第一九四話 海戦延長
数分前、主力砲戦艦隊直下、『伊403』内部。
「これは不味いな」
私の隣で、大堀さんは唸っている。
「通信機能、何も回復しませんね」
私も、いろんな所を確認して回りましたが、異常を確認できませんでした。
「艦隊の方も現在混乱してるようですね……艦上での足音が増大しています」
樫野さんがヘッドフォンを耳に当てながら、そう報告してくれました。
「ちょっと、パパに会ってきますね」
私がそう言うと、大堀さんがこっちに顔を向けてきました。
「会えるのか?」
「はい、パパの夢の中に入ってきますね」
私の言葉に驚いたのか、大堀さんは首を傾げます。
「ま、俺は知らないでいいことか……まあ、頼むよ」
適当に納得したようなので、私は「うん」と頷き目を閉じる。
ほんの少し体に力を込めて、艦から微弱な電気ショックをパパの頭に向けて発射します、こうすると脳波に影響を与えて、強制的に睡眠状態にすることができるのです。
しばらく経ち、パパが睡眠状態に入ったのを脳波の様子で確認して、私の存在をデジタル状の電子に変換、再び電気ショックで、パパの脳内で再生される電子的仮想空間(夢)の中に、実態を作り直す。
そうすると、私の目の前に真っ白な空間が現れました。
その中には、パパが待っていてくれました。
「パパ、急に眠らせてしまってごめんなさい」
「いや、こっちもヨミと話さなくちゃいけないことがあったから、むしろこの世界に読んでくれてありがとうな」
どうやら、パパも私に会いたかったようですね。
「パパ、電探や通信設備の様子はどうですか?」
「全部だめだ、艦内では伝声管、艦同士では発光信号で会話しているが、機動部隊と特殊遊撃部隊には、いまだに連絡が取れていない」
やっぱり、通信網が完全に切れていますね……。
「そういえば、パパは私に何を話したかったのですか?」
私が聞くと、パパは思い出したように話してくれました。
「ああ、どうやらこの電波障害、SKの攻撃によるものらしいんだ、そこでヨミに除去を頼みたくてな」
そこからパパは、ロイヤルの皆さんとの会話のことを全て私に話してくれました。
「……分かりました、やってみますね!」
「ああ、ようやく特殊電子戦闘用潜水艦の本領発揮だな」
そう言って、パパは私の頭を撫でてくれました。
「はい! お任せください!」
その会話を皮切りに、パパは目を閉じ、夢から覚めたようです。
「戻りました」
「お、何か有力な情報は貰えたか?」
ヨミが席に着いたのを見て、俺はそう聞いてみる。
「はい、どうやら纏姉弟お二人の出番の用です」
と、言うことはサイバー攻撃な訳だ。
「大堀さん、艦を戦闘モードより解析モードに切り替えます、よろしいですか?」
「ああやってくれ、纏姉弟、お前らも頼むぞ」
「「了解」」
それを確認して、ヨミが目を瞑る。
直後、艦の内部の照明が必要最低限になり、ヨミの周りに複雑な数式が並ぶ。
「解析モード起動、艦内電力、演算機能を解析に回します」
ヨミが解析を始めようとしたその瞬間、樫野が叫んだ。
「艦隊増速! 警報を鳴らしています!」
「潜望鏡深度まで浮上!」
返答をせず、桐嶋は操縦桿を手間に引き込む。
俺は席を立ち、降りてきた潜望鏡を覗き込む。
「……対空戦闘の用意をしてるな」
艦隊の方を見ると、主砲と高角砲の仰角を上げ、機銃弾の箱が置かれている。
向きを変え、空の方を見上げると。
「最悪のタイミングで来やがったな」
大量の航空機が、艦隊に向けて飛翔してきていた。
午前10時14分、敵機来襲。
「対空戦闘! 各艦にだで……発光信号、『各艦各個二対空戦闘』」
俺は下唇を噛みながら、空を見つめる。
「クッソ、電探が使えないんじゃ直接見るしかない!」
そう思い、俺は防空指揮所へと続く階段を上る。
「ダメだよ勇儀! 危ないよ!」
大和もそう言いながら続く。
防空指揮所に上がると、真っ先に俺は備え付けられた双眼鏡で敵編隊を確認する。
「……『N型爆撃機』と『N型攻撃機』だ……これくらいなら!」
俺は伝声管を開き、艦内に伝える。
「敵編隊右舷方向、距離、約6000、高度、約3500! 数、『N爆』20、『N攻』15! 主砲三式弾、砲撃用意!」
俺の指示で、主砲塔が敵編隊の方を睨む。
砲撃の指示を出そうとした瞬間、上空を何機かの水上機が通りすぎた。
「撃ち方まて!」
再び双眼鏡を覗き、姿を確認する。
「『瑞雲』!」
「もしかして、扶桑の艦載機?」
俺の声に反応して、大和が艦隊左舷方向を見る。
それに倣い、俺もそちらを双眼鏡で見ると、『扶桑』の後部甲板から数機の水上機が飛び出していた。
「ここにきて、航空戦艦に改装したのが役に立ったな……」
『瑞雲』水上偵察機、偵察機とは名ばかりの機体で、250キロの爆弾を抱え20ミリ機銃を備える、戦闘爆撃機として戦える水上機だ。
二次大戦中、巡洋艦も爆撃できる機体を積みたい、と考えた時、偵察の仕事をメインとし、なおかつ爆装もできる機体ということでこの機体が誕生した。
「扶桑より発光信号! 『我、瑞雲隊ニテ敵編隊ヲ攻撃ス』以上です!」
伝声管から、そう報告が来た。
「返信、『誠二深謝ス、貴艦ノ航空隊二期待ス』以上だ」
「『誠二深謝ス、貴艦ノ航空隊二期待ス』、返信します」
俺は再び、敵編隊の方へ双眼鏡を向ける。
「戦闘機が居なかったのが、唯一の救いだな……」
万が一護衛の戦闘機がいたら、満足に『瑞雲』が攻撃をするのは難しい。
どれだけ機動性、速度ともに良好で20ミリを備えているとはいえ、あくまでも水上機だ、通常の戦闘機と戦って満足に戦えるかは不明だ。
「流石『瑞雲』、相手が攻撃機ならしっかり戦えるね」
大和が感心しながら、編隊の方を見つめる。
「ああ……だが……」
だが、飛び立った機数が少なすぎる……。
おそらく、電探や通信機の異常が見られた時から扶桑は『瑞雲』を準備し、何機かを空に上げていたのだろう、それが最初に敵機に向かった。
その数三機、敵機を確認してから発艦したのは二機、5対35では分が悪すぎる。
「そろそろだな……」
『瑞雲』は十数機の敵機を落としたが、そろそろ艦隊の対空砲を使うタイミングだ。
「『扶桑』に発光信号! 「『瑞雲』ヲ引カセ、攻撃ノ効果大ナリ」、復唱はいい!」
「了解!」
俺は伝声管で通信課に連絡を入れたのち、今度は対空砲群の伝声管に叫ぶ。
「各対空砲、電探射撃は使えない! しっかり狙え!」
その掛け声に答えるように、右舷の対空砲群が砲撃を始めた。
「大和、高角砲の照準手伝ってやれるか?」
「分かった、任せておいて! くれぐれも機銃掃射と爆撃には気を付けてね?」
そう大和は残して、姿を消した。
「分かってるよ……」
こんなところで、俺は死ぬもんか。
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