第一六〇話 上陸戦支援

「あーあ折角の初陣なのに、もう敵機が居ねえじゃねか」

「うるさいぞ小林、お前は本来『F35B』に乗る予定だったのに、何でわざわざ『F15』にしたんだよ、おかげで、『D150』に乗っている『イーグルⅭⅩ』の部隊員全員が、同期になっちまったじゃねえか」


 いつもの如くうるせえな大塚は。


「いいだろ別に、『イーグルⅭⅩ』は制空戦闘メインの、対地攻撃が可能な戦闘機、俺は戦車や艦より航空機と戦いたいんだよ」

「だったら『Ⅿ0』部隊にいきゃあいいじゃねえか」


 それができなかったからここにいるんだよ……。


「無駄口叩いている暇あったら、早く爆弾落としたらどうですか、先輩?」


 ほーら、後輩にも文句言われたぞ。


「分かってるよ吹雪、標的はどれがいい?」

「まあ敵戦車か、歩兵の密集地帯でどうぞ」


 仰せのままに。


「『イーグルⅭⅩ』一番機、歩兵密集陣地に投下!」


 俺は指示通りに、無誘導炸裂式500キロ爆弾六発を投下し、上昇する。


「続けて二番機、二輌の戦車に投下!」


 その報告を聞いた俺は、機体を切り返し、地上を見ると、敵車輌が火を上げて吹き飛んでいた、これでだいぶ下も楽になるだろう。


「それじゃあ後は任せるぞ、吹雪」





「はいはい任されました、バルカン砲じゃ長時間の対地は難しいもんね」


 私は『零戦七二型』小隊と、60キロ爆弾をつけさせた『零戦五二型』を引き連れて、地上へ向かう。

 それと入れ替わりで、『イーグルⅭⅩ』二機が帰っていく。


「さて、空、聞こえてる?」

「うん聞こえてるよ~」


 いつも通り、やる気のない返事が無線から聞こえる。


「制空権は取ったし、砲陣地も制圧そろそろ終わるよ」

「おー分かった、こっちもそろそろ終わるから、ハインケル長官に、重機輸送の準備を具申しておいて」

「おっけー」


 なんとも戦場とは言えぬ温度の会話だが、空と私はいつでもこうだ、無理に気負わない、戦場に居ることを意識しない。

 そうすれば、戦場でも息苦しくないし、生存率もグッと上がる。


「こちら飛行隊隊長、吹雪です、ハインケル長官、重機を積んだエアクッション艇を出撃させてください」

「了解した、だが、用心してくれ」


 ハインケル長官の声が少し重い。


「どうかしましたか?」


 少し気になったので、私は高度を上げ、長官に聞いてみる。


「いや、ただの勘違いならいいのだが、どうも胸騒ぎがする」


 ……有馬なら、同じことを思ったのかな。


「ひとまずはこのまま作戦を続行します、何か起きた時、最終判断は雨衣少佐ではなく長官が行ってください」

「分かっている」


 その会話で無線は終了し、私は再び低空に戻る。


「胸騒ぎか……」


 機銃掃射を地面に加えながら、私は思考を巡らせる。


 何か起こるとしたら、可能性はいくつある? 戦車、火砲、航空機、歩兵、地雷、艦、考えられるものはいくつもある。

 だが、航空機と艦に関しては、想定外のことが起きた場合でもおそらく対処できる、だが問題は地雷や火砲、戦車が隠れていた場合。

 地上戦力は限りがあるし、撤退も難しい。


「戦車が出てきたら、自動で動く『チハ改』と、第八戦車中隊の『74式』に任せるしかないけど、たった十数輌で何とかなるのかなぁ」


 ん、30ミリが後46発しかない……ちょっと撃ちすぎたかな。


「『零戦七二型』小隊、制空用の『五二型』4機を残して、いったん引き返すね」

「うん、お疲れ様~」


 空に無線で伝えた後、私は『D150』に引き返した。





「……重機を乗せたエアクッション艇が出たか……」


 この言いようのない不安はなんなんだ……。

 一様、最悪の事態には備えておくか。


「通信!」


 私が呼ぶと、後ろから一人の兵士が私の元へ走って来る。


「ドイツ本土の総統閣下へ、Ⅴコードの準備を具申してくれ」

「は、了解しました」


 これを使えば上陸している兵士も死ぬ可能性があるが、止むを得まい。

 全滅さえせず、この海岸の敵を一掃できれば上陸自体は成功だ、後は増援を本土から送ってもらえばいい。


 そう考えていると、後ろから別の声が聞えた。


「そんな最終手段、彼なら選ばないでしょうね」

「貴様は、ゼロファイターのWSだったか」


 私が振り返ると、口元をマフラーで隠した少女が立っていた。


「彼、とは有馬戦線長官のことか?」

「そうですね、有馬さんなら、味方が味方の攻撃で死ぬと分かっている手段は、おそらく決して選ばないですね」


 何が言いたいんだ、このWSは。


「Ⅴコードをやめろと言いたいのか?」

「いえ、指揮権は私にはありませんので、貴方の考えを尊重しますが……」


 言葉の途中、一瞬だけとてつもない冷気と殺気を感じ、私は一歩後退る。


「空さんと吹雪に、万が一でも危害が加わるようなら、私は有馬さんに代わって全力で二人を助けます、たとえあなたを殺すことになっても」


 視線は冷たく鋭く、今までに感じたことが無いほど背筋が凍るのを感じた。


「それでは失礼します」


 私が何も言わないことを確認して、満足したのか、鋭い視線を瞬きで直し、体を翻した。


「……クソ、貴様ら太平洋のWSたちは、何故こんなにも嫌な気配を持っている、君が悪いぞ……」


 アメリカの連中もそうだ、WSはWSでも奴らは欧州のWSとは全く違う。


「本当に気味が悪い……敵には回したくない相手だな」

 

 そんなことを考えていると、無線機で報告が上がる。


「重機の到着を確認、之より、臨時航空基地の建設現場へ向かう」

「了解、敵の伏兵には十分気を付けてくれ」

「りょ――全員伏せろ!」


 やり取りが終る直前、無線機の向こうで、大量の悲鳴と爆発音が響いた。


「雨衣少佐! 状況を説明しろ!」

「敵のロケット弾の攻撃を受けた! 歩兵、及び数輌のトラックと『チハ改』に損害!」


 ロケット弾?


「クッソ、追加でイギリスMBT『チャレンジャーⅣ』12輌!」

 

 『チャレンジャーⅣ』だと⁉ 2041年に実戦配備されたばかりの、英国の新型MBTだ、とても日本が持ってきた『74式』とやらが敵う相手ではない。


「航空支援は⁉」


 私は慌てて、甲板に居る吹雪航空隊隊長に無線を繋ぐが、


「無理! 燃料補給も対地装備もできてない! 残ってる『イーグルⅭⅩ』も、甲板を開けて、対地爆弾を装備して発艦するまで十分はかかる!」


 流石に着艦して数分では、準備出来ていないか……。


「艦隊旗艦アリゾナ! 艦砲射撃は⁉」

「無理だ、こちらも敵艦隊の接触を受けている」

「なんだと⁉」

「現在、先ほど現れた八隻の巡洋戦隊と交戦中だ」


 現在海上警備に当たらせていた戦力は、戦艦一、対潜戦艦一、『A型』三、『B型』一、『Ⅽ型』二、それで敵の巡洋戦隊八隻を相手取るのは確かに難しいだろう。


「じゃあもう、陸でどうにかするしかないのか……」


 しかし……。


「現在『74式』戦車六輌が足止め中……今五輌になりました」


 一台やられた……。


「クッソ、なんとしても10分耐えろ! そうすればジェットが援護に向かう!」

「……了解」


  無線機の先に居る、雨衣少佐が何か言いたそうにため息をつくが、そのまま無線は途切れた。


「クソ、こんなはずでは……やはりドイツの戦車も上陸に使うべきだったか……」


 それとも、対地砲撃用の艦を持ってくればよかったのか?


「ドイツ本国より入電、Ⅴコードの使用は禁ずる、とのことです」


 最終手段である、Ⅴコードすらも使用禁止令だと?


「総統からか?」

「いえ、有馬戦線長官からの電文です、いかなる理由があろうとも、現場の兵も味方の手で殺すことは認められない、とのことです」


 あの小僧! でしゃばった真似を!

 イライラが頂点に達し、私は艦橋の壁を蹴りつける。


「貴様がこの程度の戦力しか渡さなったから、上陸がこんなに手を拱いているのだろ! 貴様ならこの状況を現在の駒だけで勝てるとでもいうのか!」

 

 敵の歩兵戦力は無尽蔵、どこから飛んでくるのか分からないロケット弾、性能差も数の差もある戦車、八隻の巡洋艦。


「勝てると思いますし、想定内だったと思いますよ」

 

 ゼロの声だ。


「やかましい! 貴様らのその無駄な信頼関係は何なんだ!」

「有馬さんは、貴方が知らないことも知っているからですよ」

 

 何?


「空さんの実力、優秀な情報艦、現場兵士の判断力、貴方が考慮できない情報を知っているからですよ」


 ……じゃああの少年は、それらをすべて分かったうえで、私にこの艦隊を任さたとでも言うのか?


「……私はどうすればいい?」


 ゼロは首を振る。


「何もしなくて大丈夫です、全ては、時間と優秀な部下が解決してくれます、有馬さんは、貴方に陸での指揮を期待して先制隊の指揮官を任せたんです」


 まるで私の指揮力が、陸でしか役に立たないような言い回しだな。


「私が無能だと言いたいのか?」

「違います、適材適所、有馬さんはそう考えているだけです」

 

 いいように言い包められている気分だ。


「ほら、戦場が再び動き出しましたよ」


 私が双眼鏡を覗くと、敵戦車の周辺に大きな土煙が巻き上がっていた。

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