「全機、エンゲージ!」


 『J20』たちが個別に機首方向をずらし、それぞれの敵へ向かう。

 その後ろについてきていた『su-30』たちもそれに加勢し、24機がまじりあう航空戦が始まった。

 一方、日本本土を目指して速度を上げ始めた『Ⅴ22』たちのもとには、20機の『試製震電改』が、『ネ号四三式エンジン』の音を響かせながら向かっていた。

 

 爆撃機たちがその存在に気付き、下方に弾幕射撃を行うにしても、すでに時遅く。

 『試製震電改』の機首につく、30ミリ機関砲五門が極太の日筒を打ち出し、爆撃機編隊の高度を抜かすと同時に、『Ⅴ22』たちの羽が30ミリ弾に貫かれ、粉々に砕け散る。




                 ――—―戦士のいない桜日は、いまだ健在だ。






                          ―――――――第七幕、完



              戦争は、気味が悪い。

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