第一五二話 『伊403』の初陣
同時刻、迎撃地点、ポイントG地点海域。
「ついに、実戦です……」
私はパパが座っていた、艦長席に腰掛けながら正面のモニターを見つめています。
そこには、海面に浮かべた、カメラの映像が映し出されています。
「私の専門は、サイバー戦闘と魚雷戦なのに、まさか最初の実戦が、対空戦闘になるだなんて、完全に想定外でした」
……いけませんね、パパはいつも言っていました、「戦争は想定外が付き物だ、どんな可能性でも視野に入れておけ」と。
私も、なんでも対応できるよう、あらゆる場面を想定しておかないとですね。
「……見つけた」
私の耳に、かすかにエンジン音が聞こえました。
この音は、資料で聞いた、『Ⅴ33シヴァ』、『トーネード』、『零戦』と99、9%一致、目標と判断しました、迎撃戦の開始です。
「行きます……急速浮上!」
私の艦体から水が排出され、どんどん体が軽くなっていきました。
海面から上部が露出したら、次は発射準備です。
「上部、ミサイル発射口解放! マルチロールミサイル、ホ号四五式墳芯弾、竹槍、発射準備」
『マルチロールミサイル(万能墳芯弾)ホ号四五式墳芯弾』愛称竹槍。
艦対地空艦ミサイルで、2045年に、極秘で作成された万能ミサイル、VLSから発射させることができる。
ホーミング方法は普通だが、異端な能力を一つ持っている。
それが、吸引電磁針誘導能力。
ミサイルの火薬の中に含まれている、ナノ状の電磁針が周辺に巻き散らかされ、それに触れた機体は、特殊な誘導電波を発し、ミサイルの命中精度を99%までに引き上げる。
その破片が飛び散る直径も、約5キロとかなり広い、つまり、一本でも当たれば、後は全弾当たる。
「目標ロック、発射!」
まずは二本が敵機に向かって飛んでいきますが、一機は即座に反転し、雲の中に逃げ込んだことで回避、もう一機もチャフフレアによって回避されてしまいました。
でも、あきらめません、きっちり戦闘機を全機、爆撃機をできるだけ墜として、パパのお役に立ちます!
「第二射、発射!」
再び、私は二本のミサイルを発射しました、装填されているのは、後16本。
「良い感じ……これなら当たりそう」
私の見立て通り、ミサイルは美しい曲線を描いて、一機の『トーネード』に命中、爆発しました。
「なら後は、撃つだけです!」
後三機を墜とす為に、続けて三本の竹槍を、少し時間をずらして発射しました。
そうしないと、全部が同じ標的に向かってしまうこともあるからです。
敵機は、フレアも巻きながら、必死にミサイルを躱そうとしていましたが、そもそも熱源誘導ミサイルでは無いので意味もなく、竹槍がボディーに突き刺さりました。
「よし、ミサイルは後13本!」
私は意気込みながら、爆撃機の編隊の先頭を飛ぶ機体めがけて、一本発射。
「さすがに、あんな鈍重な爆撃機相手に、外すなんてことはあり得ません」
綺麗に機体の下腹部に当たり、『Ⅴ33』は、腹に抱えていた爆弾が誘爆したのか、激しい閃光と轟音で砕け散った。
「後はパパ、頑張ってください、それと、大和さんも」
そう私は呟きながら、約3秒おきに、残っているミサイルを撃ちあげ、結果をパパに打電し、「急速潜航!」そう言いながら、私は海中へと帰っていきました。
「『伊―403』より電文、「我、敵航空機ヲ迎撃、戦闘機四、爆撃機一一撃墜、残存機、爆撃機二五機、健闘ヲ祈ル」とのこと」
皮肉れていた大和が、俺の隣に戻ってきた。
「ふむ、二五機か……」
一艦あたり八機程度か……横並びか、三角陣形で来てくれれば確実に全機を巻き込めるな。
「大和、後何分だ?」
「肉眼で見えるまでは……後六分ぐらいかな」
「敵の現在高度は?」
「だいたい……5500」
その情報を聞いて、俺は射撃指揮所に指示を送る。
「主砲、仰角調整、高度5500」
「よーそろー、仰角調整高度、5500」
射撃指揮所と連絡を取っている間に、長門の見張り員から連絡がきた。
「敵機視認! 数、25! 高度5500、15機編隊と、10機編隊、まとまって飛んできます!」
よし、なら後は撃つだけだ。
「目標、射程圏内!」
指揮所から再び声が聞える。
「了解、総員ゴーグル装着、最終確認」
俺もゴーグルを装着する、指揮所は撃った瞬間、目を瞑らなくてはならないが、大丈夫だろうか。
「主砲内異常なし、砲身異常なし、砲塔異常なし」
最終点検の声が、通信機越しに聞こえてくる。
「五式弾装填用意よし、いつでもいけます!」
よし、いける。
「主砲五式弾、撃て!」
俺が指示したと同時に、いつもより大きな砲声があたりを包む。
同時に、両サイドからも爆音が響き、辺りに数秒間こだました。
「射撃指揮所! 目を潰れ! ……着弾まで、3、2、1、今!」
俺の声をかき消すように、正面で大きな球状の爆発が、いくつか起きる。
「うお!」
ゴーグル越しでもまぶしい光が瞬いた次の瞬間、艦橋の中にも響き渡るほどの爆音が襲う。
さらに少し遅れて、爆風が『大和』の艦体を叩いた。
「うわ!」
「勇儀!」
あまりの振動で倒れかけるが、大和が支えてくれたおかげで、倒れずに済んだ。
「すまない、大和」
「大丈夫? 思っていたより、凄い勢いだったね」
俺は双眼鏡を覗き、敵機の居たであろう場所を確認する。
「……本当に跡形もないな」
よく見ると、敵機たちの下の海面が、小さな水柱をいくつも上げている。
「『シヴァ』の残骸か……大和、電探には何か映ってるか? ……大和?」
俺の呼びかけに、大和は答えない。
「どうした?」
気になって、後ろを振り返ると、自身の手を見つめる大和が立っていた。
手元を見ると、大和の手が……。
「大和⁉ お前、その手は⁉」
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