第一三三話 職業、軍人
俺達は視線を交わしたのち、現実を確認するようにもう一度校庭を見ると、一人の男子生徒が、血を流しながら倒れている。
撃たれたのは家の不良で、撃ったのは聖泉の番長らしき人物だ、よく見ると、その生徒以外にも、後二人拳銃らしきものを手にしている。
だめだ、これは喧嘩で済ませられる話じゃない。
「先生! 警察と救急車に連絡!」
俺が叫ぶと、先生は慌てて携帯を取り出す。
「吹雪! 空! 圭! 戦闘用意!」
「「「了解!」」」
続けて俺が叫ぶと、他の生徒がギョッと俺たちを見る、そんなことには構わず、俺達は二階の校舎から飛び降りる。
幸い、校舎の前には等間隔で木が生えているため、それ伝いで地面に降りる。
この学校の上履きは運動靴スタイルの物なので、まだ動きやすい。
俺たちが飛び降りると、後ろから小さな悲鳴と危ない、という声が聞えるが、そんな言葉は気にせず、俺たちは高所落下の姿勢で着地し不良たちのもとに向かった。
「なんだあつら……」
誰かが呟く。
「木伝いで飛び降りたぞ?」
「しかも戦闘用意って言わなかったか?」
そんな中、一人の生徒が言葉を零す。
「そういやあいつらって、同じ日に転校してきた四人だよな……」
俺たちが駆け寄ると、真っ先に相手の番長がこちらに銃口を向けた。
「おっと、まだ援軍がいたのか、それにしちゃ見た事ねぇ顔だな」
大柄な体で、赤いジャージ、髪は右半分が金髪、身長は俺より少しでかい。
「彭城⁉ だめだ、転校生に怪我負わせたら頭に合わせる顔がねえ、下がってくれ」
舞立が、左手にグローブを付けたまま言う、いくつかの擦り傷が目立ち、きれいに染めていた金髪に泥が混じっている。
「お前、名前なんて言う?」
「俺か? 俺は聖泉学校の頭を務める、村田正二っていうもんだ」
村田正二、名前は覚えた。
「後、その拳銃、どこで手に入れた?」
俺は村田が持つ拳銃を確認する。
おそらくベレッタ92なのだが、持ち手についたあのマークはまさか……。
「それは言えねえな、ちっとばかしやばいやつらにお願いして三つ渡してもらったんだ……どうだ? 怖いだろ? これの鉛玉食らったらただじゃ済まねえぞ?」
挑発するように笑う、後ろの生徒二人もこちらに銃口を向けている。
俺は、四秒間拳銃を見つめ、こう聞く。
「最後に聞くが、お前たち、その銃の使い方分かっているのか?」
「あぁ? んなもん引き金引けば弾が出るだけだろ?」
俺は深くため息をつき、鼻で笑う、なんだ、全然子供じゃねえか。
「何が可笑しい⁉」
「圭、負傷者の手当て、吹雪、生徒たちの撤退を援護してやれ、空、俺の掩護、各員散開!」
俺の指示で圭と吹雪が動きだす。
「おい! 何してんだ、早く逃げないとお前らも怪我するぞ! ここは私たちに任せ……」
舞立が言いきる前に俺は舞立に指示を出す。
「舞立、お前もそれなりに強いのは見ていて解った、だから吹雪と一緒にお前の部下を撤退させろ」
そう指示すると、舞立は血相変えて俺につかみかかる。
「お前、私に逃げろって言うんか⁉」
そうなる気持ちはわかる、だが今は……。
「お前は俺達からすれば雑魚以下だ、邪魔だから部下を連れて一度撤退しろと言っている」
俺がそう言うと、さらに舞立は顔を真っ赤にし、俺に殴りかかろうとするが。
「遅ぇ、いつまでまたせんだ」
そう言った瞬間、舞立めがけて村田は引き金を引いた。
「危ない!」
とっさに俺は舞立を押し倒す。
「有馬⁉ お前らぁ!」
空が反射的に跳びかかろうとするが、俺はそれを制止する。
「舞立、もう一度言う、早く撤退しろ」
そう告げると、舞立は涙を潤ませながら校舎へ走って行った。
「さて、邪魔者はいなくなった、お前ら二人、しかも負傷者とチビ女二人で、俺達の残り12人を相手にできんのか?」
村田がそう言って今度は、空に銃口を向ける。
「空、殺すなよ?」
「分かってる」
俺と空は目線を交わし、互いの意思を確認する。
「やる気か? じゃあ死んじまいな、転校生」
そう言って村田が空に発砲する寸前、空は走り出し、不良の一人に跳びかかる。
「おい、村田」
俺は空の方へ視線を向けている村田に話しかける。
「あ?」
「銃を撃つ時、一番気をつけなくちゃならいことを知っているか?」
「しらね……あっいてええええ!」
俺は懐から取り出した『FNファイブセブン』で村田の手を撃った。
「それはな村田、自分が狙える時は、相手からも狙えるってことだ」
「ちいっ! 野郎ども! こいつら殺せ!」
村田が叫ぶのと、空の攻撃の開始は同時だった。
「とりゃ!」
空が気の抜ける声で、一人の不良生徒を殴り飛ばす。
それを見て、バットを持った不良がそれを振りかざすが、空はひらりと躱し、顔面を蹴り飛ばす。
「ちくしょう!」
そう叫びながら拳銃持ちが引き金を引くが。
「あれ? 弾が、弾が出ない!」
焦る生徒を見て空がにやりと笑みをこぼし、その生徒の背後に回る。
「セーフティーがかかってるよ、ルーキー?」
「ひっ!」
その生徒が拳銃を落としたのを見て、空は首に手刀で一撃を加える。
「さて、こっちも相手をしてやらないとな」
俺は銃を胸元に仕舞い、バット持ち二人、素手三人、拳銃持ち一人を見つめる。
「来ないのか? じゃあ俺から行くぞ?」
そう言って俺は走り出す、まず最初にバット持ち二人が同時に振り下ろしてきたのでそれを躱し、片方の手首を折る。
「うぎゃぁ!」
悲鳴を上げその生徒が倒れ込む、その隙に俺はバットを投げ捨てる。
「これで殴ったら死んじゃうぞ?」
そう呟き、俺は二人目のバット持ちの懐に一撃入れ、蹴り飛ばす。
「おっと危ない」
そうすると俺の足元に銃弾が着弾する。
「お前はちゃんと撃てるんだな」
「あ、ああああああ!」
俺の呟きに、発狂気味にその青年は乱射する。
「だが、撃つならしっかり当てないと意味ないぞ?」
10発目で空撃ちの音が聞こえ、焦ったように青年はマガジンを交換する。
ボタンを押して、マガジンを落とし、ポッケから新しいマガジンを差し込もうとするが、手が震えてカチャカチャと音が鳴る。
「おいおい、戦場でそんな悠長にマガジンを変えてる暇なんてないぜ?」
ようやくマガジンが差し込み終わったのか、勝ったと言わんばかりににやりと笑い、銃口をこちらに向け、引き金を引く。
スライドをそのままに。
「あれ、あれ?」
焦ったようにカチカチと引き金を引く。
そんな様子を見ながら、俺はゆっくりと歩いてその青年に近づく。
「軍人はな、戦場で銃を撃つ時、必ず一発だけ残してマガジンを交換するんだ、何でか分かるか?」
そっと、その青年から拳銃を取り上げる。
青年は、怯えたように青い顔をしてこちらを見る。
「撃ちきってしまうと、装填した後にスライドを戻したり、コッキングしたりしなくちゃいけないからだ」
取り上げた銃のスライドストップを外し、銃口をその青年の額に当てる。
「そしてその約1秒が、自分の生死を分けることになるからだよ」
そう言い切ると、俺は銃を地面に向けて一発発砲。
その様子を見た青年は、こと切れたようにその場に倒れこんでしまった。
……ちょっとやりすぎたか。
ちらりと空の方を見やるとすでに五人倒し終わり、拳銃とバットを回収していた。
「いやだ、死にたくねぇ!」
素手で構えていた三人が怯えた表情で校門へ走っていく、どうやら逃げるらしい。
「戦闘終了……空、こいつら縛っといて」
「りょーかい」
俺は校門に集まってきた警察と、救急車を見て、ひとまず圭たちの元へ向かう。
「あーあ、之で俺たち、学校辞めさせられるんだろうなぁ」
そう俺はぼやいていた。
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