第一七一話 鷹羽舞う
「こちらサニー、管制塔より指示を引き継いだ、ホーク1はこちらの指揮下に入って……ああめんどくさい、好きにやれモビー」
「どうしたジョン、今は仕事中だろ?」
サニーとホーク1の通信は、実に柔らかく、砕けたやり取りだった。
「AR大陸戦争からの仲だろ、その頃からお前は、俺の指示なんか一つも聞かなかったからな」
「AR大陸戦争は俺の初陣だろ? まだあの頃は、指示を聞いていた方だと思うが?」
「今は全く聞いて無いっていう自覚はあるんだな」
この二人は、オセアニア攻防戦、またの名をAR大陸戦争時代、まだホーク隊が出来立ての頃からのセットだった。
第104戦術飛行隊、名称ホーク隊は、第五航空師団隊に属す遠征航空戦隊だ、そして、その第五師団の空中管制機こそ、新鋭空中早期警戒管制機『E10』サニーだ。
『E10』は、2007年に中止された『E3』の後継機を作る計画を再度始動させ、作成された機体だ。
「そろそろ会敵するぞ、『Z4アネモイ』七機、それから……『S5クイーン』一機」
その言葉を聞いた瞬間、ホーク1は、僅かに口角を上げた。
「『クイーン』か……面白い」
そう呟いた瞬間、ホーク1の機体はアフターバーナーを全開にし、勢いよく敵機に向かっていく。
「超電磁砲には気をつけろよ」
その一言だけ、サニーはホーク1に投げかけた。
「分かっている」
その言葉と同時に、ホーク1は羽下の、二本の長距離ミサイル『R―12』を発射した。
「ホーク1、FOX1、敵機撃墜」
ミサイルが敵に命中する前から、サニーはそう呟く。
少し遅れて、二本のミサイルは『Z4』二機のコックピット、AIが搭載されている部分を爆砕した。
命中を確認すると、ホーク1はすかさず、もう二機の『Z4』へ向かう。
すると、ミサイルロックオンの警報が、ホーク1の機体で鳴り響く。
「ホーク1、ブレイク」
サニーが言うと、ホーク1は機体を横転させ、後方から迫るミサイルを余裕で躱す。
ホーク1は横転した姿勢のまま、水平尾翼、主翼を全力で動かしハイGターンで反転する。
「FOX2」
小さく呟き、ミサイルラックから、標準ミサイルハルパーを発射する。
避けようと敵機は機体を捻るが、そのせいでミサイルは右翼の付け根に命中し、翼を吹き飛ばした。
「ホーク1、敵機撃墜」
撃墜を確認するサニーの声を聴いて、機体を立て直したホーク1は、すぐさま敵と自身の位置関係を確認する。
「ッチ」
ホーク1が舌打ちしたかと思えば、機体を全力で降下させた。
そのコンマ2秒後に、青白い光が音を切り裂いて飛来した。
「『S5』超電磁砲発射、再発射可能まで40秒」
『S5クイーン』の恐ろしい武装、それがこの超電磁砲。
機体下部にぶら下げた超電磁砲は、航空機を粉砕し、近距離ならば、艦の艦橋すら吹き飛ばす。
変わりに、冷却、充電を含め、連射はできない。
サニーの声を聞いてホーク1は機体を水平にし、後方から機銃を発射してきた『Z4』の位置を一瞬確認すると、エアブレーキ、フラップを展開、機体を急減速させ、クルビット機動に入る。
クルビットで回り、丁度機首が下を向いた瞬間、敵機が真下を通過しようとする。
『F47』の照準に、敵機のコックピットが収まった瞬間、ホーク1はミサイルの発射スイッチを押す。
その瞬間、機首下についている小型で細いミサイルが、超スピードで直進し、『Z4』のコックピットに突き刺さり、爆散する。
空対空短距離直射ミサイル『S―3』は、飛距離が800mで、誘導能力が極端に低い変わり、初速マッハ5で直進するミサイルで、超近接戦闘時や、対地攻撃に特化したミサイルだ。
「ほんと、よくそのミサイル使えるな」
サニーから呆れたような声が聞える。
「使いやすいからな」
「常人からしたら使いにくいんだよ」
そんな会話をしながら、ホーク1は機体を旋回させると、再び青白い光が音を裂いて飛来した。
「『S5』再び超電磁砲発射」
サニーがそう伝えると、続けてホーク1が言った。
「充電完了5秒前になったら、カウントダウンしてくれ」
「了解」
返事が聞こえると、ホーク1は機体を回し、残った『アネモイ』三機に向って機首を向ける。
「FOX2」
ホーク1は、ミサイルラックに入っているハルパーを三連続で吐き出す。
二本はコックピットを爆散するが、一本は少しそれ、尾翼を飛ばすにとどまった。
「お、避けたか」
そんな風にホーク1は呟きながら、二本目を発射する。
「FOX1」
最初に放った『R―12』を再び放つ。
今度は機体の中心に命中し、敵機を粉々に爆散する。
「充電完了まで、4、3」
アネモイを片付けるのと同時に、サニーの声が聞える。
瞬間、ホーク1はエアブレーキで急減速。
「2、1、完了」
カウントダウンが終了するや否や、『S5』は急速に『F47』に接近し機首を向けてくる。
しかし、ホーク1は即座に機体をクルビットで反転させた。
「読んでるぜ」
超電磁砲を『S5』が発射するの前に、『F47』から発射された機銃弾が『S5』のコックピットを襲い、粉砕した。
「ホーク1『S5』撃墜」
ホーク1は息を吐いて、機体を水平に戻した。
「さすがだな」
「朝飯前だ」
そんなやり取りを躱す二人に緊張が奔ったのは、『F47』のミサイルアラートが鳴り響いた瞬間だった。
「ホーク1、ブレイク!」
とっさにホーク1はチャフフレアを展開し、機体を捻る。
「ステルスミサイルか」
警報からミサイルが通過するのが早かったため、ホーク1はそう判断した。
「ということは……奴だな」
サニーの声色が固くなる。
「久しぶりだな」
AR大陸戦争、22歳の若手だったホーク1は一度も撃墜されず、戦術的勝利を収め続けた。
しかし、そんな無双状態のホーク1を撃墜した機体が、一機だけいた。
それこそ、『EXFウラノス』だ。
「高高度に陣取っていたのは管制するためじゃなくて、奇襲するためだったか」
後方から迫る機影を見つめながら、ホーク1は呟く。
「気をつけろよ」
「分かっている」
ホーク1はサニーに言葉を返すと、機首を上げ、上昇を始める。
「食いついたな」
その動きにつられ、『ウラノス』も、鋭い機首をこちらに向け、数発機銃弾を発射しながら、上昇を開始した。
ホーク1は、高度が7000まで行った瞬間、機首を反転させようと羽を動かす、すかさず、『ウラノス』はミサイルを発射するが、『F47』のフレアにつられ、どこかへと飛んでいく。
「次はこっちの番だ」
反転を終えたホーク1は、照準機に『ウラノス』を収め、機銃を発射するが、相手の動きが一瞬だけ早く、機銃弾は空を切った。
「さすがに、簡単に当たってはくれないか」
『ウラノス』が反転、降下を始めたので、ホーク1もアフターバーナーに点火して、その背後を追う。
今度は、ミサイルのシーカーを開け、ロックオンするのをホーク1は待った。
その際『ウラノス』は右へ左へと機体を動かし、ロックを外そうとするが、ホーク1はきっちり合わせ、機内にはロックオンが完了したことを知らせる電子音が響く、だがホーク1はまだ引き金を引かない、タイミングを見計らって必中を期している。
「FOX2」
「まだだ……FOX1」
ミサイルラックに搭載される、ハルパーを二本放ち、即座に発射ミサイルを変更し、至近距離から羽下の『R―12』も発射するが……。
「ダメか」
ホーク1の呟き通り、ミサイルは途中で追跡が切れ、どこかへと飛んでいった。
「直射ミサイルを残しておくべきだったか」
ホーク1はそう呟きながら、機体を再び『ウラノス』に近づけると、『ウラノス』はコブラ機動で減速、ホーク1の後方に着いた。
しかし焦った様子を見せず、ホーク1もクルビット機動で宙返り、再び『ウラノス』前に押し出した。
しかし、ホーク1は嫌な予感がしたのか、フレアを炊きながら機体を旋回させるとミサイルアラートが鳴り響いた。
だがミサイルはフレアにつられ、何処かへと飛んでいく。
「……これにやられたんだったかな」
そんなことを言いながら、ホーク1は、再びミサイルシーカーを開く。
「フブキ、貴様のおかげで、被弾せずに帰れそうだよ」
シーカーを開くと、ヘッドギアの視界が暗くなり、周りの様子が白い線で映し出され、白いターゲットリングが、開いたり縮んだりしながら、敵機の白い線を追う。
「これは、慣れるのに少し時間がいりそうだな」
ターゲットリングが敵機を捉えられるよう機体を動かし、首を回す。
「重なった」
完全にターゲットリングが白い線で描かれた敵機を捉え、中心部でリングが開き縮を繰り返す。
リングが点になる一瞬を狙って、ホーク1は引き金を引いた。
「FOX4」
今発射したミサイルは、『Ⅿ0』が持つイ号照準追尾型三八式誘導墳芯弾だ。
日本独自のサイトホーミングと言う独特な誘導方法で、敵機を追尾する新型ミサイル、之を一本だけ吹雪から貰っていたのだ。
アメリカにも、サイトホーミング技術は渡されたが、研究設計までには後一年はかかる見通しになっている。
「ホーク1、敵機撃墜、ミッションコンプリートだ」
「帰るか、サニー」
「そうだな、戻ったらその機体を整備してくれた日本の少女に、ちゃんと礼を言っておけよ」
「分かっているよ」
その会話が終ると、二機は反転し、基地へと向かって行った。
同日、14時31分、ボーンマス飛行場。
「お、帰って来たね」
私が空を見上げると、戦闘機と管制機が高度を下げてこちらに向ってきていた。
「着陸準備はできてるよ」
「助かる」
私が無線を入れると、そう一言だけ返ってきた。
「見た感じ、被弾はしてなさそうね……ん? ミサイル、結構撃ったのね、珍し」
ミサイル装填の為に機体から外したミサイルラックを見て、私はそう呟いた。
敵機は九機、各機一本当てて墜としたとなれば、6本余るはずだ。
ま、本人からどうだったか直接聞いてみますか。
「整備長、本部から作戦の成否を問う電文が来てます」
私の無線機からそう声が聞える。
「作戦は成功、詳細は後で送るって打っといて」
「了解」
「あ、それと」
折角だ、気の利いた一言でも添えておこう。
「馬たちの気合は衰えず、ユウシュンも、見事に走り切ることを約束する、とも送っといて」
「分かりました」
私は無線機を基地に居る全員に繋げ、
「現在時刻、一四三一をもって、サツキ作戦の成功を宣言する!」
そう叫びながら、人差し指を立て、空へと掲げた。
「次は、有馬の番だよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます