第一七〇話 ホーク隊の実力
同日、12時34分、ボーンマス臨時飛行場。
「お、終わったぁ」
「ようやくですね……というか整備長、俺たちまで巻き込まないでくださいよ」
「ほんとですよ……俺、今日は上空警戒の役だったんですけど?」
私の隣で、手首や肩を回しながらうだうだ言っているのは、私の部下の中でも腕のいい二人、三橋と増山だ。
二人には、改造の手伝いをしてもらった。
「まあそう言わないでって、『F47』なんて滅多に触れる機体じゃないんだから」
「もうただの『F47』じゃないですけどね」
その通り、もうこの機体はただの『F47』じゃない、元は『YF23』のような基本設計に、大きく開いたV字型垂直尾翼、小さめの水平尾翼、主翼は細い前翼型だった。
だが、今私の目の前にいる機体は、水平尾翼がやや大きくなり、根元から動く全稼働尾翼に変更され、大きく開いていたV字の幅は狭くなっている。
主翼の太さも変わり、急減速などの空戦機動をしやすくするため、翼面積を大きくしている。
そして、ぱっと見は目立たないが、機首の右側面の機銃は、Ⅿ61バルカン砲ではなく21号20ミリFB機銃に変わっている。
「さて……じゃあ工具を片付けて、試験飛行に移ろう」
私がそう言って手を叩くと、三橋と増山は片づけを始めた。
「じゃあ数分だけ、この機体を借りてもいいかな?」
「ダメだ」
ダメなんかい。
「試験飛行も、俺が行う」
それじゃあ試験にならないんだけどなぁ。
「分かった、じゃあ『B52』たちが、二度目の攻撃を終了してそろそろ帰ってくるだろうから、そしたら滑走路に移動かな」
そんなように予定を立てていると、基地全体にアラートが鳴り響く。
「空襲警報! 対空車輌、攻撃準備!」
ッチ、めんどくさいタイミングで。
「アースはそこにいて、増山と三橋のどっちかは、『Ⅿ0』の準備しといて!」
私がそう言って、本部に向かって走る。
「俺が乗る!」
「いや、もともと今日は俺が飛ぶ番なんだって!」
後ろからはそんな声が聞えてきた……そんなことで喧嘩しないでよ……。
私が本部に着くと、護衛から帰ってきていた零がレーダーを見つめていた。
「どう、零?」
「あんまりよくないかな、このままいくと、敵機18機と帰ってくる『B52』が同時に到着する」
あーそれはめんどくさいね……どうしよっかなぁ。
「後五分だし、早く行動方針を決定しないとだな……」
本部で指揮を執っていた、陸自の松本さんがそう呟く。
……飛んでもらうか。
「じゃあ『B52』が着陸する中、離陸してもらうか」
「お前、正気か?」
松本さんは眉を顰めて言う。
「敵はジェットのみみたいだし、ホーク隊の基地待機組二機と、エンジン整備が終わった『Ⅿ0』一機を上げる、そうすれば、『B52』の護衛をしている、ホーク隊の6機、シャーク隊の9機と共同で、敵機を迎撃できる」
私が言うと、松本さんはため息をつき、頷く。
「分かった、三機が離陸するまでの時間は、『87式』と『89式』で稼ごう」
決まった行動方針で動こうとした瞬間、一人の兵が駆け込んできた。
「『B52』護衛飛行隊より、通信!」
「敵ジェット戦闘機部隊と接敵、交戦を開始するとのことです!」
別動隊⁉
「予定が狂ったな」
松本さんが舌打ちをする。
「いえ、もうこの状況になった以上、三機を上げるしかありません」
「……分かった」
私と松本さんは互いに頷き、本部を後にした。
「レシプロは滑走路脇にどかして! 対空車輌は滑走路内に入らないよう注意!」
私は、管制塔からそう無線機に向かって叫ぶ。
「サニーは誘導路で待機!」
空中管制機『サニー』は、制空権が取れてから空に上げる。
「滑走路開いたぞ!」
その声が帰ってくると同時に、敵機が上空に姿を現した。
「機種確認……『トーネードⅤⅩ』!」
潜水艦搭載型のジェット戦闘機!
「こちらコンドル2、これ以上は待てない! 『B52』を緊急着陸させる!」
翻訳通信機を介して私のもとに声が届き、少し離れた位置で飛んでいた数機の『B52』が足を出し、こちらに向かって来るのが見えた。
コンドル1はすでに着陸して、滑走路の奥で止まっている。
コンドル1の分、滑走路が短くなっているから早い段階で高度を下げ、速度を絞らなくてはならない、その為コンドル2は少し遠いが足を出し、着陸態勢に入った。
だがその背後に、戦闘機の機影が映る。
「コンドル2、後ろ! 後ろ!」
しかし、『B52』程の巨体が、とっさに動けるわけも無く
「メーデー! メーデー! メーデー!」
その叫びとともに、『B52』の右翼側にあるエンジンが吹き飛ぶ。
「墜ちてくるよ!」
私が無線機で滑走路に呼びかける。
滑走路周辺では、『87式』が移動しながら対空射撃を行い、『93式』がSAMを発射している。
その上に、『B52』が傾きながら降りてくる。
「高度が上がらない! 墜ちる!」
コンドル2の悲鳴が聞こえるとともに、『B52』の羽が地面を削り、機体の進行方向に居た『87式』は、羽に切り裂かれ、大爆発を起こす。
そのまま機体は、林の方へ落ちていき、大きく爆発した。
「救助班と消防班急いで!」
私は、そう指示を出す。
「こちらホーク1、離陸準備が整った」
「こちらホーク2、こっちも上がれます」
「ゼロもいけます」
元気なやつらめ。
「分かった、そのまま滑走路へ移動!」
「この状況で飛ばすんですか⁉」
管制塔の他の兵が私に叫ぶ。
その間にも、『B52』は着陸しようと高度を下げてくる。
「この状況だからよ!」
「了解、離陸する」
ホーク1は静かに返事をし、機銃弾が地面に突き刺さる中、誘導路を走っていく。
「こんな状況めったに会えませんね」
「そうだな」
ホーク2の言葉に、ホーク1は静かに返事をする。
「コンドル3被弾! 被弾!」
滑走路に並んだ、三機の戦闘機の上空を、『B52』が火を噴きながら滑走路に墜ちていく。
「ホーク1、ホーク2、ゼロ、高度制限解除! テイクオフ!」
私が叫ぶと、三機はアフターバーナーを全開にし、滑走路を駆けていく。
滑走路の半ばを過ぎ、三機が足を離すと、入れ違いでコンドル3の機体が爆発、滑走路にたたきつけられる。
「離陸完了、これより制空戦闘に以降する」
そんな状況にも関わらず、ホーク1は冷静に作戦を開始した。
ホーク1が足を格納するのと同時に、機体をクルビット機動で旋回、後方から迫って来る一機の『トーネード』に、機銃を発射した。
撃ちだされた弾はきれいに羽の付け根に突き刺さり、敵機の左翼を切断した。
「ウソでしょ……」
私が驚きの声を上げている間にも、ホーク1の乗る『F47』は、敵機を地面に叩き落とし、鉄屑へと変えていく。
『F47』は、羽下に四発、胴体下のミサイルラックに十発、機首下に一発のミサイルを搭載できかなりの重武装ではある。
だがホーク1は、そんなミサイルを乱射するわけでも無く、的確に一機あたり一本で撃墜していく。
実際、不可能なことではない、航空機には構造上の弱点と言うものがいくつか存在する、だが……常人のすることではない、ミサイルを命中させる場所を調整するなど……。
「ホーク1、敵機撃墜……10機目です」
これで、攻撃しに来た18機の敵機は全て片付いた、10機はホーク1、5機がホーク2、3機がゼロの戦果だ。
ゼロに乗っている三橋も、手練れのパイロットだ、弱くはない、だが……。
「ミサイル、あまり使いませんでしたね、ホーク1」
「そうだな、思ったより機銃がさえた」
ホーク1は九発、ホーク2は十一発の空体空ミサイルが残っている。
さすがアメリカ屈指のエース部隊、正直恐ろしい。
「フブキ、この改良実にいい出来だ、感謝する」
「ど、どうも……」
私はそんなことよりも、貴方のその以上なほどの強さの方が気になるよ……。
「こちらサニー、護衛機が基地に帰投中、その背後に高速で迫る機影確認、護衛機たちからは、弾切れだという報告が届いている」
途中で出くわした奴らで撃ちきってしまったのだろう。
「敵の数は?」
「おそらく九機、その内一機は、離れた位置を飛んでいることから、空中管制機だと思われる」
九機? 三小隊分か……。
「フブキ、すぐに補給してくれ、俺が向う」
ホーク1がそう言って、高度を下げてくる
「滑走路の残骸を退けて! それからミサイルと機銃弾、燃料の補給準備!」
私がそう無線機で伝える頃、ホーク2の声が聞えた。
「僕も行きますよ、ホーク1」
「お前はここの防空に当たれ、基地に一機もジェットがいないのはまずい」
いや、一機で行かないでよ。
「『Ⅿ0』のパイロット、お前もだ」
「あ、はい……」
三橋も、そんな素直に返事しないでよ。
「フブキ、それでいいな?」
……クッソ、なんで強い人って、こんなに勝手なのか。
「分かったわよ、好きにして……その代わり、無駄な整備はしたくないからね」
「分かっている、被弾などしない」
そのホーク1の言葉と同時に、滑走路の準備が終わったようだ。
「ホーク1、着陸を許可する」
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