第一四一話 『護衛用対潜特化型戦艦三笠』

「大丈夫なのか、指揮官?」


 俺が『三笠』のドッグに入るなり、三笠がこちらに駆け寄ってきてそう言った。


「ああ、問題ないよ、ヨミもこの通り元に戻ったしな」


 俺の後ろから、ヨミが顔を出し、頭を下げた。


「あの、さっきはすみませんでした」


 それを見て、三笠は何度か瞬きをした後、俺の後ろにいるヨミの頭に手を乗せた。


「そうか、落ち着いたのならよかった……私の事はいいが、指揮官のことは大切にしてくれよ?」


 そう三笠は、お姉さんの雰囲気を纏う笑顔を見せた。

 その表情にヨミも安心したのか、年相応の笑顔で、「うん!」と返事を返した。


「と言うか……」


 俺は、二人のやり取りが一段落したところで、後ろで整備されている三笠の艦体を見つめる。


「お前、変わりすぎだろ……」


 三笠の兵装は、もはや原型は殆ど残っていない。

 特徴と言える、艦体の中心に多数配置されていた副砲たちは、全てが魚雷に換装され、主砲塔も前部は変わらないが、仰角が大きく取れるようになっており、後部が、30センチ2口径対潜連装砲になっている。


 マストも取り外され、前部が13号電探、後部が55号ステルスレーダーに変わっている。


「ははは、私は戦艦としては、もう戦えるだけの力は無いからな、こうして改装し、使ってくれるのなら、ありがたい限りだ」


 三笠は、口ではそう言うものの、どこか寂しい表情を隠せていなかった。


「だけど、どうしてか前部主砲だけは、改装しないで残してくれたんだ、誰かが残すように強く言ったそうだが、何故だろうな?」

 

 確かに、後部を対潜砲にしているのなら、前部主砲塔も対潜砲に変えるのが良いだろうが、ある人は、そうしなかったそうだ。

 

 ある人は、な。


「じゃあ三笠、この際だ、詳細な君のデータを教えてくれ」

「ああ承知した、じゃあついてきてくれ」

 

 三笠は身を翻し、自分の艦体の方へ歩いていく。


「じゃあ、ヨミ、行こうか」

「はい……本当に凄い装備……」


 ヨミは『三笠』の艦体を見つめながら、そう言葉を零した。




「まずはこれだな」


 『三笠』の後部甲板で、異様な雰囲気を醸し出している砲塔、だが通常の艦が乗せるような、砲塔の長さが無い。


「30センチ連装対潜砲だな……しかし、意外と乗せてみるもんだな……」


 この砲塔は、イージス戦艦である『あらし』『こがらし』が装備している、2041年にできた、対潜特化の榴弾砲塔だ。

 D型弾頭と呼ばれる、小型爆雷を振りまく、米からライセンスを取得した新型弾頭をうち出すのが、この砲の主な仕事だ。

 通常の30センチ砲弾も打つことができる、が対艦攻撃に有効な徹甲弾を撃ち出しても弾速が遅いため、十分な貫徹力が得られないため対艦攻撃には不向きだ。


「これが対潜砲ですか……」


 ヨミがそう言いながら、砲塔を見つめる。

 この対潜砲は、イギリスやドイツなどの親国に、技術提供を行っている。

 

 そう、イギリスにも、だ。


「ふむ、欧州出兵時には、之が『伊―403』に牙を向くことになるのか……」


 三笠がそう言うと、ヨミが首を振る。


「私はヨミです!」


 三笠が数秒フリーズした後、大きく笑う。


「なんだか、指揮官の娘の様だな!」


 その言葉を聞いて、ヨミは首を捻る。


「私はパパの娘ですよ?」


 その発言に、辺りに居た整備員が、工具を落とす音が聞えた。

 三笠も、目をぱちくりさせて口をあんぐり開ける。


「……指揮官は、その年齢で子供を作ったのか? あ、相手は誰だ?」

「いやいやいや、落ち着け三笠、WSの子供なんて、人間には作れないから!」

 

 俺がそう訂正すると、三笠は眉間をつまみ、ため息をつく。


「そ、そうだな、ヨミ? はWSだものな……そうだ、そのはずだ……」

 

 自分で納得したのか、三笠は頷き、次の場所へと促した。


「さて、次はこれだな」


 三笠の前には、もともと副砲が並んでいた場所に、魚雷発射管が一門ずつ並べられている。


「このサイズだと……41センチ?」

「おぉ、さすがだな指揮官、これは41、4センチ魚雷発射管だ」


 ……53、3センチだと大きすぎたか?


「これはまだ試作段階の兵装でな、威力はやや低めだが、かなりの雷足を誇る41,4センチの、通常の酸素魚雷と、対潜用の魚雷が撃てるようだぞ」


 実用段階までは漕ぎ着けなかったのに乗せたのか……それだけ、この兵装に自身があるんだろうな。


「この発射管が、片舷六門、両舷十二門だ」


 側面の副砲部は、全部魚雷発射管になったが、側面以外の副砲や、水雷艇用の7、6センチ砲は、全て撤去してある。


「これが今の私、『護衛用対潜特化型戦艦三笠』の主武装だ!」


 やっぱり何度聞いても長いな……。


「これからは、輸送船団の対潜専門の護衛として、仕事をさせてもらうぞ」


 ヨミは、よく見たいとのことで、艦内を個人で見て回っている、周りに誰も居ないのを確認して、俺は三笠に、ずっと気になっていることを聞いた。


「三笠は、それで本当にいいのか?」

「どうゆうことだ?」

「お前は……戦艦なんだぞ?」


 腐っても、どんなに旧式であろうと、三笠は、戦艦『三笠』、連合艦隊の旗艦を務めた偉大な日本の戦艦だ、それを対潜戦闘特化の艦にするなんて……。


「いくら名前に戦艦と着いていたり、一番主砲が残っているとは言え、こんな装備じゃ、艦隊戦なんて、とてもじゃないができないぞ?」


 その言葉に、三笠は少し寂しそうに言う。


「だがこうでもしないと、もう戦えないほど、私は弱いのだ……いや違うな、周りが強くなったのだな……」

「こんなこと言うのもなんだが、三笠は大人だな」


 まあ年齢的に言ったら、皆100歳超えるのだが……。


「ははは、まあ他の兵器たちと比べたら、最年長かもしれないな」


 三笠は、どうやらそこまで気にしている様子は無かった。

 俺はそれに安堵し、艦を降りることにした、長官の仕事も、もう終わった頃だろうからな。

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