第一六三話 影龍艦隊

 同日同時刻、ゴールウェイ湾。『おうりゅう』『しょうりゅう』『じんりゅう』


「ゴールウェイ湾内の艦確認、戦艦三隻、巡洋艦四隻、駆逐艦六隻、現代巡洋艦三隻、駆逐艦三隻、フリゲート八隻、現代空母、及び名付きは確認できず」


 静かに、『じんりゅう』の艦長に伝達される。


「大堀さんの嫌な予感は当たったな」


 現在、潜水艦隊は、ロシア軍が上陸を予定している港へ、奇襲に来ていた。

もちろん主目的は湾の防御力の削減だが、もう一つ、重要な目的があった。


「『ルビー』級防空巡洋艦、『ラハティ』級戦艦、『サタン』級航空母艦、こいつらがここにいるという情報は欺瞞だったみたいだな」


 この三種の艦が、この港に集まるという情報を『伊403』がキャッチしたためひそかに攻撃しに来たのだが、見事に空ぶった。

 大堀さんの感では、それは欺瞞だと言っていたのだが、一様情報通りに来てみたら現在の通りであった。



「艦長、そろそろ攻撃しないと、ファントムのスワロー隊が到着します」

「分かっている、水中クジラ無線にて伝達、各艦攻撃始め」


 艦長が静かに言うと、通信席に座る乗員が親指を突き立てる、発信完了の合図だ。

 水中クジラ無線、通称K無線は、海上自衛隊潜水艦隊の使用する近距離無線で、敵に探知されにくい音波で情報を発信、万が一敵がキャッチしても解読できないようになっている、最新の無線技術だ。


「『おうりゅう』魚雷発射確認、発射本数6、『しょうりゅう』魚雷発射確認、発射本数6」


 二艦が攻撃する中、『じんりゅう』はまだ攻撃を行わない、魚雷の触雷を待っているのだ。


「命中まで、3、2、1、今」


 観測員がそう言うのと同時に、十二本の水柱が、敵艦を濡らした。


「よし、水中ハープーン、発射始め!」

「了解、ハープーン発射!」


 『じんりゅう』の魚雷発射管から、二本のミサイルが発射される。


「敵CLWSの反応なし、命中まで、2、1、今」


 その声と同時に、水中から撃ち出されたハープーンは、最高脅威目標である、陸上イージスと滑走路の管制塔へと直撃。

 対艦ミサイルが爆発したことにより管制塔は爆散し、イージスは右半分が吹き飛んだ。


「次弾、三二式酸素魚雷、全門装填」


 装填している間に、他二隻から、合計十二本の魚雷が再び敵艦隊を襲う。


「装填終了」

「一番から六番、一斉射」

「一斉射!」


 装填が終ると同時に、今度は魚雷を敵艦隊めがけて発射する。


「よし、ここらで良いだろう、全艦急速潜航! 離脱する」

「「了解」」


 指示と同時に、三隻の潜水艦は、深い海へと消えて行った。





「こちら『ファントム』、イージスシステム、管制塔の破壊を確認している、よって最重要目標は滑走路の航空機、及び艦隊とする。航空機は『ミグ』『ビゲン』が、艦体は『ミラージュ』『タイガー』が攻撃せよ、全機アタックフォーメンション」


 六機の航空機が各自に散開し、標的へと向かう。


「儂らはどこを狙うんじゃ?」

「俺たちは主に戦車と対空兵器だ、『F1』は戦力不足になっているところを補いに行かせる」


 ファントムの声に、俺はそう反応すると、ファントムは不満げにぼやく。


「なぜ儂に高脅威目標を攻撃させない? いい加減大物を仕留めたいのじゃが」

 

 そいつは、俺がこの飛行隊の中で一番練度が低いからだよ……。


「まあまあ、そう言わずに付き合ってくれよ」


 そんな会話をしている間にも、『サーブ37ビゲン』は自慢の30ミリ機関砲で、エンジンがかかっていない航空機を破壊していき、『MiG21bis』は、両翼にぶら下げた57ミリロケット弾で、機体を爆砕していく。


 一方、海の方へ眼を向けると、超低空で飛行する二機が目に入った。


 『ミラージュF1』がぶっとい対艦ミサイルを発射し、戦艦の主砲下にある弾薬庫に突き刺したと思えば、『F5タイガー』は低空から近づき、艦のすぐそばで急上昇、投げ込むようにして、750ポンド無誘導爆弾を艦橋にぶち当てる。


「さっすが、ひねくれ者の傭兵部隊、常人のやり方とは発想が違うな」

「ぼさっとしてないで大堀も仕事をせぬか」


 ファントムに怒られたので、俺もそろそろ仕事に取りかかる。


「ファントム、対空兵器は何から狙うべきだ?」

「機銃系統からじゃな、ミサイルを撃ち落とされたら厄介じゃし、離脱するときエンジンを撃たれると面倒じゃ」


 俺は言われた通り、イギリスのCLWSである、ゴールキーパたちめがけて、対地ミサイルを発射した。


「と、そろそろ防空設備も目を覚まし始めたか」


 ヘッドギアに、ミサイルロックの警告が出たと思えば、SAMが発射されたことを警告する警報が鳴る。


「大堀、ブレイクじゃ」

「了解」


 俺はファントムの指示通り、機体を大きく傾けぐるりと旋回する。

 そうすると、SAMの追尾が切れ、警報が鳴りやむ。


「戦車を壊す前に、SAMを黙らせた方がいいな」


 もう一度ぐるりと機体を捻り、地上にいるSAMに向けて機関砲を発射する。


「撃ちすぎないように……」


 俺はできる限り短く指切りし、機銃弾の無駄撃ちを避ける。

 『ファントム』など現代機についている機関砲や機銃のほとんどがバルカン砲、リボルバーカノンで、発射レートが高いため、安易に長押しすると弾を一瞬で撃ちきってしまう。


 指切りを意識したおかげで、ほとんど無駄弾を出さずSAMの数基を破壊できた。


「戦車はミサイルより爆弾の方がよいじゃろ、それに、爆弾を捨てれば機体がだいぶ軽くなるからの」


 俺は素直にその指示に従い、ヘッドギアの爆撃照準を起動する。


「持ってきた爆弾は二発、よーく狙って……投下!」


 暖降下しながら爆弾を投下し、ハイGターンで機体を急上昇、爆風を回避する。


「目標に命中、三輌撃破、一輌は……ありゃ、タフじゃの~破損と火災が見えるが、まだ生きておるようじゃ」


 爆発地点から少し離れていたのだろう。


「了解、機銃掃射で仕留める」


 再び機体を翻し、目標に照準を合わせる。

 照準のサークルが安定したら、トリガーを軽く引き、数発機銃を発射する。


「今度こそ破壊できたな」


 機体を水平に戻すと、ミサイルロックの警告が出た。


「やべっ」


 俺は急いで機体を回そうとするが、正面から入れ違いで飛んでいった『F1』が、後方に現れたSAMを撃破してくれた。

 おかげでミサイルが俺の機体に跳んでくることは無かった。


 ふと視線をレーダーに向けると、味方機がどうも不自然な動きをしていた、まるで何かに狙われているような……。


「ファントム、状況は?」


 俺は機体を水平に戻しながら聞く。


「飛行場と艦隊はほぼ壊滅、攻撃していた四機は帰投しておるが、それを追うように、三機のジェット機……あれは……!」

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