第一七二話 旭日旗を掲げて


現在、2月12日、16時30分、ヤーデ湾。


「各員に告ぐ、これより出港準備を開始する、明日の〇七三〇に、艦隊出港だ」


 俺の声が、港に居る兵士たちの通信機から響く。


「なお、今から名前を呼ぶ艦艇は別部隊として、補給終了後、即座に港出口周辺に展開する」


 一呼吸おいて、編成を発表する。


「戦艦『グナイゼナウ』『ティルピッツ』巡洋艦『アドミラルヒッパー』『アドミラルシュペー』『ケーニヒスベルク』駆逐艦『Z26』『Z33』フリゲート『ミュンヘン』『エアフルト』、以上だ」


 俺は、通信機から手を放し、『大和』の甲板に腰を下ろす。


「いよいよ、明日出港だね」


 俺の隣に大和が姿を現す。


「そうだな……明日だな」


 呟きながら、俺はため息をついた。


「どうしたの、ため息なんてついて?」

「いやさ、あんまり戦いたくないなぁって」

「それは私達日本艦隊が、艦隊戦で負けるって言いたいの?」

 

 大和は頬を膨らませながら、俺の頬をつねる。


「違うよ、イギリス艦を沈めたくはないんだ」


 現状、イギリスの主力艦はWASに捕らえられ、使われている、何とかして助け出すことはできない物だろうか……。


「将棋のように、沈めても持ち駒にはできないからな」


 俺たちのもとに、凌空長官が、後ろから歩み寄って来る。


「長官、事務仕事終わったんですか?」

「いや、めんどくさいから浅間君に押し付けてきた」


 やっぱこいつ最低だな。


「仕事押し付けた長官は、俺に何の御用で?」

「悩める指揮官殿に、情報をもってきてやったぞ」


 凌空長官は、俺に資料を差し出した。


「ロイヤルのWS艦に関する、ファントム部隊からの情報だ」


 ファントムから? そう言えば、潜入チームを送り込んだってヨミが言っていたような気もする。

 俺は、渡された資料に目を向ける、封筒の中には、一枚の写真といくつかの情報が記載された紙が入っていた。

 

 ロイヤル艦は、ダンスタンバラ港にあり、敵の通信傍受の結果、分かったことは以下の通り。


一、WS艦は、『首輪』と呼ばれる拘束装置を用いて、行動を制限、戦闘の強要を行っている。

二、『首輪』は第一砲塔内に装着されている。

三、『首輪』は破壊可能。

四、『首輪』は、衛星からの電波で行動の指示を受ける。

五、『キングジョージⅤ世』のみ、所在は不明。


「……衛星からの電波」


 WASは、アメリカ、ロシアそれぞれ二つ三つ衛星をハッキングし、自分の物として活用している、おそらくそのうちの一つだろう。


 電波を受信して動きを決定するということは、『首輪』自体には、動きを制御する力は無いみたいだ……もしかしたら、何かやりようがあるかもしれないな……。


「気になるのは、六つ目だね」


 大和は、資料を見つめながら首を捻る。


「そうだな、あえて触れないようにしていたんだが……」


六、『イラストリアス』『ウォースパイト』『クイーンエリザベス』『アークロイヤル』『ベルファスト』に酷似した艦影を同時に確認。


「WASが艦をコピーしたのかな?」


 大和の意見には概ね同意だ、おそらく、WASの異常なほど高い兵器生産力に物を言わせ、見た目が同じ艦を作成したのだと思う、だが何のために?


「コピーしたとして、その意図が読めないな、いったい何のために……」


 三人で首を捻るが、いい答えは浮かんでこなかった、三人寄れば文殊の知恵というが、浮かばないこともあるみたいだ。

 そんなバカなことを考えている内に、凌空長官は俺から資料を取り上げ去って行く。


「行くんですか?」

「ああ、浅間君からお怒りのメールが飛んできた」


 ああ……なるほど。


「じゃあ俺たちも、いい加減出港準備に取り掛かるか」

「そうだね」


 そう言って、俺達は立ち上がる。

 ついに連合艦隊が、全力を持って海戦に当たる、まさか舞台が欧州になるとは思っていなかったが、それでも、皆のやる気はみなぎっている。


 それを象徴するかのように各艦の後部では、真っ赤に燃え、辺りを照らす太陽が描かれる旭日旗が、うねりを上げて、はためいていた。






                          ―――――――第六幕、完



              戦争は、導く。

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