第一七四話 必ず帰ろうね

 母港を出港してしばらくすると、着々と編成が整えられていく。


「各艦の間隔を十分に取れ、特に空母と戦艦の移動には気を使え」


 俺は防空指揮所に上がり、双眼鏡で艦隊を確認しながら通信機で各艦に伝達する。


「こちらビスマルク、独立先行艦隊は編成が完了した、先に戦場へ向かう」

「了解、気を付けてな、海戦は伝えた通りに頼むぞ」

「ああ、何かあったら、すぐに報告する」


 やっぱ不愛想だよなぁ。

 ヒトラーが言うには、心を開いているって言っていたが……。


「全然納得できないな……」


 一人で呟いていると、今度は聞きなれた彭城長官の声が聞えた。


「第一主力艦隊編成完了、後はそちらが展開するだけだ」

「了解しました」


 長官からの報告を受け、第二主力艦隊の艦たちに連絡する。


「各艦、移動開始、水雷戦隊は前衛に移動」


 俺の通信に呼応して、艦たちが舵を切り、形を整える。

 今回の陣形は少し特殊な形で、二つの主力艦隊が第二警戒航行序列で並び、それをぐるっと囲むように水雷戦隊の軽巡、駆逐艦が展開する。


 そして、極秘に『伊403』が予定位置で合流する。


「ヨミが加われば、五五号の真価が発揮できるんだが……」


 五五号は、ステルス機を発見できる対空レーダーだが、本来は、少しだけ使い方が異なる、異なるというかもう一つ使い道がある。


「そんなに五五号は優秀な機能持ちなの?」


 大和が、俺の隣に現れる。


「まあな、強力な電力があれば、範囲内の物体すべてにステルス性を付与するんだ」

「ステルス性付与って?」

「敵のレーダーに映らなくするのさ」


 大和は、まだあまり強さがしっくりこないのか、首を捻る。


「大和、対空電探に敵の大編隊が映らず、目視できる距離まで近づかれたらどうだ?」

「それは大変だよ、防御の準備が整う前に攻撃されちゃったら……」


 大和はフルフルと、首を振りながら顔を青ざめる。


「ステルスってのは、まさにそれだ、敵のレーダーに映らなくする、その能力を付与するのが五五号ステルスレーダーの能力だ」


 そう言うと、ようやく大和は理解したのか、目を輝かせる。


「つまり、私がそれを使えば、相手に見つかる前に、砲撃できるかもしれないってことだね!」

「まあ……そうかもしれんなぁ」


 そんな簡単なものではないがな……。

 55号ステルスレーダーの情報は、どうやら『やまと』の機関と同等クラスの国家機密らしく、詳しいことは本当に分からない。

 一様、ヨミと合流したのちに使ってみるつもりだが果たして……。


「ひとまず、こちらが物凄く優位に立てるって訳だ」


 そんな説明をしている内に、陣形が整ってきた。


「それじゃあ行こう有馬君、作戦開始を宣言してくれ」


 通信機から彭城長官の声が聞えた。


「そうですね……」


 俺は通信機を、全ての艦、部隊に繋げるために、衛星通信に切り換える。


「こちら、有馬勇儀戦線長官、これより、制海制空権奪還、並びにロンドンまで戦線の押上を行う、ユウシュン作戦を開始する! 英国の興廃、この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ!」


 そう言うと、渋い声が通信機から帰ってきた。


「我らが海軍の父である、英国を助けてくれ」

「お任せください、東郷さん」


 俺はそうして通信を切る、ここからは通信系統の大半を封鎖し、特殊な艦隊電話、S無線を使って連絡を取る。

 一定の範囲内に居る艦同士にしか届かない無線で、傍受されにくい無線だ、これにヨミの電波妨害を行えば、いくら英国の無線傍受網であっても簡単には情報を取れないだろう。


「現在時刻八時十五分、『伊403』との推定合流時間、午後三時三十分、それまでは無線封鎖、連絡は旗で取り合う事、無線封鎖開始」


 言い切ると、俺は艦橋に取り付けられた、通信機関係のものに鍵をかけ、封鎖の文字が、画面に浮かび上がるのを確認する。


「しばらくは対潜警戒を厳に、水中見張りと、二二号対艦電探での索敵を中心、何かあったらすぐに報告してくれ」

「分かった、しっかり見張っておくね」


 俺は大和にそう告げると、艦橋を出る。

 艦橋を出たらエレベーターを使って甲板まで降りる、この目で『大和改』の姿をしっかり確認したいと思ったからだ。


「対空砲群! 異常無いか⁉」


 今まで12、7センチ連装高角砲が置かれていた場所に配置されている、改良型長10センチ連装高角砲、通称改長10センチ砲は、少々扱いが難しく、今、整備課と砲撃課の兵が最終調整しているのだ。


 改長10センチ砲は、『秋月』型防空駆逐艦が装備する対空砲に、自動装填システムを装備し、より高初速で発射できるように改良したものだ。


「ちょいと曲者ですが、これといって、問題は見当たりません!」

「オーバーショットについても、問題なく実行できます!」


 高角砲の隙間から、数名の整備課が顔をだして、答える。


 オーバーショットか……あまり使いたくはないんだよなぁ。


 オーバーショットは、装填システム、砲身冷却を全力稼働し、通常時は毎分46発で発射だが、毎分50発発射可能にする撃ち方だ。


「機銃群はどうか⁉」


 今度は、高角砲群の周囲に位置する機銃群に声をかける。


「電探連動システム、問題在りません! 新しく着いたファランクスも、しっかり動きます!」


 大規模改修で、25ミリ三連装機銃を近代化し、電探照準システムを付与、さらに銃身を変更したおかげで、命中精度をグンと上げた。

 それに、万一ミサイル攻撃を受けた場合に備えて、両舷に一基ずつ、CIWSのファランクスを装備した。


「弾薬に関しても、湿気っているものはしっかり除去、新種の破砕高速弾のほうも問題在りません!」

 

 弾薬面も、15発弾倉を20発弾倉に替え、4発に1発は破壊力が大きく、頑丈なWAS機にも打撃を与えやすい、破砕高速弾が装填されている。


「よし! いつ敵機が来てもいいように、準備は怠るなよ!」

「「「「了解!」」」」


 俺はその後、主砲塔、エンジン、電探制御室などを回った。


「結局のところ、『零戦』の射出は無茶だったか……」


 確認してみると、対空砲火の改装、速力の増加、電探の換装はできていたが、後部カタパルトについては、艦載機量は増えたが『零戦』射出の機能は無理だったみたいだ。


「まあ、さすがに無茶良い過ぎたか……」


 俺は一人で笑いながら、甲板をのんびりと歩いていた。


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名称;大和型戦艦一番艦『大和』  艦種;超弩級戦艦

 

攻撃力;★★★★★☆(艦本体) 対空防御力;★★★★☆☆(艦本体)

機動力;★★☆☆☆☆(艦本体) 対艦防御力;★★★★★☆(艦本体)


   全長;263メートル   全幅;38、9メートル

基準排水量;65、800トン  最大速力;29ノット


主砲;45口径46センチ三連装砲 三基九門

副砲;60口径15、5センチ三連装砲 二基六門

魚雷;なし

対空;改良型長十センチ連装高角砲(65口径) 六基十二門

   改25ミリ三連装対空機銃 五十二基百五十六丁

   改25ミリ単装対空機銃 六基六丁

   CLWSファランクス 二基

電探;48号対空電探 二基

   22号対艦電探 二基

   55号ステルスレーダー 一基

艦載機;『零式水上観測機』6機

    『二式水上戦闘機』6機+1機


同型艦;『武蔵』


 我らが桜日を代表する艦の内の一隻であり、世界最強最大の戦艦。並大抵の火砲は一切効果が無く、46センチ以上の砲か長口径超貫通の砲でないと、有効打を与えるのが難しい。

 今回の改装で1945年装備から少し近代化し、現代の戦場に適応しやすくなっている。タービンや電子機器、内部の通信機器等もある程度現代の物と入れ替えたため、自衛隊の艦とも連携がとりやすくなった。これからも一層、最前線で活躍してくれるであろう。

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