第一五三話 『五式砲弾』
俺は慌てて大和の手首をつかみ、両手を確認する。
よく見ると、胸元周辺や肩のあたりの服も少し焦げ付いていた。
「痛い!」
軽く手のひらに障ると、大和が顔を歪めて手を痙攣させる。
「火傷……主砲員! 砲塔と砲身の状態を報告しろ! 他搭乗員は艦内、艦外の状態を報告!」
俺が叫ぶと、少しの時間をおいて、続々と報告が上がる。
「機関室、異常なし!」
「航空格納庫、艦載機、異常なし!」
「後部甲板、カタパルト異常なし!」
「第三砲塔、砲身、弾薬庫、異常なし!」
「調理室、皿が何皿か割れたり、お湯が零れたが特に異常なし!」
それはそれで困る。
「左舷高角砲群、機銃群、電探群、異常なし!」
「右舷高角砲群、右舷機銃群、電探群、異常なし!」
「艦首宿泊部屋、廊下、異常なし!」
「艦橋エレベーター異常なし!」
「艦橋外見、熱風による塗装剝げ確認!」
服の焦げ付きはこれか?
「射撃指揮所、四二号電探、射撃統制機能が現在使用不能、時機に回復すると思われます!」
上の電探はやられたか……。
「第二主砲、砲身、現在過加熱状態につき、砲身から湯気が上がっています! 砲塔、弾薬庫は異常なし!」
「第一主砲、砲身、第二主砲と同じ状態で、砲塔の正面装甲が、熱くて近づけません!」
手の火傷はこれが原因か……。
「了解、各自問題があるところは調整、万が一修復不能なら、報告せよ」
想定していたより、46センチサイズの五式弾は、被害が大きいのだろうか?
おそらく、熱源からの熱風をもろに外装に食らって外装が塗装剥げしたんだろうが、どうしてそこまで砲塔が温まったんだ……?
何か五式弾に不備でもあったのか? それとも、純粋に俺が無知なだけか……?
少なくとも、後で資料を見直す必要はありそうだな。
「大和、すまない……」
「大丈夫、この程度、気にしないで」
だが、之で一つ決定したことがある。
「五式弾を使うのは、一旦中止だな」
「そんなのもったいないよ、折角有用性が実証されたのに!」
「一発撃ってこの被害が出るなら、46センチ砲弾タイプはもう使えない、おそらく41センチでも、多少なりとも被害が出てるはずだ」
後で二人に確認しておこう。
「さて、俺は一旦降りて、報告と会議に戻る、何かあったらすぐに呼べよ?」
「うん」
俺は大和の頭をポンポンと叩き、階段を下りて行った。
「五式弾でこの損害なら、九式弾なんて、とても実践配備できないな……」
階段を下りながら、俺はそう呟いていた。
「九式弾は……封印装備扱いかもなぁ、一斉射分だけ大和の弾薬庫に装填されてるが、試しに撃つなんてできなそうだな……」
まあ見た目は五式弾と同じだし、間違われることも疑われることもないだろう。
「結局、砲とミサイル、どちらを強くするべきなのか、之だと分からないな」
基本的に、WS艦艇はミサイル系統の装備はつけていない、その為メインは砲撃戦だ、なら今の技術で新型砲弾を作るのは、当たり前かもしれないが……。
「ミサイルと砲じゃあ、やっぱりミサイルの方が有能なんだろうな」
それは否定できないだろう、きっとそのことは、WSの本人たちもよくわかっていると思う。
「ま、今気にしてもしょうがないか」
俺は思考を切り替え、足早に階段を下りる、今の独り言を、誰が聞いているとも知らずに。
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