第一三一話 キューブの数列


現在、18時00分、寮。




「なんか疲れたなぁ」


 空がそう言いながら俺のベットに寝転ぶ。


「空さん、人のベッドに勝手に寝転んじゃだめですよ」


 圭が注意するが、空は聞き耳持たず俺のベットでごろごろしている。


「まあいいさ圭、で、初日の学校生活はどうだった?」


 俺がみんなに聞いてみると、うーんとうなる。


「あまりにも久しぶりすぎて、馴染めなかったねぇ」


 吹雪がそう言いながら自身の制服をいじる。

 俺たちが今いっている学校は私立学校で、制服はブレザー、吹雪と空は、ミドルスカートが気に入らないのか、スカートの下に体操着の短パンを履いている。


 空と吹雪曰く、之なら動いてもパンツが見えないから、とのこと。


「そもそも私、学校行ったことなかったから新鮮だったよ」


 空もそう同意する。


「そう言えば有馬はどうだったの? あのよくわからない機械の件は」

「ああ、問題なく済ませたよ、でもあれは本当に何のための機械なんだろうな?」


 俺は、首を捻りながら吹雪に尋ねてみる。

 渡された時、吹雪は気になってあの機械を分解していたから、何か知っていると思って聞いてみたが、吹雪は首を横に振った。


「解んないよ、だってブラックボックスらしき物体が三つも入ってたんだもん」


 ブラックボックスとは、機械の中の最高機密部分のことで、容易には分解できないようになっている。


 ポッケに入るサイズの機械に、三つも最高機密が入っているのか……。


「そうか……」


 俺は当てが外れ、少し考えていると、圭の通信機が鳴った。


「はい、浅井圭です」


 圭は通信機のボタンを押し、通話を開始する。


「にゃ、明石だにゃ」


 通信の相手は明石の用だ。


「どうしたの?」

「そこに有馬はいるかにゃ?」


 どうやら明石の目的は俺らしい。

 そう言えば、俺の通信機は明石のキューブと接続してなかったな……だから圭にかけたのか。


「なんだ明石、WSたちに何か問題でも起こったか?」


 今明石は、改修中のWSたちのキューブの保全、修復、強化を行っている、具体的に何を強化しているのか教えてくれなかったが、明石曰く「質力の向上」と言っていた。


「WSたちについては大丈夫にゃ、たまに大和が謝り出したり、アリゾナがうなされていたり、武蔵が怒り出したり、零が泣き出したりするけど問題にゃいにゃ」


 俺達四人は大きくため息をつく。


「それって本当に大丈夫なの?」


 吹雪が通信機越しで明石に話しかける。

 明石は「ふにゃ?」と声を上げてから話す。


「なんにゃ吹雪もいたのかにゃ、だとしたら空もいるのかにゃ?」

「もっちろん」


 そう言って皆通信機に顔を寄せる。


「それで、なんでそのWSたちの反応は大丈夫なの?」


 圭が気になったのか、明石に尋ねる。


「うにゃ、WSについては、今夢をみてるのにゃ」


 夢?


「WSたちは改修中、キューブを外すことになるにゃ、改修中艦内にあったら壊れるかもしれにゃいからにゃ」


 まあそれは解るが、夢ってなんだ?


「キューブはあまりにも長い間、自分の体、本体に接続しないと記憶の濃度が低下して、WSとしての役割が果たせなくなるのにゃ、だから本体から取り外す場合、別の似た兵器に入れるか、スリープ状態にする必要があるのにゃ」


 ほうほう、通常の機械と同じように、WSにもスリープモードがあるのか……。


「それでにゃ、そのスリープモード中のWSたちは、人の睡眠と同様の状態になるのにゃ、だから夢をみる、そうゆう理屈にゃ」


 夢を見る理屈は解ったが、なぜ大和が謝り出したり、アリゾナがうなされていたり、武蔵が怒り出したり、零が泣き出したりするんだ?


「夢っていうのは、夢を見る生物の記憶や感情、精神の状態から構築されるのにゃ……ここまで言えば分かるかにゃ?」

「ああ、なるほどな、確かにそれなら、皆がうなされる訳だ」


 兵器の記憶なんて、ほとんどは悲しかったり、寂しかったりするものばかりだ、悪い記憶ばかりではないだろうが、やはり戦争を行う上で、マイナスな記憶はぬぐえないだろう。


「で、結局伝えたかったことは何だ?」

「そうだったにゃ、有馬に圭、そして吹雪と空、全員いるからまとめて言っておくにゃね」


 俺だけにではないのか?


「結論から言うにゃ、アメリカ軍のキューブ、なんだか変だにゃ」

「変?」


 変とはなんだ?


「なにが変だったの?」


 空が聞く、そうすると通信機の画面が揺らぎ、数列が並ぶ。


「キューブは端的に言うと、数字とアルファベットでできたプログラムにゃ」


 その言葉を聞いた瞬間空は顔をしかめさせる、まあ空の頭脳では無理か?


「基本的な数列は素数、小さい素数、1、3、5、7、9の順番でにゃらべていき、その数列が素数とにゃるところで、アルファベットを入れていくにゃ、Zまで入ったらまたAから入れていくにゃ」


 ……おっと、俺の頭でも理解不能か?


「その規則数列に、キューブの数列って名前を付けて呼んでるにゃ」


 俺は圭に視線を送ると、圭は何やら一生懸命紙に書いている。

 何やってんだ?


「このキューブの数列は、世界中のキューブに適応されるはずにゃ」


 されるはず?


「どうゆう事?」

「アメリカのキューブは、アルファベットの並びが違うのにゃ」


 ……はぁ。


「どう違うからどう問題なんだ?」


 俺が聞く、すでに空はうとうとし、吹雪も眉間をつまむ。


「通常、アルファベットが一字にゃのに対して、アメリカのキューブは単語にゃなのにゃ」


 単語?


「それでキューブって機能するのか?」

「そこが不思議にゃんよ、通常、キューブの数列でしかキューブの機能を発揮しないはずにゃん、でもアメリカはそうじゃないみたいにゃ……」


 空は寝息を立て始め、吹雪はぐったりと椅子に座り込む。


「その数列の情報をこの通信機に送っておくにゃ、何かわかったら連絡してにゃ」


 そう言って通信は切れた、圭はそれと同時にペンを置く。


「有馬さん、できましたよ」

「何がだ?」

「キューブの数列ですよ」


 俺がその紙を覗き込むと、そこには目眩がするような数字とアルファベットが並んでいる。



2[A][B]3[C]5[D]7/11/13[E]17[F]19/23/29[G]31[H]37/41/43[Ⅰ]47/53/59/61/67[J]71[K]73/79/83/89/97[Ⅼ]101/103/107[N]109[Ⅿ]113/127/131[O]137/139/149/151/157[P]163/167/173/179/181[Q]191[R]193/197/199/211/223[S]227/229/233[T]239[U]241/251/257/263/269[Ⅴ]271/277/281[W]283/293/307/311/313[Ⅹ]317/331/337/347/349/353/359[Y]367/373/379[Z]……


「お前、これ今書いたのか?」

「はい、そうですけど?」


 素数って、こんなふうに続くんだ……2、3、5、7、11ぐらいまでしかパッと出てこないけどなぁ。


「それで、アメリカのキューブはどうだったんだ?」

「これですね」


2[YAMATO][ZEKE]3[ZUIKAKU]5[SURVEILLANCE]7/11/13[MUSASI]17[OSCAR]19/23/29[AKAGI]31[KAGA]37/41/43[DESTRUCTION]47/53/59/61……


 さっきの数列のアルファベットの部分が、兵器と英単語に変わっている、いくつかの兵器の名前が並んだ後に何かしらの行動の単語が入っている。


「Surveillance監視……Destruction破壊……」


 圭がそう呟く。

 随分物騒な単語が並んでいる。


「気にしてもしょうがないですね、今日は解散にしましょう」


 そう圭が通信機を腕に付け直し、席を立つ。


「そうだな、吹雪も空を連れて部屋に戻れ」

「りょうかーい」


 そう言って吹雪が空をおんぶする。


「うにゃ? 部屋帰るの?」

 

 空が吹雪におんぶされ、目を覚ます。


「お、お目覚めか? もう話は終わったから、部屋でゆっくり休め」

 

 俺がそう言って頭を撫でると、空は再び目を瞑った。


「吹雪、ちゃんと空起して、寝間着に着替えさせてから寝かせろよ?」

「分かってるわよ」


 そう言って吹雪は出て行く、圭もそれに続いて部屋を出る。


「では有馬さん、また明日」

「おう、じゃあな」


 その挨拶で俺の部屋の扉が閉まった。





 それから二週間、俺たちは軍を離れ、普通の学生としての生活を送った。

 授業を受けたり、部活動をやったり、友達ができたり、とにかくひたすら学生を味わった、軍に入ることを決めた時から、学校というものを忘れていたが、やはりまだ俺は子供だったらしく、学校はとても楽しい場所だった。


 多少喧嘩したり、不良が~とかなどの学校の嫌な面も思い出したりしたが、それでも楽しい二週間が過ぎていた。

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