第一六二話 思いがけない使者
同時刻、ポーンマス海岸より800m奥の林。
「重機が来るぞ! 道を開けろ!」
大島がそう叫ぶと、後ろから重々しい音を立てながら、ブルドーザーやショベルカー、『92式地雷原処理車』が走って来る。
「隊長! 第一と第二は?」
重機の通過を確認して、大島は馬場の元へ駆け寄る。
「林内の開けた場所を確保済みだ、周辺に敵は見当たらないと――」
隊長が言い切る前に、上空を二機の航空機が通り過ぎる。
「なあ、あれ『零戦』だったか?」
馬場が、通り過ぎた航空機を見つめながら、大島に聞く。
「いや、『零戦』は空冷だが、今のあれは水冷だったような……」
同時刻、1㎞先の原っぱ。
「こちら第一部隊、敵装甲車と戦闘中!」
切迫した報告が、同じ原っぱを守る第二部隊に届く。
「敵の詳細は⁉」
「装甲車二、歩兵二十人弱! 火力支援を要請する!」
報告を受けた兵は、すぐさま後続する第三部隊に連絡するが、同じく切羽詰まった声が返って来る。
「ダメだ! 俺たちも戦車を連れてきていない! それから、そちらに二機の不明機が向っている!」
それを聞いた第二部隊の兵は、第一部隊に連絡しながら空を見上げる。
「すまない、火力支援は回せない! それから、上空に『G型戦闘機』二機!」
「ああくっそ、雨衣隊長早く戻ってこねーかな」
通信機の先で、第一部隊の兵が悪態をつく。
「お前ら、実は余裕あるんじゃねえの?」
そんな声を聞いて、第二部隊の兵は聞く。
さっきまでの切迫した様子はない。
「余裕なんかねえから、隊長の掩護が欲しいんだよ、さすがに俺たちじゃあライフルで航空機撃ち落とせないからな」
第二部隊の兵は大きく息をつく。
「雨衣少佐に通信入れとくから、何とか耐えとけ、今重機が原っぱに入って来たから、抜かれるとまずい」
「そりゃ厳しいな、うちは対車輌兵器持ってないし、上からの機銃掃射が痛い」
声には余裕があるが、どうやら楽観できる状況ではないようだ。
「マジでどうすんだよこの状況、死者はまで出てないが、このままだと全滅だぞ」
太い木や倒木、地面の凹凸を利用して何とか耐えているものの、14人ではどうにもならない。
「副隊長、上空に新たな不明機! 双発レシプロ機です!」
副隊長と呼ばれた石塚翼大尉は、上空に目を向ける。
「ああクッソ、WASの『G型』が出たと思えば、今度はイギリスのWSか⁉」
羽にはイギリス空軍のマークが入っている、すなわち敵機、そう判断したのだが……。
「双発機、装甲車輛に爆弾投下!」
石塚より前に居る隊員がそう叫ぶ。
「敵……じゃないのか?」
部隊員たちが困惑している間にも、上空の双発機が『G型』とドッグファイトを開始する。
「だれか、あの双発機がなんだか分かるやついるか?」
石塚が聞くと、隣にいた前橋が言う。
「『モスキート』ですかね、爆装してましたし、多分戦闘爆撃機の奴だと思います」
「お前そんなに兵器詳しかったけ?」
「いえ、たまたま最近隊長から話を聞いたからですよ」
石塚は前橋の答えを聞きながら、残っていた敵の機械歩兵を始末する。
「で、あの機体は『G型』二機に勝てるのか?」
「まあ普通にやったら無理ですね」
その答えに、石塚は肩を落とす。
「無理なんかい……」
「『G型』は機動性が良くない分めちゃめちゃ硬いので、『モスキート』の7、7ミリじゃあ痛くもかゆくもないでしょう」
『モスキートMarkⅥ』の爆装は強力だが、機首下に7、7ミリ機銃が四丁で、一撃の威力にかける。
「それに、見た感じあの『モスキート』、弾も燃料も尽きかけみたいですね」
さっきから、できる限り弾の発射を抑えている。
そこから前橋はそう推測した。
「じゃあ『零戦』呼んでやるか……」
石塚は通信機で空母に連絡、『零戦』三機を要請する。
「こちら先行中の第一部隊、『零戦』での制空権確保を要請する」
「了解、3分後につくよ」
相変わらず清原航空整備長も、気の抜けた声で話す。
「しっかし、日本軍も変な軍隊になっちまったな」
石塚はそう呟き、腰を下ろす。
「そうですね、なんたって陸の雨衣に空の清原、なんでもお任せ有馬指揮官ですからね」
前橋もため息をつく。
「皆十一期生の、20才前の少年少女、普通じゃ考えられないな」
石塚は防弾チョッキの裏にしまっていた、煙草を取り出す。
「あ、マッチ無くした……」
だが火をつけるものが無いため、吸うのをあきらめ、懐に戻そうとすると、すぐ上に三機の『零戦』が通りすぎた。
「うぉ! この野郎、そんな低空で飛ぶな!」
前橋は、そんな石塚の様子に吹き出しながら、ポッケのマッチを差し出した。
「あれか……」
私の視線の先には、必死に二機の『G型』とドックファイトをする『モスキート』の姿があったが、どうも『モスキート』は、とても双発機がするような機動ではない動きをしている。
「あのパイロットとは、仲良くできそうだね」
零が私に語り掛ける。
「そうかもねー」
なんだか小馬鹿にされている気分だったので、適当に受け流し、高度を上げる。
「私は周辺警戒しておくから、好きにやっといて」
「「了解」」
私が連れてきた藤田と林が、速度を上げ、敵に向かう。
その様子を確認したのか、『モスキート』は高度を下げながら、離脱していった。
「『G型』相手なら機動戦で負ける訳ないから、心配はいらないかな……」
二人とも、レシプロ操縦技術で優秀な成績を持っているパイロットだし、私は『モスキート』の様子でも見てこようかな……。
「というか、なんで『モスキート』がWAS機を襲っているのかな? イギリスのWSたちは、皆WASに取られたんじゃなかったっけ?」
イギリスはほぼすべてのWSを奪われ、戦闘機は『スピットファイア』と『ホーカーテンペスト』が数機だけだったはず……。
「……もしかしたら、魂が入ったWSかもしれないね」
「確かに……だったら、あの操縦技術も頷けるねええぇ⁉」
私が言い切る前に、上から太い弾が降り注いだ。
完全に予想外だったが、何とか奇声を上げながら回避した。
「後ろ上方より二機、『Z1ゼピュロス』!」
零が叫ぶ。
私は操縦稈を手前に引き込み、機体を縦旋回させ、敵機の姿を目視で確認する。
「どっから現れたの⁉」
周辺に敵基地は無いはずだから、元からここらに居たかどこからか飛んできたか。
「ひとまず墜とさないとだね」
零は冷静にそう言うが結構辛い、二機を同時に相手するぐらいならまだいいが、名付きの戦闘機二機となると少し面倒。
そう考えながら敵機の動きを探っていると、機内に取り付けてある無線機に聞きなれない声が入った。
「ゼロファイターのパイロット、私が片方を墜とす、もう片方を40秒で墜とせ」
私は直感的に悟る、この声は人の声じゃない、やはり『モスキート』には魂があるようだ。
「了解」
軽く返事をすると、低空で旋回していた『モスキート』が機首を上げ、急上昇で片方の『Z1』に弾丸を浴びせ反転、そのまま『Z1』一機を連れ、高度を下げた。
「その角度で上昇して、しっかり当てられるんだからたいした腕だよ」
呟きながら機体を捻り、後ろについてきている敵機の左上方につく。
その動きに追従しようと『Z1』は機首を動かすが、そこまで機動性が良くないため照準に収められていないのか、発砲してこない。
すぐさま私は再び機体を捻り、敵機の背後を狙うが、格闘戦で勝てないことを分かっているのか敵機はやや降下しつつ、速度を上げて距離を取る。
「さすがに、『Z1』レベルのAIになれば、『零戦』に格闘戦で勝てないことぐらい理解してるか……でも残念、私が乗ってるのは『七二型』なんだよね~」
『五二型』では逃げる『Z1』に追い付けないが、『七二型』のエンジンなら水平飛行でも追い付ける。
「まだ『七二型』の情報は、敵に回ってないみたいだね」
おかげで好きなように暴れられる。
「お疲れさん」
私はその一声で30ミリの発射スイッチを押し、重い反動を押さえながら敵機の撃墜を確認した。
「さすがだ、ゼロファイター」
音質の悪い声で、さっきと同じ声が聞えた。
「どうもありがと、で、貴方はいったい誰なのかな?」
「申し遅れた、私はロイヤル航空機騎士団団長、『デ・ハビラントモスキートFBMarkⅥ』の、モスキートだ」
長い機体名を、ご丁寧にどうも。
「私は、『零戦』に乗ってる清原吹雪……えっと、味方でいいんだよね?」
ここで敵と言われても困るが、一様確認を取ってみる。
「もちろんだ、私は日本の武士たちが来るのをずっと待っていたのだ」
「武士ねぇ……まあいいや、なら着陸誘導するから、付いてきてもらえるかな?」
ひとまず着陸してもらって、状況を教えてもらわないと……。
「承知した」
返事を貰ったところで、無線を切り替える。
「藤田、林、先に帰ってて、私は後から行く」
「了解」
「了解です」
二機の零戦は、羽を振って『D150』へと帰っていった。
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