間章 本番はこれから


「さて、降りたのは良いものの……」


 急ごしらえの滑走路周辺に陣取る上陸部隊の様子を見渡し、現状を把握する。


「『74式』は二輌やられて兵もそこそこ消耗してる、滑走路整備用の重機に被害が無かったのは良いけど、今空爆が来たら大惨事ね……」


 対空戦車や機銃の配置は一切していないため、狙われたらなすすべなく滑走路は穴だらけ、周辺の車輌も爆発四散、かな……。


「お、吹雪、お疲れ」


 そんなことを考えていると、後ろから聞き慣れた声がした。


「空、そっちこそ、『アーチャー』の処理おつかれ、航空支援できなくてごめんね」


 私が言うと、空はケラケラト笑い、手を振る。


「問題ないよ、それより、あの『モスキート』はどうしたの?」


 空が指す先には、傷ついたボディーを休める『モスキート』の機影があった。


「話を聞く感じ、ちょっと訳ありっぽいから、直接有馬と話してもらってる」

「そっか……確かに、そっちのが良いかもね」


 互いに深く息を吐き、持ち場に戻ろうとすると、ハインケル長官の声が通信機から聞こえた。


「各員に告ぐ、海岸周辺と臨時滑走路周辺はロシア軍が制圧。同時に、ドイツからは輸送機が離陸した、問題なければ数時間後に、護衛機を引き連れて滑走路に足を下ろす、各員準備に取りかかれ、輸送機の到着と共に、他の車輌たちを陸に上げ、滑走路周辺を橋頭保とする」


 私と空は視線を交わし、頷く。


「こちら吹雪、『D150』に乗っている航空整備の装備一色、早く持ってきて」

「各隊点呼! 現在の歩兵数と車輌数を確認、終わり次第、部隊を再配備するよ」

 

 サツキ作戦に向けて、全員が一斉に動き出す。

 英本土奪還の前段作戦、クラッシックがもうすぐ始まる、そんなことを意識しながら、私は再び『零戦』に乗り込み、上空警戒を開始した。






 ボーンマス海岸上陸作戦詳細


 総歩兵数8700人

 初期上陸人数 90人 追撃上陸人数320人 死者55名 重軽症者109名

 援軍のロシア軍の人員数は現在不明。


 使用兵器(輸送艦を除く)


『アリゾナ』『三笠』『A型』『B型』『Ⅽ型』『明石』『F15J―ⅭⅩ』『零戦七二型』『零戦五二型』『74式戦車』


 想定内の被害で上陸作戦は終了、『チャレンジャーⅣ』との戦闘は苦戦を強いられるも、艦砲射撃も相まって、何とか撃破。

 英WSである『モスキート』と合流、現在状況把握中。





 現在、11日、11時55分、ヤーデ湾飛行場。


「モスキートか……」


 先ほど、急に吹雪から通信が来たから、何事かと思えば、イギリスのWSである『モスキート』を保護したといわれ、首を捻った。

 なぜそこにいるのか、そもそもWSは全部WASに取られたのではなかったのか、それらの疑問を消すためにも、いったんモスキートと話してみた所、現在の英のWSたちの現状が分かってきた。


 艦隊が北部の港に拘束されており、拘束されている艦は、『キングジョージⅤ世』『イラストリアス』『クイーンエリザベス』『アークロイヤル』『ベルファスト』『ウォースパイト』の六隻、ただし、『キングジョージⅤ』に限っては、安否が不明とのことだ。

 航空機関連のWSは、『モスキート』以外、オリジナルが撃墜され、自動で動くことも出来なくなっているらしい。


 そして一番問題なのは、戦車のWSだ、どうやら『チャーチル』のキューブを、WASは無傷で奪い、利用されているとのこと。

 もしかしたら、アジアに現れた『クロコダイル』も、何らかの関係があるのかもしれない。


「有馬、輸送機の準備が終わったぞ」


 後ろから加藤さんの声が聞え振り返ると、滑走路に待機する航空機たちが、一斉にプロペラを回しだした。


「お疲れ様です、『零戦』がいない間、ドイツの防空をお願いします」


 今回『隼』の仕事は攻撃ではなく、この母港の防御だ、『零戦』はほとんどが出払ってしまうので、ドイツの『フォッケ』と一緒に、母港防空の任につく。


「任せておけ、貴様らの帰ってくる港に、機銃弾一発たりとも届かないようにしておいてやる」


 加藤さんはそう言いながら、手を振って消えて行った。


「『Ⅽ―160トランザール』五機、『一式陸上攻撃機』4機、『M0―J』8機、『零式艦上戦闘機五二型』24機、暖機運転終了、いつでも飛べる」


 通信機に、『M0―J』パイロットである、尾田さんの声が聞える。


「了解、管制塔の指示に従って離陸、健闘を祈ります」

「了解」


 頼むぞ、ここで輸送が失敗すると、イギリスが物資不足で滅ぶ、そうなってしまえば、WASの全軍が上陸部隊を襲うことになるが、今の戦力ではとても太刀打ちできない。


「後は、アメリカとロシアがどこまで協力してくれるか、だな……」


 一様ロシアの先行支援艦隊は合流したみたいだけど……。


「アメリカはまだ来ないのか……」


 俺は、大きくため息をついていた。






「こちらヤーデ湾飛行場管制塔、『ベティ』『ジーク』は離陸を完了した、輸送機を先に離陸させるから、誘導路で待機してくれ」

「こちら『M0』一番機、了解、指示があるまで待機する」


 管制塔とのやり取りが終ると、正面に並んでいた輸送機たちが滑走路へ進みだす。

 『ベティ』は『一式陸攻』、『ジーク』は『零戦』のコードネームだ。


「航空自衛隊に入った時は、まさかこいつに乗ることになるとは、思ってもいなかったな」


 尾田は、中央に配置された『M0』の操縦桿を握りながら呟く。


「ひいじいちゃんはゼロに乗った時、どんなことを思ったんだろうな」


 尾田の先祖は、大戦中、それなりに腕の立つ『零戦』パイロットだった、尾田はそのことを誇りに思っていたため、航空自衛隊の制空部隊に志願した。

 そんなことを考えている内に、滑走路にいた最後の輸送機が空へと上がって行った。


「こちら管制塔、『M0』隊、滑走路に移動してくれ」

「了解」


 機体のエンジンを僅かに動かし、ゆっくりと誘導に従いながら、機体を滑走路へ持っていく。


「『M0』一番機、滑走路へ移動を確認、機体に問題は無いか? 試作のレーダーも機能しているか?」


 それを聞いて、尾田は垂直尾翼、水平尾翼、主翼、フラップ、全てを動かし、確認する、そしてレーダーを何度か切り換え、画面表示に問題が無いことも確認、それが終ると、尾田は満足げに頷く。


「オールクリア、テイクオフオーライ」

「了解、之より貴機ら『M0』を、コードネームで呼称する」


 その声と共に、ヘッドギアのモニターに、文字が浮かび上がる。


(Aircraft Name 『ZERO1』)


「『ゼロ1』離陸を許可する」

「了解、『ゼロ1』発進!」

 

 轟々とエンジンがうなりを上げ、アフターバーナーを全開にしたところで車輪のブレーキを外すと、機体が勢いよく前進し、軽量な『M0』は勢いよく高度を上げる。


「ゼロの離陸を確認、高度制限、武装制限を解除、グッドラック」


 その声で、再びヘッドギアのモニターに文字が浮かぶ。


(Free Altitude Free Missile)


 現代の『ゼロ』は、戦場の空へと解き放たれた。

 

 初の本格的実戦参入、『ゼロ』は、再び空戦の王者となるべく、第三次世界大戦に参戦したが、まだ誰も、この機体の強さを知る者は居なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る