第五幕 冬の思い出編
第一一九話 北欧へ
10月5日、6時30分、横須賀航空基地。
空は初めてとなる耐Gスーツを着て、管制塔からの離陸許可を待っていた。
「お前、初めて耐Gスーツ着るって言ってたけど、ロシアから出てきた時、着なくて大丈夫だったのか?」
俺は、機内に取り付けられている通信機で、後方にいる空に話しかけた。
空は、ロシアからの脱走兵であり、いつだか当時最新の『mig―25』に乗って日本に亡命した脱走兵と同じように、su社の最新機である『su―67』に乗って日本に来たが、当時14歳の空は、耐Gスーツなしで、音速飛行をこなしたようだ。
「まあ、あの時は覚醒してたしね、日本で病院送りにはなったけど」
……つくづく、『ポルシェイド』の効力は凄いようだ……。
北欧は、世界に知られずに、着々と技術力をつけているようだが……。
「またポルシェイドのことで考えてるの?」
空が言いつつ、あくびをする。
まあそうだな、俺は『ポルシェイド』について、空から話を聞いた後、色々考えることが増えた。
『BTポルシェイド924、989』ハワイでの作戦中、空に聞いた話と、海軍に流れてきた情報を合わせて、分かっているのは、脳の活動領域を80%まで広げ、一時的に人間の限界を超すための薬。
だがその反動で、肉体が崩壊する恐れがある。
精神面でも暴力的になり、目的を遂行する以外に、頭が働かなくなる、だがこの薬を使いこなせれば、己のタイミングで覚醒でき、力を制御しつつ、効果を最大限に使える。
そして989の場合は、覚醒のレベルが、924より上がっており、脳の活動領域を100%にまで拡張する。
だが、この薬に耐えられたものはまだおらず、北欧では、924を摂取した一部の存在に、989を渡し、必要になったら飲めと言われているらしい。
……数名、実験で飲まされたようだが、あるものは狂ったように頭を地面に打ち付け、またある者は体の筋肉が破裂したそうだ一人死なずに生き残ったようだが、その人は、人間とは程遠い見た目になってしまい、知能も、著しく低下したという。
「なあ空、今すぐにでも、ポルシェイドを捨てないか?」
「嫌だよ」
返事はすぐだった。
「何度も言うけど、私がこれを持ち続けているのは、皆を守るためだから、924の力だけじゃ、守り切れないときにこれを使う、なんと言われようとも、この薬を手放す気はないよ」
そんな会話の間に、管制塔から離陸の許可が出た。
「一番機、二番機、滑走路へ」
「了解」
「りょーかい」
俺は、エンジンスロットルを徐行で始動し、機体を、一番滑走路へ運ぶ。
「さて、久しぶりのジェット機、行ってみましょうか」
軍の指揮官になるための訓練として、半年ずつだが、陸海空全ての訓練をやらされる、全ての初歩を習ってから、自身の希望した所の指揮官になるべく、専門的なことを学ぶ。
俺は、海を希望してはいたが、飛行訓練の際、中等訓練まで行ったのだ。
初等訓練では、練習機である『T―9』「ひよこ」の愛称で呼ばれ、『T―5』の後継機である機体で、航法、操縦方法など、基本的なことを教わる。
だが、あくまでこれを終えたところで、プロペラ機に乗れるだけ、ということだ。
そこで俺は、訓練期間を一年にし、中等訓練まで教わることにした、中等訓練機は『T―8』、愛称は「ひな」、かの有名なブルーインパルスの機体も、今は『T―4』からこちらに変わっている。
それで、中等訓練ではジェット機の運用方法、操縦方法、ドッグファイト、ミサイル回避方法、ミサイルの運用方法など、実戦的な内容を行う。
よって、急遽航空機に乗っても、俺は戦えるだけの技量があるってことだ、現場では、何が起こるか分からない、いつ航空機に乗ることになってもいいように、俺は習うことにしたのだ。
まあ、純粋にジェット機乗りたかった、というのもあるんだけど。
「空、チェック終わったか?」
「うん、いつでも飛べるよ」
少し考えごとをしている間に、空の最終チェックも終わったようだ。
「よし、じゃあ行くぞ」
そう言って、俺はエンジンの質力を最大まで上げ、離陸フラップを下げる。
順調に速度が上がり始め、速度計が260を超えたあたりで、機体はふわりと宙に浮きあがった、さすが『Ⅿ0―J』、現代の『零戦』だ。
だが、やはり練習機と違って動きに癖がある、機体後部がやや重いためなのか、全体的に前部が浮き上がる感覚がある。
「空、大丈夫か?」
俺は、心配になって空に声をかけてみると。
「大丈夫だって、私だって、一様中等訓練まで受けてるんだから」
そう言えばそうか、俺の分隊で、飛行機に乗れないのは航大だけだ。
圭も、一様初等訓練はこなしていたから、プロペラ機なら乗れるはずだ。
「そう言えばさ、空での高等訓練って、何するの?」
高度が2000のあたりになってきたころ、空は、そう唐突に聞いてきた。
「急にどうした?」
俺がそう聞くと、通信機から再び声が聞えてくる。
「いやさ、高等訓練までやれば、私も吹雪みたいな操縦できるかなって」
「絶対無理だ」
俺は即答する。
「何で? 私の体なら、耐久力はあるから、動かし方さえ解れば何とか……」
「言っておくが、高等練習機は、戦闘機系列じゃないからな」
通信機の向こうでは、空が「んんん?」とうなる声が聞える。
「高等練習機は『S―2』、双発の大型輸送機だからな」
「え……てことは、高等訓練で行う訓練って」
空は機体の名前を聞いて、何かを察したらしい。
「大型機の操縦訓練、輸送荷物の収納方法、爆撃の仕方、防護機銃の打ち方とかで、高等な戦闘訓練は受けられないぞ」
『S―2』は『Ⅽ1』輸送機を、爆撃も可能な多目的機に改造した練習機であって、『T―9』や『T―8』たちのような、戦闘機としての練習機ではない。
「じゃあ、有人飛行隊の人たちは、どこで実戦的な技術を練習するの?」
「あれは、飛行訓練じゃなくて、各航空戦隊の戦闘訓練だ、だから、空母の艦載機は、皆無人機なんだよ」
海軍は、一航戦である『赤城』『加賀』、二航戦の『蒼龍』『飛龍』、五航戦の『瑞鶴』、おまけで、零航戦である横須賀基地が、主な航空戦力であって、その他の有人機体がいる航空基地は、全て自衛隊の、本土防空作戦部になっている。
「じゃあ、航空機での実戦的な訓練をするには、航空戦隊に所属するか、横須賀基地で、独学で学ぶしかないってこと?」
う~ん、まあそうなるかな?
「そうゆうことだな、まあ横須賀基地の整備担当は吹雪で、零航戦航空隊隊長も吹雪だから、直接、あいつに教えてもらいに行けよ」
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