間章 『Ⅿ0』の性能
しばらく飛行していると、また空が話し出した。
「ねえ、暇なんだけど」
「景色でも見とけよ」
「雲と海しかないじゃん」
現在高度3400、雲はほとんどなく日本海が見渡せる。
「今……時速約900キロ、後数十分後にはウラジオストックにつくんだから、おとなしくしてろ」
俺達は横須賀からウラジオストックまで飛行し、封書を届ける。
本来はそこで帰投するはずだったが、謹慎が終るまでロシアに島流しなので、翌日に今度はコムソモリスクナアムーレに軍事基地偵察に向かうことになっている。
「……ねえ、暇つぶしにミサイル撃ってもいい?」
空は恐ろし一言を放ち、機体からレーダーを照射した。
「馬鹿! やめろ、危ないだろ⁉」
「大丈夫だって、有馬なら何とかなるでしょ」
そうゆう問題じゃねぇだろアホ。
「お前、ただでさえ危ないこいつで、そんな真似したくないわ」
「この機体、suたちとそんなに違う?」
俺はため息をつきながらこの機体の説明を始めた。
てかお前この機体見に行った時隣にいたよな?
「『Ⅿ0―Jジェット戦闘機』最高速度マッハ2、8で、巡行速度900㎞、航続距離2920キロ」
俺がペラペラとしゃべる中、空は欠伸をしながら聞いている。
「機銃は、機首44号17ミリバルカン砲二門、両翼内蔵20ミリFB弾機関砲を一門ずつ」
空の欠伸につられながら続ける。
「ミサイルが、対空ミサイルハルパー、イ号照準追尾型三八式誘導弾、30式空対空高速誘導弾、04式空対空誘導弾の内、最大で六本ミサイル搭載可能。腹のボムベイの中には、対艦ミサイルボンド二本、イ号照準追尾型三八式誘導弾二本、800キロ爆弾二つを内蔵可能」
なかなかな汎用性で、F3の立場を揺るがすレベルの機体だ。
「従来のジェット戦闘機よりも装甲が薄く、フレアの性能が低い代わりに強力な機関砲と機動性を実現した機体だ」
大雑把な説明をし終わると同時に高度を下げ始める、通信で着陸許可は空がロシア語で取ったので今頃、基地では滑走路が開けているはずだ。
「ねえ有馬、結局何が問題だったの?」
うん理解できてないね。
「問題なのはこの機体の防御面の圧倒的な弱さ、だ」
機体を捻りながらフラップを展開し、減速を始める。
「この機体は現代の零戦と言われるだけあって、防御面は全世界最弱と言っていい」
「そんなに⁉」
「ああ、フレアの数はかなり少なく、おまけに軽量化の為ボディーは紙っぺらの如く薄い、SAM系列の至近爆発しするタイプのミサイルで、良くて致命傷、悪けりゃ一発でお陀仏だ、それにFB機銃弾なんていう爆弾まがいのもの抱えてるしな」
またもや人命軽視とか言われそうだが、実際のところはそうでもない。
この機体の一番の長所として、旋回、切り返し、ロール、全ての機動においてどの機体にも勝っている。
之ならそもそもロックされにくいし、相手が近づきすぎたのならそれこそ切り返して機銃を叩き込むことができる。
ミサイルを万一発射されても、とてもミサイルが付いいけないような機動をすればいいだけだ。
「ねえねえ、じゃあさ、封書の内容にあった、三八式ミサイルが凄いって話は?」
空も速度を削りながら俺の横に並ぶ。
本来封書の中身を俺たちが見るのはご法度なのだが、空が勝手に開けてみてしまい、ため息をつかれながら空自の元帥、浜松壮介閣下に、俺も内容を教えて貰った。
「ああ、照準追尾機能のことだ」
やっと飛行場が目線に入り始め、速度も600まで下がり始めた。
この機体の長所としてエネルギー保持が高いため、着陸する際には何度も旋回をかけて減速する必要がある。
「赤外線追尾とは違うの?」
うんまあ流れからして知らないと思ったよ。
「最初期からあるfox1『レーダーホーミング』、現在の主力となっているfox2『赤外線ホーミング』fox3『アクティブレーダーホーミング』、これらの能力を凝縮、進化させたのが、日本が開発した照準追尾式『サイトホーミング』だ」
『サイトホーミング』それは日本が開発し、まだ機密保持のため防衛共同国であるアメリカにしか技術共有していなかったものだ。
その詳細を今ロシアに渡しに行こうとしているのだが。
「で、詳しく言うとどういう仕組みなの?」
もう地面は間近に迫ってきた、さすがに話している暇は無いな。
「また後でな……ランディングギア展開、着陸フラップ展開、エンジン出力10%、着陸する」
「了解、二番機も続きます」
そう言って俺たちはロシアの飛行場に足を下ろした。
機体の動きが止まった後、ゆっくりと俺は風防を開けると、日本とは違った、乾いた冷たい風が、俺の顔を撫でていった。
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