第一八九話 本領発揮
同時刻、ドイツ艦隊より少し離れた水中、水深約900m
「大分遅れちゃいましたね、大堀さん」
艦長席の左にあるモニターの前に座る、
「そうだな、思ったより装置を見つけるのに手間取ったな」
現代艦のレーダーをしっかり稼働させるために、海底に敷設された電波機雷を捜索、破壊していたら、ドイツ艦隊に向かうのが遅れてしまった。
「申し訳ないです、まだ電波の逆探知はやったことがなくて……」
「きにしないの、結局見つけられたんだから、大丈夫、大丈夫」
凹んでいるヨミを、龍が慰める。
ヨミは艦長席右隣りに座っている、どうやら副艦長席が定位置らしい。
「そんで、衛星のハックはどれくらいかかるんだ、雀?」
CICの正面、武装を司る席に座る
「意外と構造が複雑で、まだ侵入も出来てないんだからしばらくはかかるわよ」
雀はイライラしながらモニター前にあるキーボードを高速で叩く。
「早くしないと、上のドイツ艦が全滅しますよ、今スクリュー音が一つ止まりましたし直撃音が増えてます」
左正面のソナーを司る設備の前に座る
「エンジンも完全に無音な訳じゃないんだ、ずっと同じ場所にいたら見つかっちまうからな、気をつけろよ」
右正面の機関部を司る設備の前に座る、
「ほんとにお前らはおしゃべりだな……一様作戦中だぞ?」
俺がそう呆れつつ言う。
ここにいる面子は皆ファントム部隊の人間で、纏姉妹はファントム部隊のサイバー戦闘部隊、アルバトロス隊のエリート姉妹だ。
他の三人は、ファントムの中で潜水艦に乗った経験がある者たちだ。
「……龍、『キングジョージ』以外で、接続回路あった?」
「姉ちゃんも気付いた? これさ、多分だけど……」
二人が何やら不穏なことを話し始めた。
「「偽物だね」」
「おいおい、じゃあ『キングジョージ』以外の奴等は、WASの艦なのか?」
「そうなりますね」
桂と龍がそう話している傍らで、ヨミが耳に手を当てて目を細めた。
「どうやらお二人の言っていることは正しかったみたいですね、主力艦隊の方に、ロイヤルネイビーが出現したようです」
「どうするんです、リーダー?」
桂が聞いてくるので、俺はため息をついて帽子を脱いだ。
「纏姉妹はそのまま衛星電波の停止に努めろ、他の要員は魚雷戦闘用意、目標『ウォースパイト』」
「「「「「了解」」」」」
その掛け声で両サイドからキーボードを叩く音が加速し、正面のモニターには武装に関するデータが映し出される。
「ヨミ、ドイツ艦隊に打電『『キングジョージ』以外ハ偽物、容赦無ク撃滅サレタシ』後、主力艦隊に『ロイヤルネイビーは、『キングジョージ』意外は本物、注意サレタシ』以上だ」
「了解です」
「艦首魚雷装填完了、いつでもいけるぞ」
準備は整ったらしく、桂がそう言った。
「よし、目標『ウォースパイト』、一斉射!」
「発射!」
俺の指示に合わせて、桂がフットレバーを踏込み、艦首八門の発射口から魚雷が一斉に放たれる。
「……ソナーに感あり、之は……味方艦隊ではないですね」
ヘッドファンを外して、樫野が言った。
「規模は?」
「……小型艦二隻、大型……いや、中型艦一隻……」
樫野は、ヘッドフォンを片耳につけながら報告を上げる。
「……着水音!」
その直後、艦体が大きく揺さぶられた。
「ああああ!」
ヨミが悲鳴を上げて前のめりに倒れる。
「ヨミ!」
「大丈夫です! 急速潜航、面舵一杯!」
ヨミが顔を歪めながら、そう桐嶋に指示を出す。
「よ、ヨーソロー、急速潜航!」
間髪入れず、ヨミが指示を出す。
「アンテナ魚雷と囮魚雷発射!」
「了解、アンテナと囮発射!」
ヨミが一通り指示を出した後、息を吐き席に座る。
「ヨミ、今の攻撃、何だと思う?」
「十中八九、30センチ対潜榴弾砲のD型弾頭ですね」
やはりか……まさかここで相手にするとは思わなかったが……。
「雀、龍、後どれくらいで衛星を止められる?」
「後……879秒」
雀がそう言いながらキーボードを叩く。
「樫野、敵の情報を探れ、ヨミ『墓石』に打電、援護可能距離にてステルス待機」
「了解」
さて、想定外のことが起きるのは付き物だが、この程度でファントムは痛手でも何でもない、それより、上にいる艦隊の方が心配だ。
「まあ、有馬が指揮するなら大丈夫か……ヨミ、上のの奴等はどうする?」
「……まずは衛星を止めましょう、その後仕留めます」
「了解」
数分前、『武蔵』艦橋。
「こんの忙しいときに!」
私は巡洋艦に全ての砲を向けている時に、反対側から現れた軽空母、そしてロイヤルネイビー。
先ほどヨミから来た打電によれば、あのロイヤルネイビーは操られている本物らしい。
「本物じゃあ叩けないじゃないか!」
そんな怒りを乗せて主砲を一斉射すると、吸い込まれるように『ミドル級巡洋艦』に命中し、凄まじい爆発を起こす。
「あら、弾薬庫が二つほど誘爆したみたいですね……やりすぎましたか……」
少し間をおいて次の標的に照準を置こうとすると、右舷に衝撃を感じ振り返る。
「ッチ、もう射程か」
視線の先では、ロイヤルネイビーの先頭に位置する『クイーンエリザベス』が発砲炎を上げていた。
「だがそんなチンケな砲で、私達に傷をつけられると思うなよ」
私は油断でも何でもない、事実を述べたつもりだった、だがどうやらそれは私の見当違いだったようだ。
「敵弾来ます!」
乗員がそう叫ぶが、私は見向きもせず次の巡洋艦に照準をつけようとしていた所。
「ん? 不発?」
私の、右舷甲板に刺さった砲弾は爆発しなかった。
しかし、砲弾が赤く光ったと思えばぐるりと回転し、甲板の下へと入り込んでいった。
「グッハァ⁉」
甲板から砲弾が見えなくなったところで、砲弾が爆発を起こした。
「『大和』に打電、『敵は未知の砲弾を持つ』以上、復唱はいい!」
「了解!」
まさか、こんな形で痛手を負うとは……。
後で詳細を報告しておかなくては、お姉さまに刺さった時痛手を負ってしまうかもしれない。
「艦隊、面舵90度! 速力22ノット!」
『長門』から通信が飛んでくる。
先頭の『長門』が右に舵を切ると、それに続いて『陸奥』『大和』も舵を切り、横帯陣でこちらに向かってくるロイヤルネイビーと軽空母一隻に、T字をかくように艦隊が展開される、之で多少はましになるだろう。
そう思っていたのもつかの間、私の後方で激しいフラッシュが起きた。
「きゃああああ!」
通信機に、扶桑の悲鳴が入る。
「どうかしましたか、扶桑さん!」
『扶桑』は私の真後ろについているため、直接視認できない。
「雷が……イヤァ!」
もう一度激しいフラッシュ。
どうやら、立て続けに雷が『扶桑』に落ちたらしかった。
「後部艦橋見張りより艦橋! 『扶桑』速力低下! 二番砲、一番砲、炎上!」
まずい。
「『アイオワ』、扶桑を追い抜きます!」
ああ、折角直してもらい、航空戦艦として生まれ変わったのに全く活躍できていないわ。
「主砲、注水急いで、せめて艦隊に迷惑をかける訳には行きません」
私がそう指示を出し、空を仰ぐ。
「この天気じゃ、水上機たちも活躍はできないものね……」
仕方がないわ、この戦いを切り抜けて次の戦いに期待しましょう……。
「三番、四番砲塔は動かせるかしら?」
「いえ、現在旋回機構の回路修復中で、後4分は旋回不可能です」
はぁ、ドイツの港で修理してもらえるかしら……。
「安心してください、副砲は撃てます、中口径であっても之だけ数が揃っているなら、十分な威力が発揮できます」
私の左後ろで、情報の補佐、指揮の補佐をしてくれているこの青年は、酒井旭、海上自衛隊総大将の息子さんで、この艦の事実上の艦長だ。
十分な指揮能力と冷静な判断力で、私の補佐をしてもらっている。
「ありがとう旭君、君がいてくれて本当に助かるわ」
私がそう笑いかけると、旭君は少し頬を赤らめて敬礼する。
「い、いえ、これも仕事ですから、扶桑さん」
「なんだか、目の前からピンク色のオーラを感じマース」
私がそう言うと、コルトが「ハハハハハ」と笑い声を上げる。
「なんだなんだ、日本艦の艦橋では、この砲弾の雨の中でもイチャイチャできるのか、たまげたもんだな」
さっきから、私も含め、新型の砲弾は飛んでこない物の、15インチ砲弾が降り注いでいる。
何発か被弾している艦もあるし、けして落胆できる状態ではないのに……。
「なんでさっきからそんなオーラが、流れてくるのデース! うわああ!」
そう私が耳朶を踏んでいると、右舷に強い衝撃が走った。
「右舷高角砲群に被弾!」
「消化と修理急いで!」
もう! 衛星電波はまだ止まらないの⁉ 『ムスメ』とかいう潜水艦の、ハッキングシステムはその程度なの⁉
「……ん? 『娘』とやらから、電報が飛んできたぞ」
コルトがそう言って、私に艦橋の外を見るよう指を指した。
指さされた方向を見ると、ロイヤルネイビーの艦たちが、先ほどまでこちらに向けていた砲たちを下に下げている。
現在、9時43分、『大和』艦橋。
「終わった……の?」
突如俺たちに降り注いでいた砲弾が止み、辺りには雨風の音が響いている、だがその雨風もさっきまでのような勢いはなく、小雨程度の雨に変わっている。
「ヨミから電報だ……『衛星システムダウン、首輪の効力、無効化終了』」
どうやら、衛星のハッキングは上手くいったみたいだ。
「じゃあ後は、あいつだけだな」
俺の視線の先には、ロイヤルネイビーに囲まれる一隻の軽空母。
「『レプラコーン』、お前の命もこれまでだ」
万が一ロイヤルネイビーに当たったらまずいので発砲していなかったが、自我を取り戻し、『レプラコーン』からそれらが離れてくれている。
「『長門』『陸奥』、突撃する」
長門がそう言って、舵を大きく切った。
「二隻で行かせるの?」
「軽空母相手なら、何てことないだろ」
大和の疑問に、そう俺が答えると、「そっか」と言って参謀席に座った。
「取りあえず、之で海戦は終了かな?」
「そうだな、後はドイツ艦隊が偽物たちを倒し終わったかどうか、だな」
そんなことを言った直後だった。
「『レプラコーン』爆発⁉」
見張りがそう大音量で叫んだ。
「なに⁉」
俺が急いで双眼鏡を向けると、何かプラズマのような電光を帯びながら、爆炎を躍らせている。
その火や破片が、近くにいた長門に降り注ぐ。
「長門!」
「ック! この程度なら、大丈夫だ」
近づいていた二隻は舵を切り、『レプラコーン』はまだバチバチと電光を帯びながら、爆発を繰り返している。
一体何が起こったらあんな事になるんだよ……。
「これで……本当に終わり? だよな……」
爆発が落ち着き、海中へと没していく艦体を見つめながらそう呟く。
「ドイツ艦隊、敵艦隊を殲滅、なお『キングジョージ』は遁走している模様」
『キングジョージ』は、首輪の効力が切れているはずだから攻撃はしてこないと思うのだが……。
「なんで、逃げてるんだ?」
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