第一五九話 上陸開始
現在、2月11日、08時25分、ボーンマス海岸手前。
「こちら輸送船『D110』一番、二番『エアクッション艇』準備完了、兵員、トラック、戦車積み終わりました」
「こちら『D120』、同じく戦車、トラック、兵員、積み終わりました、二番艇には、すでに重機を乗せています」
「こちら『D150』、航空機の用意は終わってるので、いつでも制空戦闘は始められます」
「こちら人員輸送船『とちぎ』、大発動艇すべて準備完了です、『チハ』も搭載完了しました」
それらの報告を受けた私は、無線を護衛艦隊の方へ繋いだ。
「随伴艦隊は、上陸部隊の後方に展開し、敵艦の来襲に備えろ、これより上陸作戦を実行する」
「承知した、指揮を頼むぞ、ハインケル長官」
通信先で、日本の長官、凌空が確認するように言った。
「解っている、陸での勝利は約束しよう」
冷静に、かつ気合を込めて、私はそう言葉を返した。
『D150』の艦橋から見えるのは、横に広がる砂浜、そしてその奥に広がるトーチカと、砲台陣地、洞穴のような場所には、おそらく戦車も隠れているだろう。
「際立って高い場所が無いから、撃ち下ろされることはないだろうが……左奥の森林が気になるな」
ちょうど何か隠せそうな林がそこにある、用心しておこう。
「……時間か……エアクッション艇、大発動艇、出撃」
私の声に合わせて、各輸送船の腹が開き、少し小さな艇たちが海へと出て行く。
「砲台陣地が動かない……水際戦はしないつもりか?」
通常、こうゆう時は、敵の上陸艇を潰すために、機銃と砲弾が飛び交うが、今回は一発も打ってこない……資源が不足気味か、人手不足かはたまた何かの作戦か……。
「今考えても分からないな」
航空支援一回分を温存できたと考えれば、得だろう。
私は、上陸艇が陸地に接したことを確認して、号令を発する。
「全軍、上陸開始」
「全部隊、前へ!」
大発動艇の扉が開くと同時に、私はそう叫ぶ。
「第六、七部隊は右前方の砲台陣地へ、それ以外は私に続け!」
一斉に十八の部隊が動きだす、それぞれの部隊には、『九七式中戦車チハ改』が先頭を行き、敵の機銃弾を受け止めながら、道を作ってくれている。
「第十一部隊被弾! 戦車大破!」
まあ脆いが。
「どこからの攻撃⁉」
「右の砲台陣地からの砲撃の模様!」
まあそうだよねぇ。
「第七部隊の戦車を十一部隊へ、七部隊の歩兵は、六部隊と合流後、再進撃!」
「了解!」
通信が入った十一部隊に向けて、対応の方法を示し、再び走る。
前方からは、ハワイの時ほど機銃は襲ってこない、機銃の数が無いのか、弾が無いのか、どちらにせよ好都合だ。
「一気に、前方第一トーチカまで攻め入るぞ!」
「「「「「応!」」」」」
私の喝に、後ろの兵たちも答えてくれる、それを確認して、私は手榴弾を敵トーチカに投げ込む。
「全軍、突撃!」
号令に動かされた兵たちは、小銃を片手に、トーチカへと入っていく、私も続き、目に入る敵の歩兵ロボットや通常の歩兵を撃ち殺して行く。
何度も繰り返した光景が、再び私の前に広がる。
「第四部隊、戦車大破! 歩兵に損害在り!」
第一トーチカの占領が終る手前、再び爆発音とともに、通信が入る。
「左前方より敵戦車出現、『Ⅼ3ランサー』五輌!」
めんどくさいのが出てきた……。
「『74式』戦車部隊、二小隊を敵戦車へ」
「承知、『74式』戦車、出る。」
私が無線機で応援をよぶと、エアクッション艇二つから、六両の『74式』戦車が現れ、敵の戦車に向け、主砲の爆炎を踊らせる。
「ッチ、さすがに『Ⅼ3ランサー』の正面装甲は抜けないか」
「当たり前です、あいつの正面装甲、垂直で500ミリの科学装甲ですよ? それをさらに傾斜させているんですから、まず抜けませんよ」
「んなこと分かってるわ!」
そう言いながなら、車長は俺の両肩を踏む。
「はいはい、距離詰めますよ」
俺がアクセルを踏み込むと、俺たちの愛車である『74式中戦車』のニケが、動きだす。
ニケという名は、車長である野澤海斗少尉が付けた名だ。
「成田、下手な運転したら『ランサー』に即座に抜かれる、分かってんだろうな?」
誰に言ってんだ。
「俺は成田渡、戦車操舵のA組ですよ? 舐めないでください」
そう言いつつ、ハンドルを切り、敵の砲弾を躱す。
「分かってるわ、だから俺の車輌の操縦主にしたんだからな」
へえへえ、そうですか。
「あと五秒で射撃チャンス、3、2,1、今」
俺が言うのと同時に、砲撃手の菊池昭が、引き金を引く。
その瞬間、105ミリ滑空砲が火を噴く。
APFSDF弾が、『ランサー』の側面を捉え、弾薬庫に誘爆したのか、『ランサー』の穴という穴から火を噴きだし、大爆発を起こした。
「派手に爆発しましたね」
俺が、呟くと、再び敵の方から爆発が聞こえ、そちらの方へ視線を送ると、他の車輌も側面を抜かれ、沈黙していた。
「こちら戦車小隊、『ランサー』は沈黙した」
「了解、こちら歩兵第一部隊、突撃を再開する」
私は無線を切り、全体の様子を双眼鏡で確認する。
「海岸全域は制圧終了、砲陣地は苦戦気味かな……」
砲陣地は、巨大な火砲が八本並んでいて、おそらくだが、砲サイズは80センチ、対艦対地、どちらにも有効なサイズだ、そんな万能砲を、簡単に敵が渡すとは思えない、それなりの防御陣地を敷いている事だろう。
それに、上空に敵機が出現し始めた、このままだと空からの攻撃も受けることになる。
第七部隊の『チハ改』を十一部隊に向かわせたのは、さすがにまずかったかな……。
「あー、第七部隊部隊長? 聞こえてる?」
「なんだ小娘! こっちは忙しいんだが!」
大変そうですなぁー。
「戦車と航空機と歩兵、どれが欲しいですか?」
「全部!」
無線機の向こうで爆発音と、「チハ爆散!」の声で状況を察した私は、すぐに無線を吹雪に切り換える。
「目標砲撃陣地、対地攻撃要請、並びに制空要請、好きなようにやっちゃって」
「はいはーい、『零戦』と『イーグルⅭⅩ』が二分後に向かうよー」
吹雪からの返事を聞いて、比較的砲陣地に近い、第六部隊、第八部隊、第九部隊の『チハ改』を砲陣地に回すよう指示を出した。
「お、二分ぴったり、だね」
私が呟くと、上空を飛んでいた二機の『N型ジェット』に、誘導ミサイルが命中し、火を噴きながら墜落した。
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