第一五五話 戦艦『ビスマルク』



 現在、14時19分、ヤーデ湾、戦艦『ビスマルク』甲板。




「日本の戦艦とは、また違った雰囲気があるな」


 日本の戦艦は、どこか無骨と言うか、性能を意識した故に生まれる美しさがあるが、この艦は、美しさを前面に押し出し、戦いの美を追求した見た目をしている。


「と言っても、ビスマルクの性能は、確かに欧州ではトップだからな……美を意識しつつ、強さを持つ、いや強さを求め続ければ、いずれは美しくなるのか?」

 

 そんなことを呟いていると、後ろから足音が近づいてきた。


「貴様の美的センスは、なかなかのものだな」


 この声は……。


「総統閣下、どうしてこんなところに?」


 ヒトラーの声だった。


「何、ただの気まぐれだ」

「そうですか……」


 気まずい沈黙が流れる。

 何を話せばいいんだ……。


「ここに来たということは、『ビスマルク』の魂に会いに来たのであろう?」


 ヒトラーは、鋭い目でこちらを見つめる、俺は黙ったまま頷く。


「そうか、なら呼んでやる……ビスマルク、出てきなさい」


 ヒトラーがそう言って手を叩く。

 そうすると、軍帽を被り、かつてドイツを統一し、鉄血宰相と言われるビスマルク首相とよく似た服を着た、ゲルマン系の女性が、ヒトラーの隣に現れた。

 透き通るスカイブルーの目に、太陽光を受けて、繊細に輝く金髪を背中まで伸ばし、背丈は俺より少し小さいぐらいだ、よく見ると、手には白い手袋をはめ……いや、はめずに握りしめている。


「彼女が、戦艦『ビスマルク』の魂たる、ビスマルクだ、面倒を見てやってくれ」

「初めまして、私は『ビスマルク』、総統閣下より、貴方の指揮下に入るよう受け賜わりました」


 礼儀正しく敬礼をし、ヒトラーとよく似た、鋭い目をこちらに向けた。


「こちらこそよろしく」


 俺は敬礼を返し、握手をしようと手を出すが、それを無視して、ビスマルクは消えて行った。


「馴れ合いは嫌いってか……」


 俺が呟くと、ヒトラーは声を上げて笑った。


「奴はなかなか気難しいやつでな、だが、お前は随分気に入られたようだぞ」


 俺は首相の言葉に、首を捻る。


「奴は、気に入った者の前でしか、髪を出さん」


 髪って、いつもは帽子に入れているのか?


「それに、手袋をつけずに持っていただろう、あれは、手を握る用意があるということだ」

「しかし、私の手は握ってくれませんでしたよ?」

「だろうな、奴は照れ屋だからな」


 そう言って、またヒトラーは笑った。


「まあいい、その内分かる、もし奴が戦果を挙げたならば、しっかり手を握って褒めてやれ、ついでに頭でも撫でてやれば、喜ぶと思うぞ」


 最後にそう残し、ヒトラーも消えて行った。


「ドイツのWSたち、癖強すぎだろ……」


 俺は嘆くような、楽しむような声でそう呟き、『大和』へと、足を進めた。


「さーて、明日は作戦の初期の初期、上陸戦だ、ハワイで経験しているとは言え、相当手こずるだろうなぁ」


 上陸戦に被害は付き物だが、やはり損害はない方がいい。

 無傷でとは言わないが、できるだけ損害を出したくないのも事実……。


「かといって、大和達に艦砲射撃してもらうこともできないからなぁ」


 大和達、決戦用艦隊は港に残り、制海権確保のための海戦に備える。


「まあ、何とかするか」


 そう呟きながら俺は、今後の作戦に着いて、考えを巡らせていた。

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