第一五一話 破壊神急襲
「た……ちょっと遅かったですね」
「ちょっとじゃない!」
作戦室に、吹雪が飛び込んできた。
「敵編隊、ジェット戦闘機『トーネードVⅩ』4機を含む、40機の爆撃編隊が、こちらに向かって進行中、今『零戦五二型』八機と、『F15J』4機が、『いずも』と『しょうほう』から発艦、迎撃に行った」
ずばずばと現状報告を終え、俺の胸に一撃加える。
「どうして航空機関連の情報を、私に渡さないのよ⁉ 今は私が、航空戦全体の指揮を執ってるの、有馬知ってるよね⁉」
随分お怒りのご様子で……。
「そんなこと言ったって、お前ら外出するって言ってたじゃん……」
俺以外の三人は町に出かけていると思っていたので、吹雪に言ってもしょうがないと思い、こうして三人の長官に放そうと思っていたわけだ。
「零に言っとくとか、いくらでもやりようはあったでしょう?」
「どうしてそこまで慌ててるだよ? お前らしくもない」
「飛んできた爆撃機が『Ⅴ33シヴァ』だからよ」
その一言に、辺りが凍り付く。
「吹雪君、迎撃にでた機体、もう一度言ってくれるか?」
彭城艦長が聞くと、吹雪はそちらに向き直り、綺麗な敬礼で返答する。
「は、『零戦五二型』八機、『F15J』四機です」
まずい。
「機体の準備が間に合わず、スクランブル用の機体のみしか、発艦できませんでした、現在『Ⅿ0』と『F35B』の発艦準備を進めています」
『Ⅴ33』相手に、『F15J』では力不足だし、『零戦』では近づくことすらできない。
「……接敵まで、後何分?」
「後……4分、『Ⅿ0』たちの迎撃隊が接敵するまで、20分、ここにたどり着くまで、27分、迎撃隊は、スクランブル隊が時間を稼いでくれないと、接敵した時には、ここの上空になるもしれない」
俺の小さな問いに、腕時計を見ながら、吹雪が答える。
その答えを使い、俺は考える。
このままでは迎撃に出た『F15』の乗員たちが死ぬ、そして、『F15』を帰投させれば、迎撃隊は間に合わない……。
『Ⅴ33』をレシプロで迎撃するのはほぼ不可能……。
「ジェットは、発艦までに時間がかかる、レシプロはあてにならない、陸の対空砲では遅い、艦隊は動かせない……」
ん?
いるじゃないか、現在行動可能で、迎撃が可能な対空砲火を持った艦が!
「吹雪! 敵爆撃機編隊の、正確な位置を教えてくれ」
俺が言うと、吹雪は怪訝そうな顔をしながら、卓上の海図を指さす。
「ここね」
「ドンピシャだ! 吹雪! 今すぐ有人機である『F15』を帰投させろ!」
「で、でもそれじゃあここが……」
「いいから早く!」
あと4分で接敵と吹雪は言っていた、なら急がないと手遅れになる。
「わ、わかったわよ……なら、後の指揮は任せるからね?」
俺がうなずくと、通信機を起動しながら、吹雪は走り去った。
「さて、説明できる余裕はないみたいだから、簡単に聞こう、有馬君」
凌空長官が顎をさすりながら、俺の目を見つめる。
「この迎撃、成功するか?」
「はい、一機も、大陸の上を飛ぶことは在りません」
確信を込めて、俺はそう返した。
現在、07時22分、大和艦橋。
「各艦、主砲要員、対空戦闘よーい!」
俺は作戦室を出て、急いで艦橋に上がり、『大和』を挟むようにして錨を下ろす戦艦、『長門』と『陸奥』の艦内に、対空戦闘の指示を出す。
しかし機銃要員や高角砲ではなく、主砲のみだ。
「ハインケル長官、お願いします」
「了解した」
対空戦闘の指示をした後、ハインケル長官に合図を送る。
艦外では、総員退避の緊急放送が流れる。
「よっと、一体どう立ち回るの、勇儀?」
大和が俺の隣に現れ、首を傾げる。
「まずは、偵察行動中のヨミ達潜水艦隊を、迎撃ポイントへ移動、その間に、無人機の『零戦』を使って、『シヴァ』に張り付く戦闘機たちを誘導する」
この時、『零戦』は零が意識だけを飛ばして操ってくれるそうなので、多少は時間が稼げるはずだ。
「迎撃ポイントに誘導出来たら、ヨミが積んでいる、対空ミサイルを発射、ヨミのミサイル発射口は、二十門、四門を戦闘機、残りを『シヴァ』に当てる、だがあくまで、メインは戦闘機を潰すことだ、戦闘機の撃墜が、ミサイル四本では足りなかった場合、『シヴァ』に向かわせる予定だったミサイルも、戦闘機に当てる」
ここでどれだけ多く爆撃機も迎撃できるかがカギとなる。
ヨミは、対地艦空ミサイルを、全て合わせて40発持っているが、装填には時間を要する。
「そして残った敵機は、お前たちの前部主砲から撃つ、五式弾一斉射で仕留める」
「あーそう言えば、新しい砲弾積んだんだっけ」
俺は頷き、五式弾の説明をする。
「そうだ、俺が案を出して、豊和重工業と、日本の科学研究部が合同で開発した、水素爆発を使った、対地対空弾、五式弾だ」
艦体の改修案を考える際、一緒に考えた、思いつきの一品だ。
「五式弾は、三式弾より爆発半径が大きく、当てやすくなっているうえ、攻撃方法も、火薬の爆発と金属破片ではなく、水素爆発による高温の熱風と爆風だ、この五式弾は14センチ以上の砲なら、どの砲にも対応させられるが、41センチ以上の砲から撃たれたなら、たとえ『B52』であろうと消し飛んでしまう、それほど強力な砲弾だ」
それを聞き、大和が大きくうなずく。
「凄いね……それがあれば、『Ⅴ33シヴァ』を簡単に落とせるってわけか、最強じゃん、ぞの砲弾」
上手くいけば、だがな……。
「そんな五式弾にも弱点がある、それが、味方への被害と、一瞬しか効果を発揮できないという点だ」
俺の言葉に大和は再び首を捻る。
「爆風が強いとか? でもそれは、砲弾関係なくない?」
「光だよ」
俺の言葉に、大和ははっと顔を上げる。
「爆発時に発生する強烈なフラッシュ、これを直視すると、太陽を肉眼で見たのと同じダメージが、人の目を襲う」
だから、五式弾を打つ時は、皆専用のゴーグルをつけるのだ。
「じゃあもう一つ、効果が一瞬しか発揮できないってどういう事?」
「水素爆発は、煙や破片が飛ぶわけではないから、三式弾のように、破片に突っ込ませるとかの、弾幕での迎撃ができないんだ」
水素爆発は燃焼ではなく一瞬の発火だ、すなわち爆発が終ったら、そこには何も残らないため、直接爆発を当てなくては、効果は発揮できない。
「強いけど、その反面少し使いにくいってことだね」
「まあそうゆうことだ、強いものを使う時は、必ず、それなりの代償が伴うのさ」
『大和』のようにな。
「……勇儀、なんか今余計な事考えなかった?」
「いんや別に、ただどっかのでかい艦と同じだなぁって思っただけだ」
からかい口調でそう言うと、大和はプイッと顔を背け、消えてしまった。
「ありゃ、へそ曲げたか?」
そんなやり取りをしていると、腕時計が振動し、画面をタップすると、羽を広げた鶴のマークが点滅していた。
「零か……」
俺がアイコンをタップすると、画面に零が現れた。
「なるほど、こうやって見えるんですね」
画面の奥の零は、興味ありげにぐるりと見渡す。
「何か報告か、零?」
「はい、敵部隊を発見したので、現在誘導行動に入りました」
じゃあ今零は、音速で追われているという事か。
「追われているのに、こんな悠長に会話していて大丈夫なのか?」
「ちょっとまずいですね」
まずいんじゃん……。
「と言うか、どうやって音速のジェット相手に、攻撃を躱せるんだ?」
『トーネード』の最高速度が約マッハ2として、『零戦』の最高速度は542キロ、とても逃げ切れないし、ドッグファイトもできない。
「簡単ですよ、ミサイルを撃たれたら雲に突入し、後方に着いて機銃で撃つなら、コブラ軌道もどきで敵の背後に一瞬だけつき、20ミリで相手のエンジンを傷つける、それの繰り返しです」
いや簡単ではないよね、それ、まず人には不可能な軌道だぞ?
「と、ともかく、無事に戻って来いよ」
「はい、後七十八秒で、目的地点に到達しますので、ご安心を」
そう言って、零は手を振った後、画面から姿を消した。
「流石だな、家の傑作機は……」
いや、これはもはや、機体性能がどうとかの次元じゃないか……。
「五式弾装填よーし! 避難確認よーし!」
そう通信機から声が聞える。
「各員そのまま、戦闘待機」
さて、後はヨミが、どれだけ墜とせるかだな。
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