第一九一話 降下猟兵(一人)



 数十分前、ロンドンより北方向、WAS弾薬集積所、目標名「アルファ」。



「空、大丈夫?」

「うん、いつでもいけるよ」


 私はゆっくりとコックピットの風防を開け、手榴弾とP30、ナイフを数本用意する。


「本当にパラシュートなしで降りるの?」

「うん、だから極力低い所で下ろしてね」


 覚醒状態であれば、それくらいできる。


「行くよ、空!」


 零がそう言うのと同時に一気に降下し地面が近くなる。

 だいたい高さ九メートルの所だ。


「機銃掃射に注意して!」


 その声を聞いて、私はコックピットから飛び出し地面に転がる。

 ぎりぎりまで速度を落としてくれたおかげで、たいして痛くない。


「さて、給料分の仕事はしなくちゃね」


 給料は何を貰うかはまだ決めてない訳だけど。

 ガチャンと拳銃のコッキングを行い、ナイフを左手に持ち、爆薬を確認する。

 その時正面から一発のライフル弾が飛んできたのを確認し、首を倒す。


「危ない危ない」


 私を撃った銃口を発見すると、体制を低く保ち、走る。


「てい」


 掛け声とともに左手のナイフを投げ、ライフルを構えた歩兵の頭を突き刺す。


「ごきげんよう、弾薬を守る兵士諸君」


 私は頭に突き刺したナイフを抜き、こちらを呆然と見つめる歩兵たちに語りかける。


 フリーの歩兵22人、戦車は無し、爆発物なし、機銃4、ライフル10、アサルト4、装甲車輛1、野砲2……。


「そしてさようなら」


 私は右手に持っていたP30で一人ずつ頭を撃ち抜いていく。

 その光景を見て、野砲が咆哮を上げ、装甲車輛の機銃が撃ちだされる。


「おっとと」


 私は大きく右に跳び、砲弾を避けた後、頭を撃ちぬいた敵兵の体で機銃掃射を受け止める。


「そう言えば、この陣地守ってるのって、皆イギリス人ぽいな……人類の裏切り者たちばかり……」


 私は飛んでくる機銃弾を避けながら、そんなことを考える。

 弾を跳びながら避けると同時に、辺りにおいてある弾薬箱や砲弾箱に火薬を取り付けていく。


「イギリスは確か、キリスト教の人達だよね」


 私は火薬の起爆スイッチを取り出し、笑顔で兵士たちに語り掛けた。


「貴方たちの魂が、神のもとで安らかに眠れますように」


 言い切るとスイッチを押し、兵士もろともあたりを吹き飛ばした。


「えーと、アーメン? だったけ?」


 これ以上は、宗教の人に怒られそうだから止めとこ……。


「零、降りられそう?」

「大丈夫そう、そこから少し離れた開けた所に降りるから、こっちに来てもらえる?」


 私は辺りに投げたナイフを回収しながら、零との合流地点に向かった。




 現在、8時15分、ロンドンまで14キロ地点、主力機甲師団。




「正面より敵機接近、機数8!」

「陣形そのまま! 『四号対空』弾幕射撃、『87式』は引き付けてから撃て!」


 なんと……航空機が出てきたか、サツキの時に、『B57』があらかた基地は潰したと思っていたが……まだ残っていたのか?


「敵機種判明! 『Aタイプ』!」

「『A』だと⁉」


 この機体は『フライングトール』が搭載する攻撃機仕様の無人機だ、何故こんなところに……。


「迎撃機来ました!」


 その報告と共に、後方から『F15』が三機、ミサイルを発射しながら突っ込んで来る。


「その機数で足りるか……?」


 無人機は常人にはできない軌道をこなし、攻撃を仕掛けてくる。


「吹雪さんから衛星通信が来ています」

「繋げろ」


 私は車内に入り、受話器を取る。


「私だ」

「吹雪です、そっちの空はどんな感じですか?」

 

 吹雪君はなんとも緊張感のない声で話してきた。


「あまりよろしくないな、『A』8機対『F15』3機だ」


 その時、新たなジェット音が響いた。


「訂正、敵側に追加で『Z4アネモイ』二機だ」

「後十分まってね、『ゼロ』が応援に行くから」

「了解した」


 私がそう言って通信を切ると、爆発音が二つほど聞こえた。


「『四号対空』二輌沈黙! 誘導爆弾による攻撃と考えられます」

「『A』の今回の装備は誘導爆弾か……」

 

 ……さすがに十分は持たんか……。


「全車、左にある公園の林に逃げ込め、対空車輌は他車輌を援護しろ」


 私がそう伝えると、各車両が進む方向を変え、車道から歩道を乗り越え、左側に存在していた大きな公園内にある林に、続々と車輌たちが侵入していく。


「これで耐えられますかね?」

「分からん、だが時間稼ぎにはなるだろう」


 通信手が私にそう聞くが、私自身『A』タイプの介入は想定外だったため、正直どうなるか分からない。

 もちろん航空機の攻撃は想定していたため、航空勢力と対空車輌は持ってきたが、『A』に対空自走砲の射撃では命中精度が悪くまず当たらない、よってただの攻撃の妨害にしかならない。


「それでも、『87式』の射撃はなかなか精度が良いな……」

 

 そんなことを思いながら、私は空を見つめていた。




 現在、9時00分、目標『チャーリー』、戦車集結点。




「お、見えたね」


 私は零のコックピットから下を覗き、戦車の台数を確認する。


「いやーさすがにあれは仕留めきれないかなぁ……」


 そこには、大きなショッピングセンターの駐車場を使って、『ドッグ』軽戦車5輌『ジャガーアサシン』中戦車10輌が鎮座し、周囲を数十名の歩兵が囲っている。


 その中心には、おそらく砲弾が詰まった物資が並んでいた。


「どうする? あそこは襲わずに帰る?」

 

 零がそう聞いてくるので、少し考える。

 私に残っているのは小型Ⅽ4が二つと手榴弾が一つ、後はナイフ10本とハンドガン一丁……さすがに火力不足すぎる。


「……鹵獲……は無理そうかなぁ」


 さすがにあの数では、鹵獲したところで蜂巣にされそうだ……。


「しょうがないね、ここは諦めてボーンマスに帰ろうか」

「わかった、じゃあはん――」


 零が言い切る前に、目の前にいた戦車達に火柱が立ち上り、土煙が上がる。


「何事⁉」


 私がそう叫ぶと同時に、二度目の着弾が起こる。


「効力射だね……でもいったいどこの?」


 零がそう呟いていると、ショッピングセンターの扉をぶち壊して五輌の戦車が突入してくる。


「あれって……『90式』?」

「いや、似てるけどちょっと違うね」

 

 私の疑問に、零はそう答える。

 

 『90式』じゃないとすれば、じゃああれはなんだ? ユニオンでも北欧でもロイヤルでも鉄血でもなさそうだが……。


「ねえ、あのマークって」


 戦車の右頬にあるマーク、そこには骨になった狼の顔が描かれていた。


「あんなマーク、私は知らない……」


 零が知らないのだ、私が知っている訳がない。

 そんなことを思いながら下の様子を見ていると、零の無線機から急に声が聞えた。


「上空の『零戦』のパイロットに告ぐ、今見た光景は誰にも言うな、ただ有馬指揮官にはこう伝えろ、亡霊はどこにでも現れる、必要になったら墓石を掘り起こせ、42219、42219だ」


 そこで無線は切れ、展開していた五輌の戦車は何処かへと走り去っていた。


「……あそこから私に乗る空が見えるなんて、よっぽど目がいいみたいだね」


 零がそう呟く。


「もしかして、あれもファントムの一部隊なのかな」

「ファントム?」


 零は知らないようなので、私は基地に返るまでの間、北欧に行っていたときに聞いた話をしてあげていた。

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