第一二九話 学校?


 現在、10月20日、18時30分、海軍省大規模会議場。



「学校に行ってもらう」


 急遽高校中退組が集められたから何事かと思えば……。


「実は政府の野党どもが騒いだらしくてな、まあ……察してくれ」


 国会の中継を見ている時にやっていた、「学生兵たちの学力」についてだろう。

 まあ簡潔に言うならば軍の学生が勉強しないのは良くないって騒いできたそうだ、軍と与党は多少の勉強はさせていると弁明したが、まあ納得するわけも無く……ってことだ。


「まあほとんどの者は一旦地元に帰るか横須賀の学校に行ってもらうが……」


 ちらっと凌空長官はこちらを見た後に続けた。


「一部の物は偽名を使って近くの学校に行ってもらうことになる、まあ個人的に説明するから……今目が合った四人、あとで来てくれ」


 ちらりと視線を上げると、バッチリ俺のことを見ていた。

 あーやっぱり俺たちだよね……。




現在、19時00分、海軍省長官室。



「で、なんで俺たちなんですか?」


 俺は長官に聞く、まあ大体予想はできるが……。


「有馬君は長官だから命を狙われるかもしれない、吹雪君は工業高校卒業生の整備長として名が通っているから、空君は……まあロシア兵なのと単純に学力不足」

「え、空さんてってロシア兵なんですか?」


 あ。


「あーうん、説明するね」


 空がしばらく説明をする、その間に俺と吹雪は凌空長官から説明を受けていた。


「そう言えば圭君には話していなかったな……」

「そうですね……圭は348部隊ですけど、あまり俺たちと行動しないから話すタイミングが無かったんですよ」


 俺たちは戦場兵、圭は後方支援要員、活躍する場は正反対だ。


「まあそれは本人たちで話してもらって……よっと」


 凌空長官は俺たちの前に大きな段ボールを二つ置く。


「この中に制服と鞄、教科書が入っている、お前ら四人で分けろ」

「いや分けろと言われましても……」


 開けてみると、確かに俺たちが指定された学校の物が入っていた。


「というかなんで圭も高校行きなんですか? 圭は14で軍に入ったんですよね? じゃあ中学校に行くべきじゃないんですか?」


 そう言うと、凌空長官は頭を掻きながら答える。


「圭君に偏差値64の高校三年、国公立大学を目指すクラスの期末テストと同等のものを受けてもらったが……」


 言葉に詰まりながらファイルを引っ張り出し、それをこちらに渡す。


「それが結果だ」


 俺と吹雪はそのファイルを開き、結果を目に入れると……。


「ん? すまない、ちょっと目が疲れているみたいだ……吹雪、ちょっと確認してみてくれ」

「うん、私もちょっと目が疲れてるみたいだね……」

 

 俺と吹雪は目を擦った後、再びその結果表に目をやる。


「国語81点、日本史92点、世界史90点、数学100点、物理91点、科学89点、英語99点……」


 圭が俺たちと同じ高校に行くことになった理由、それは……。


「頭良すぎん?」


 確かに圭は、同期で行われた筆記テストで113位と好成績だったが……まさか通常の学問だけの問題だけにするとこれほどとは……。

 軍で行われた筆記テストは普通高校三年生の一般的な問題と技術、家庭科、そして応急処置、戦闘方法、銃器の取り扱いだ、中学生である圭がこの内容で823人中113位を取れるのは凄い。

 いや凄いとかそんなレベルではない。


「さて、話は終わりだ、二十七日から十二月まで学校だ、精々短い青春を謳歌してくるんだな」


 そう凌空長官は言ってあくびをする。


「圭君への説明も終わったようだしな」


 俺が振り返ると、ポカンと口を開けたままの圭とおろおろとしている空がいた。


「さて、弟と妹を回収して宿舎に戻るか、吹雪」

「だね、まさか兄弟に設定されるとはね」


 俺と空には艦長の彭城性が、吹雪と圭には副艦長の浅間性が与えられ、それぞれ兄弟、そして親戚として同じ高校に入ることになった。


「ほれ妹、行くぞ」


 俺が空を呼ぶと、圭も一緒についてくる。


「ポルシェイド……何とか解析できませんかね……」


 なんか物騒な事言ってんなぁ。


「ほれ圭、久しぶりに348部隊会議だ、学校で軍の関係者だってばれないように設定合わせと会話の練習するぞ」

「あ、はい、今行きます!」


 圭を呼ぶと、慌ててこちらに駆け寄る。


「学校か……」


 俺は小、中学生だった頃のことを思い出す……あんまいい思い出無いな……。

 そう思い俺は深くため息をつきながら宿舎に向かった。




現在、10月27日、08時00分、横須賀高等学校三年三組




「今日のホームルームは転校生の紹介だ」


 中年で眼鏡をかけた先生が手招きして俺と圭を教室に入れる。


「彭城勇儀君と浅間圭君だ、二組にも今日転校してきた生徒がいるが、その子たちと兄弟で親戚だそうだ」


 少しクラスがざわつく、まあそんな不思議な構成で転校してきたら疑問でしょうがないよね。


「静かに、この二人は長くとも12月までしかこの学校にいないそうだから、早めに馴染めるようにしてやれよー」


 黒板に先生が俺たちの名前を書いてそう言う。


「少しなら質問の時間とってもいいぞー」


 いや勝手に話進めんなよ先生。


「はいはい!」


 勢いよく一人の男子生徒が手を上げる。


「それじゃあ落合、質問して良いぞ、あ、下ネタは禁止だからな」


 先生が椅子に座りながらそう言う。


 落合と言われた生徒は丸坊主で、野球少年のような見た目をしている。

 そこそこ身長が大きくて、体つきもしっかりしている。


「彭城、お前どこから転校してきたんだ?」


 初対面で呼び捨てため口かこいつは……。


「栃木の宇都宮南高校だ」


 そう簡潔に答える。

 面倒な質問をされないように余計なことは言わない。


「それじゃあ次、瀬尾、浅間に質問しろ」

「えぇ、私ですか?」


 瀬尾と呼ばれた彼女は、静かな立ち姿で背が低い、眼鏡をかけていて、いかにも勉強ができそうな雰囲気を醸し出している。


「じゃあ……なんで二人は長くとも12月までしかいられないんですか?」

 

 来た、できれば聞かれたくない質問ベスト10の内の一個、滞在理由。

 圭はこちらに視線を送る、俺は小さくうなずき圭に答えるように促す。


「えっと、僕たちの親はちょっと特殊な医者で、各地を転々としているんです、それで次の移動先が広島なんですけど、その移動の話がまとまらなかったらしくて、急遽横須賀で足止めを食らったって感じなんです」


 ま、そうゆう設定ね。


 そんな感じで、軽い質問四つを潜り抜け、久しぶりの学校生活が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る