外章 予想外
「再び着水音」
樫野がそう報告する。
「どうやら帰らないようですね」
ヨミはそう言いながらため息をつく。
衛星電波停止後、暫く様子を見ていたが、『伊403』の上に陣取る艦はどかないようだ。
俺はヨミに渡された資料を見ながらぼやく。
「『リヴァイアサン』ねえ……」
その資料には、おそらく今上に居るであろう艦の情報が記載されていた。
――――――――――――――――――――――――――――—―――—————―
名称;『リヴァイアサン』 艦種;対潜掃討艦 所属:ロイヤル
出現頻度:★★☆☆☆ 脅威度:★★★☆☆ 知能AIレベル:★★★☆☆
機動力:★★★☆☆☆ 防御力:★★★★☆☆
全長:193メートル 全幅:17メートル
基準排水量:9、180トン 速力:28ノット
主砲:2口径30センチ連装砲 二基四門
副砲:なし
魚雷;なし
対空;40口径12、7センチ連装砲 四基八門
40ミリ連装対空機銃 十基二十丁
艦載機;なし
同型艦:『リヴァイアサン』『アンヴァル』『ケルピー』
イギリスが保有する対潜掃討艦。艦種が示す通り、対潜水艦戦闘を主眼に置いた艦で、主砲には特徴的な対潜榴弾砲を備えている。逆に対潜以外での戦闘はほぼ無力なため、単艦で行動することはほぼない。
同型艦は三隻いるとの情報があるが、一番艦の『リヴァイアサン』以外の目撃情報はなく、すでにWASに撃沈されたか、そもそも未完成だったなどの推測がある。
――――――――――――――――――――――――――――—―――—————―
「で、どう戦う?」
俺が効くと、ヨミは笑顔で言った。
「護衛しているであろう量産駆逐艦を一隻ハッキングし、戦わせます」
「……はぁ?」
「その後、混乱している隙をついて雷撃、撃沈します」
その笑みからは、とてもも冗談を言っているとは思えなかった。
「ふーむ……まあ任せよう、桂、纏、ヨミの指示通りに動いてやれ」
「「「了解」」」
そう俺が指示して背もたれに背中を預けると、ヨミが意気揚々と立ち上がり、再び自身の周囲に数式を浮かび上がらせる。
「では……量産駆逐艦一隻のハッキングを始めます……雀さん、龍さん、サポートをお願いします」
ヨミのその一声で、纏姉妹はモニターに向かい、キーボードを構える。
「……接続開始……セキリュティチェック……ボーダーStep5、レベル……7……
解読開始」
高速で数字がモニターを駆け巡り、纏姉妹の前のモニターには俺にはよくわからない、プログラムのコードらしき英数列が無限に羅列され続ける。
「桂さん、艦首魚雷発射口に31式誘導魚雷、8本装填」
「了解、艦首31式誘導魚雷装填」
着々と殲滅の用意がされていく。
「……Step4解読終了、FinalStepに移行……これは……」
「これ、『
なんだそれ?
「なんだそれは?」
俺が聞くと、ヨミは数列を見つめ続けながら答える。
「WSを構成するキューブ数列と同時に存在する、WSを制御する数列です、キューブ数列が本能ならば、こちらは理性に値するものですね」
ほーんと、勝手に納得している間に、纏姉妹のキーボドの手が止む。
「ここからは、僕たちのスピードじゃあ無理かなぁ……」
「そう……だね、後はヨミちゃんにお任せで」
どうやら、ここからはヨミ一人でやるらしい。
「接続……演算加速!」
ヨミの目の色が変わり、表示される数列の変化が加速していく。
とても目では追えない程の速度へ加速し、数十秒たった後、ヨミは言った。
「命令、司令変更、標的『リヴァイアサン』『量産駆逐艦』……撃ち方はじめ」
どうやら、ハッキングは上手くいったようだ。
「海上にて砲撃音!」
「桂さん、魚雷一斉射!」
「了解! 一斉射!」
これで終わりか。
「命中まで、4、3、2、1、今!」
樫野の報告と共に、僅かだが、海面から振動が伝わってくる。
「……水上に航走音なし、三隻とも撃沈の模様」
ハッキングした艦もろとも沈めたようだ。
「さてさて、之で俺らの仕事は終わりかな?」
俺がそう伸びをしながら言うと、ヨミも頷く。
「そうですね……一旦、『墓石』と合流しましょうか」
現在、2月14日、×時〇〇分、エディンバラ最上位指揮所、指揮官室。
「……砲戦部隊が壊滅した?」
一人の男が、咥えていた煙草を落としながらそう呟く。
「はい、独日の連合艦隊に完全に打破されたようです」
「なぜ? 『スレイブニル』級と『UAC』の掩護があったはずではないのか?」
報告をする兵が首を振りながら答える。
「戦場は豪雨の元で行われたため、上空からのレーザーも艦載機の掩護もすることができませんでした」
大きく男はため息をつく。
「……あの潜水艦……あの潜水艦はどうした? 艦隊掩護をしている」
相変わらず兵は息を詰まらせ、答えた。
「潜水艦を攻撃していた『リヴァイアサン』他二隻、一瞬の内に消息を絶ちました」
「そんな……撃沈されたのか? 『リヴァイアサン』は対潜専門の艦だぞ」
兵は首を振る。
「残念ながら、魚雷と思わしき水中航走音をとらえたという報告の直後に反応が消失、一撃のもと沈められたと思われます……容易く、撃退されたと思われます……」
WASの無人兵器たちは、逐一本部に情況説明の報告を入れながら戦っており、イギリスから奪取した『リヴァイアサン』にも、その機能を搭載していた。
そして、その報告の最後の一文が、『水中にて航走音を確認、ぎょら―――』と、途中で途切れていた。
男は汗をだらだらと流しながら、机を強打する。
「クソ! 失敗だ、大失敗だ……これで、水上打撃力をほぼ消失した……」
「それだけじゃないわね」
男のいる部屋に、金髪の女が入って来る。
「ヴェレッタ将官!」
慌てて二人は敬礼をするが、不機嫌そうにヴェレッタは言う。
「WASの情報を与えていたロイヤル艦が独日側に渡った……つまり、ある程度の情報が敵へ筒抜けになったわ……どうしてくれるの?」
その言葉を聞いて、男の顔はさらに青ざめる。
「こ、これは、艦隊戦の計画を立てたブロッグ大佐に責任が……」
「そんなことは聞いていない!」
ヴェレッタの強い声が指揮官室にこだます。
「そんな風に責任を押し付けているから、いつまでたっても軍の重要役職になれないんじゃないかしら? 陸軍臨時少将ゲイベルスさま?」
ゲイベルスは、唸り声を上げながら俯く。
この男は、元々英国陸軍の人間であったが、WASと共謀し、反乱を指導したうちの一人だ。
ブロッグと呼ばれた男も元は英国の海軍であり、ロイヤル艦へ首輪を装着させたのもこの男である。
「ちなみに、ブロッグはもう処分したわ、使えないし用なしだし」
その一言に、ゲイベルスは肩を震わせる。
「貴方も、個人的には始末してしまってもいいのだけど……」
ヴェレッタは腰からSAAピースメーカーを取り出し、くるくると回しながら言葉を続ける。
「陸での手腕は確かだと凛が言っていたし、ひとまず陸上戦の権限はまだ持たせてあげる……でも」
ガチャリと撃鉄ハンマーを起し、銃口をゲイベルスに向けながら言う。
「ブラックプールが落ちるような事態になったら……分かるわよね?」
静かにゲイベルスは頷く。
「ならいいわ」
ヴェレッタは優しく微笑みながら引き金を引く。
重い銃声が響き、ゲイベルスの後ろにある世界地図、丁度中国の双遼辺りに弾丸が着弾する。
「空母たちは使わせてもらうわ、航空機は陸の上に居るのだけで何とかしなさい……それじゃあ、Wiedersehen.」
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