第一三二話 不良!?


 現在、11月11日、午前8時35分、三年三組教室。



「最近、横須賀市内に不審者が出ているそうだ、お前らも、登下校時は気を付けるように」


 そう先生が言い、ホームルームが終る。


「なあ彭城」


 俺の後ろから落合が声をかける。


「なんだ? 日本史の課題の答えは見せないぞ?」


 俺は一時限目の科目を用意しながら落合に告げる。

 落合はしょっちゅう課題を忘れ、俺のを写す、社会科の宿題が出された時は、ほぼ確実に俺のを写している。


「ちげーよ、今回はちゃんとやって来たわ」


 ほお珍しい、今日の午後は槍でも降るのか?


「じゃあなんだよ」

「通り魔のことだよ」


 ああ、さっき先生が言っていた事か、朝のニュースでもやっていたな……。


「通り魔がどうかしたのか?」

「いやさ、もしかしたらその不審者って、あそこの学校と関りがあるんじゃねえかな?」


 あそこ?


「まえ気をつけろって言ってた、聖泉のことか?」

「そうそう、聖泉学院、あそこやばいやつ多いんだよ、いつだが家の学校の不良とぶつかった時、凄い騒動になったんだぜ?」


 この私立学校にも不良というものは存在する、だがまあそこまで悪いやつらな訳ではなく、たまに学校をさぼったり、もめ事を起す程度だ。

 だがこの学校の周りの学校には、不良とゆうかもはや暴力団のような学生組織があり、一度警察沙汰になったらしい。

 

 その後、自分たちの手で学校を守ると言って立ちあがったのが、この学校の不良らしく、用はこの学校の自衛隊だ。

 自ら揉め事を起しにはいかないが、一般生徒を守ったり、荒らされそうになったら脅威を排除する、そんな存在だから先生たちもあまり強く言えないらしく、ちょっと不思議な立ち位置に不良たちはいる。


「なんでそんな想像に至ったんだ?」


 俺が落合に聞く。


「いやこの前さ、バッティングセンターに遊び行った時、偶々聖泉の不良が居たんだよ、特に気にしないでバット振ってたらさ、変な格好をした男がさ、不良にショーケースみたいなのを渡してたんだよ!」


 ……なんかの取引か? これは確かに怪しい臭いがするな。


「とゆうか、実際もめ事の時、どんな風に凄かったんだ? 死人でも出たのか?」


 さらに聖泉のことを聞こうと、そう質問すると、落合はしかめっ面で答えてくれた。


「やばかったぜ? 俺が入りたての頃だったけど、校庭で殴り合いになって、凶器も使いだして、最終的には警察が抑え込んだって感じだ、一人死にかけたしいぜ?」


 死人はでてないか……まあそんなもんか……。


「あ~そう言えば、その不良の部下が確か……おい! 番長、彭城が第三とのもめ事の話聞きたいってさ」


 落合はクラスの隅で友達と話していた女子生徒を呼ぶ。

 ん? 番長っていった?


「なんだ、仲間に入りてえのか?」

「いや、そうゆうわけじゃないけど……良ければこの学校の不良や聖泉のことを詳しく教えてくれないか?」


 俺が聞くと、その女子生徒は、鋭い犬歯を見せるように笑い。


「良いぜ、話してやるよ、あ、私の名前は舞立紫雨だ、よろしくな」


 そう言えばこの生徒、この二週間の間見てなかったな……。


「俺は彭城勇儀、よろしく」


 そんな簡単な挨拶を交わすと、意気揚々と紫雨は、一時限目が始まるまで、話し続けた。


 そんな紫雨の話をまとめると、こうゆうことだ。

 まず、この学校には数十名の不良がいて、その中でも強い三人が番長と言われる、舞立はそのうちの一人らしく、リーダーである渡辺健斗は停学中、副リーダーである横田夏樹は病院だそうだ。


 三ヶ月前の八月の終わりにでかいもめ事があり、そこで渡辺は一人の体をボロボロにしてしまい停学中、副リーダーは右腰と左腕、左目をやられて入院中らしい。

 リーダーは一月、副リーダーは十二月頃には学校に戻れるそうだが、それまでは、もう一人の副リーダーである舞立が不良を仕切っているらしい。


 それでその不良たちは皆、自ら鍛錬に励み、多くの隊員が武術の心得を持っており、少数とは言えそれなりの実力を持っている者が多いようだ。

 ますます日本の自衛隊……みたいな不良だな……。


 それに反対して聖泉は、もともとの生徒数が多いため不良(ほぼ暴力団)の数も多く、金持ちが多いのか、よく武器を持ってくるそうだ。

 八月の大乱闘は、甲子園の地区予選二回戦で、聖泉はこちらの学校に負けたらしく、その腹いせに攻め入って来たとか……。


 にしてもやることに対して理由がちっせえな。


 


現在、午前11時45分、三年三組、四限目古典。


 俺は古典は割とできる方なので、大和達のことを考えながら、適当に授業を受けていた。別に真面目っ子ではないので、普通に勉強は嫌いだ。


「それじゃあここ、なんで春の季語に梅が含まれているか分かるか? 彭城、答えてみろ」


 俺は急に呼ばれて驚き、とっさに黒板に目をやる、梅はどうして春の季語なのかということを聞かれたらしい。


「はい、旧暦だと、一月からが春とされ、梅はその時期に咲く花だからです」

「おお正解、ぼーっとしていた割には分かってるじゃないか」


 俺は一安心して席に着く、それと同時に窓側に座っていた生徒が手を上げる。


「先生、校庭に誰かが……」


 なんだ? 不法侵入か、それとも来客か……。


「聖泉だ!」


 不意に誰かが叫ぶ、それを聞いた瞬間、一斉に生徒たちが窓側へ寄る、俺と圭も流され窓から校庭をみる。

 この学校の校舎は、校庭を囲むようにコの字になっているため、校庭が見やすい。


「ッチ、こんな時に!」

 

 そう舞立が言って鞄を取って教室から駆け出す、戦いに行くつもりだろう、こんな光景がまさか見られることになるとは……。

 正直な所、高校生の不良同士の戦いなど、戦争が本職の俺たちからすれば可愛いものだ。


 ……この時はまだ、そう思っていた。


「やべよ、今家の不良たち大分人数減ってるし、成りたてが多いのに……」


 誰かがそう呟く、そう言っている間にも、先生は生徒たちを席につかせようとするが、まあ皆聞かない。

 俺はよく見るために圭と一緒にベランダへ出る、そうすると、隣の二組のベランダには空と吹雪がいた、二人も興味があるらしく、じっと校庭を見つめている。


「お、先生がまず行ったな」


 校庭には数人の先生たちが向い、聖泉の不良たちに話しかけるが、無視して進んで来る。


「ほら、家の不良も集合だ」


 誰かが言うと一斉に皆の視線が校庭に集まる、ざっと数を見て、聖泉は約30、家はその半分に満たない14人だ……大丈夫か?


 そんなことを言っている内に、聖泉側の生徒が爆竹らしきものを投げる。

 こちらの不良が怯んでいる隙に、向こうから殴りかかっており、乱闘が始まった。 

 家の不良はみな凶器は持っていないようだが、聖泉側は、後ろにバッドを持っている生徒が構えている。


 また地区予選の恨みでも晴らしに来たのかこいつらは?


「あぁ、痛そう……」


 圭がそうぼやく。

 医者目線で見たらあまりいいものではないよな。


「というか先生たちは警察呼ばないのか?」


 俺が呟くと、先ほどまで古典を教えていた先生がぼやく。


「学校側としても大事にしたくないんだ、あまり見ていて快いものではないが、生徒同士の喧嘩なら簡単に片づけられる。だが、いわゆる乱闘として警察が来れば事件沙汰だ、この学校は防衛相の人が立てた学校だからね、あんまり大事にしたくないんだよ、だからぎりぎりまで警察は呼ばないようにしているんだ」


 ……そうゆうものなのだろうか?


「お、番長が入り始めたぞ!」


 誰かが叫ぶ、どうやら乱闘に互いの番長も参加しだしたらしい、乱闘に番長が参入、つまるところ終盤戦。

 そろそろ決着がつく頃か、そう思った矢先、鈍く響く突発音、聞きなれた音が鳴り響いた。

 金属が撃鉄を起し、鉛玉が撃ちだされた音、俺たちが毎日のように聞いていた音、そうだ、銃声が校庭に鳴り響いた。


 一度あたりは静まり返る、発砲音の余韻が響き、撃たれた生徒がドサッと音を立てて地面に倒れ込むと、その沈黙は破られた。


「イヤアァァァ!」

「キャアアアア!」


 女子生徒たちが悲鳴を上げて目を伏せたりしゃがみ込む。

 男子たちも、何が起こったのか分からないという表情で、呆然と立ち尽くす。


 そんな中、俺達だけは互いに視線を交わしていた。 

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