間章 非合理な指揮官
指揮官がドッグを出て行くのを見て私は、私の艦内にある長官室に入り、東郷長官が座っていた椅子に腰を下ろす。
「全く、指揮官も心配性だな……貴方が、私を改装したのではないか」
私を、この対潜特化仕様に改装することを決定し、名前や前部主砲塔を残すことを決定したのは、指揮官ではないか。
「私が、気付いていないとでも思っているのだろうか、指揮官は」
改装の話を聞いた時、正直私は、受け入れたくなかった。
先ほど司令官が述べた通り、私だって戦艦、主砲を無くすのは存在意義に関わる。
ましてや、艦隊決戦に出られないなんて、以ての外だ。
「だが、そうまでしないと、私は戦闘艦ではなくなってしまう」
改装が決定した後、整備長から聞いたが、私は本来、日本人の士気高揚や宣伝のための、街宣艦になる予定だったらしい。
それを指揮官が止めさせ、対潜特化の護衛戦闘艦にしてくれた。
理由はもちろん、旧式化だ。
「所詮、前弩級戦艦と言う事だろうな」
エンジンこそ石炭ではない、大和達と同じような油で動く物に変えてもらったが、装甲面、主砲の射程、速度で劣り、電探などとは無縁の存在、おまけに、まともに対空兵装もつけられない私では、足を引っ張ることが明らかだ。
しかし対潜戦闘なら、多少低速でも問題ないし、対潜魚雷が射出可能にしてしまえば、十分な戦力になると考え、指揮官はこうしてくれたのだ。
私は椅子の背もたれに体重を預け、天井を仰ぐ。
「私は、今戦艦と言う肩書を貰っている事すら異常なのだ」
艦隊戦ができない艦など、駆逐でも、巡洋でも、ましてや戦艦でもない。
「しかし、私はまだ、『護衛用対潜特化型戦艦三笠』の名前を持っている」
指揮官は、どちらかと言えば効率を重視する指揮官だ、伝統や歴史に縛られず、いいとこだけを取り入れ、無駄を省いて効率よく戦争を進めるが、時折、不思議な行動をするときがある。
「しかも決まって、それは兵器に関する事情の時だけだ……」
机に置かれた、私の改装設計図を手にしながら、私は呟いた。
「本当に指揮官は、兵器が好きなんだ……」
そうだ、指揮官は兵器が好きだ、そして、そんな兵器が好きな指揮官を、私達兵器は……好きなのだろか?
その問いに、答えを見つけることは、私にはできなかった。
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