第一九五話 破壊神再び


同時刻、艦隊直下、『伊403』。


「空襲が始まったな」


 先ほど『瑞雲』が何機か墜としていたが、残った敵機は真っ直ぐ艦隊に向ってきていた。


「ヨミ、解析はどうなってる?」

「接続可能領域を、機動部隊、遊撃部隊にまで広げています……」


 現在艦内では、纏姉弟とヨミが、レイピアを取り除くために解析中だ。


「……接続完了まで、5、4、3、2、1、接続」


 その瞬間、纏姉弟の前にあるモニターに、艦隊すべての電探と通信機器の名前が並ぶ。


「私が通信機器をやります、お二人は電探を直してください」

「「了解」」


 それを合図に、姉弟は高速でタイピングを始めた。


「雀、どれくらいかかる?」

「900秒あれば行ける」


 俺が聞くと、タイピングの手を緩めずに雀が答える。

 900秒、13分か……この数を、それに未知のサイバー攻撃相手に、ここまで強気に出られるものか?

 俺の表情を見たのか、龍が付け足してくれた。


「今回のレイピア、聞く限りではそこまで強力なコードでは無いので、どこにどう書き込まれているかさえ解れば、一瞬で消すことができます」


 そんなもんなのか? サイバー戦闘はよく分からん。


「見つけました、コード名『レイピア』、フォルムタイプコマンド、コードの挿入場所はランダムですね」


 ヨミが、自身の周りを高速で周回する数列から目を離すことなく、姉弟にそう伝える。


「おっけー、コマンドタイプなら、一度覚えさせれば一コロよ」


 雀が自信たっぷりに言いながら、モニターを凝視する。

 その十数秒後、龍と雀が同時に叫び、キーボードを一際強く叩いた。


「「ビンゴ!」」


 その瞬間、モニター上ではメーターが出現し、じわじわと数字が上昇していく。


「終わったのか?」


 俺が聞くと、二人は親指を突き立てる。

 どうやら終わった? みたいだ。


「全然何してたのか分からん……」


 俺がぼやくと、モニターを見つめながら、雀が教えてくれる。


「サイバー攻撃の手段は、大きく分けて『コマンド』『ウイルス』『クラッシュ』の三つに分けられる、その内今回は『コマンド』、何かを実行するプログラムの中に余計なものを割り込ませて、動きを阻害するタイプの物」


 龍が続ける。


「『コマンド』は、同じ効果を実行するには、同一の名称でなくてはなりません、なので、かき込まれたコマンドを消すために作ったコマンドに、名前を覚えさせ一挙に消去する、それを今実行しました」


 はあ……まあやったことは理解できたが……。


「まあ……大丈夫ならいいや」


 俺は深く踏み入らないようにしとこう……。


「こっちも通信機器の復旧終了しました」

 

 ヨミがそう言って、周囲の数列を消していく。


「早いね、流石ヨミちゃん」


 雀がそう言いながら、うーんと伸びる。


「流石に量が多いので、少し時間がかかりました」


 ヨミはそう言いながら、耳に手を当てる。


「パパ、聞こえますか?」



 

「ヨミ? 通信機器治ったのか?」

 

 防空戦闘が終わり、艦橋に戻って様子を見ていると、無線機から声が聞えた。


「はい、電探の方ももう間もなく復旧完了します」

「ありがとうヨミ、助かったよ」


 俺は、息を吐きながらそうヨミに感謝を伝える。


「いえ、之が私の本業ですから……でも、後でいっぱい撫でてくださいね!」

「ああ、分かっ―――何事だ!」


 突如として、艦内に再び空襲警報が鳴り響く。


「電探が復旧! それと同時に機影を探知、超大型の六発機……『シヴァ』です!」

「こちらでも音響を探知、かなり低空を飛行していますね、機数は10機です」


 電探室とヨミの両方からそう報告が上がる。

 なんで『シヴァ』が……。


「接敵まで、後12分!」

「機動部隊に繋げ! それから、『グラーフ』に直掩隊を上げさせろ!」

 

 12分あれば、機動部隊の戦闘機が到着できる、『零戦』と『紫電改』がどこまでやれるか分からないが、『メッサー』だけでは、心もとなさすぎる。


「こちら赤城の浅間だ、どうした」


 通信機から、発砲音を背後に浅間長官の声が聞えた。


「戦闘機隊をできるだけよこして欲しいんですけど……」

「それは無理だな、現在水雷戦隊と交戦中だ、発艦の余裕はない」


 うんやっぱり、後ろの砲撃音、20センチ砲の音だもんね、対空戦闘には20センチ使えないもんね……。


「規模はどれくらいですか?」

「駆逐艦12隻、巡洋艦3隻が、真っ直ぐこちらに向ってきている」

 

 不味いな……。

 赤城の言っていたことが現実となってしまった……。


「安心しろ、こっちは何とかなる、自分たちのほうに気を使え」


 俺の心を見抜いたように、そう浅間長官が言う。


「分かりました、そちらもお気をつけて……」


 だとしたら、当てにできるのは遊撃艦隊にいる『しろわし』のジェットだけか。


「こちら有馬、明野さん、聞こえますか?」


 俺は通信の相手を、遊撃艦隊の旗艦である『あめ』艦長、明野さんに切り換えた。


「聞こえています、どうしましたか?」

「現在、こちらに『シヴァ』が向ってきているので、ジェット機の応援を頼みたいのですが」


 明野さんが俺の問いに答える前に、通信機の向こうでは、けたたましく警報が鳴り響く。


「……ごめんなさい、そんな余裕はないみたいです」

「どうしましたか?」

「艦隊後方より、約20機の『タイプA』、10機の『タイプF』が接近中です」


 『フライングトール』の艦載機! くっそ、本隊がいけないから、せめて艦載機だけでもと飛ばしてきやがった。


「分かりました……」

「お互い、頑張りましょう」

「ええ、そうですね」


 明野さんは、申し訳なさそうに、通信を切った。


「接敵まで」

「後8分」


 大和がそう答える。

 英国艦の三人には一度艦に戻ってもらったので、艦橋には俺と大和の二人だけだ。


「いったん状況を整理する、各艦に対空戦闘を指示、何かあったら教えてくれ」

「分かった」


 大和はそれ以上何も言わずに姿を消し、艦内には大和の声で対空戦闘用意が出された。

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