第一〇〇話 損害報告


「まったく、君はいつも目を離すと、WSたちとイチャイチャしているようだな、有馬司令長官殿?」


 艦長は、皮肉を込めながら、俺の名を呼ぶ、今は艦長に連れられて、『長門』と『扶桑』のドッグに向かっている。


「二人の損傷は、どれくらいのものだったのですか?」


 俺が聞くと、艦長が持っていた資料をこちらによこした。


「『長門』大破、機関部全損で、スクリューも缶も舵室も全て破壊、さらに、第二砲塔の弾薬庫に大穴を開けられて、一歩間違えれば誘爆に誘爆で轟沈していたかもしれない、その他にも、左弦を集中的に装甲版が破壊、いたるところに亀裂が見れると」


 機関部を取り換えるのにはかなり時間がかかるな……欧州出兵までに直せるか?


「そして、問題なのが『扶桑』だ」


 艦長の顔はかなり苦い顔をしている、相当手ひどくやられたのだろう、まあそれもあたり前か……『長門』を庇う形で、敵の砲弾を受け止めたんだから……。


「『扶桑』撃破」

「撃破⁉」


 撃破とは、轟沈一歩手前で在り、修復を諦めるレベルの損傷だ……よく直す判断をしてくれたな……。


「後部艦橋粉砕、第三、第五砲塔粉砕、五番に至っては、弾薬庫の爆発で内部から破損、そして、前部甲板の木は傷み、半分以上がめくれてしまっている」


 確かにひどいさまだが……それではまだ、大破でいいはず。


「そして一番問題なのが……」


 何だ、まだあったのか。

 そう思って、俺は資料の次のページをめくる、それと艦長の言葉は同時だった。


「艦尾の切断⁉」


 俺は、思わず大きな声を上げる。


「ああ、君は見ていなかったが、ドッグに入った直後、艦尾の接続部分が限界を迎えて、切断したんだ」


 俺は資料を見つめる。

 確かに、『扶桑』の艦体図に、赤い斜線が艦尾に引かれている。


「その続きは私がしましょう」


 そう言って、奥から作業服を着た男が出てきた。


「貴方は?」


 俺が尋ねると、その人はヘルメットを外して答えた。


「私は西村陽人、ここのドッグで、現場監督をしている内の一人です、『扶桑』と『長門』の被害状況などについて、詳しくお教えします」


 ドッグの管理者か……なら話を聞いておくべき、俺はそう判断し、その人についていくことにした。


 しばらく歩くと、見るも無残に傷ついた、『長門』の艦体が見えた。


「まず『長門』ですが、修復についてはさほど問題はありません、おそらく二か月ほどで完全に修復可能です」


 西村さんはそう言うが、この傷を、本当に二か月で直せるのか?


「WSについては、明石が治療しているそうなので、その内帰ってくるでしょう」


 ああ、そう言えば、WSの魂も、個別で修復しないといけないんだったか……だから『明石』が、ドックの近くで錨を下ろしていたのか……あいつも多忙だな。


「問題なのは、『扶桑』の方です」


 そう言って、西村さんは一つ隣のドッグに居る『扶桑』を指さす。


「砲塔や後部艦橋の修復は可能ですが、艦尾切断に伴い、艦の竜骨がボロボロです、新たに付け替え、試運転を終わらせ、完全に現場に復帰するまで、四か月近くかかるかもしれません」


 そうなると、欧州出兵には間に合わないな


「……なあ有馬君、ちょっと良いか」


 艦長が、何かを思い出したかのように言う。


「なんですか?」


 俺が聞き返すと、艦長は一つの資料を、ポッケから取り出した。


「これを機に、大規模な近代化改修を行わないか? ちょうど、前々から作ってもらっていたあれができたわけだし、君が分捕った、米からの支援金もあるわけだし」


 支援金は解るのだが、「あれ」と言うのが理解できなかった。

 しかし、渡された資料を見て思い出す。


 そういや、こんなの作ってたな……。


「41センチ三連装砲、できたんですか?」

「その資料が証拠だ、それに扶桑がな、演習の時にぼやいていたんだ、改修してもらいたいと」


 扶桑が改修してほしいか……。


「その話は、私からいたしましょう、彭城元帥殿」


 そう言って現れたのは、服装がボロボロの扶桑だった。


「扶桑⁉ そんな姿で出てきちゃだめだろ⁉」


扶桑は、明石の応急処置で、肉体こそ通常に戻っていたが、塗装や装甲が戻っていないためか、服のいたるところが破れていた。


「なぜでしょう? これくらい大丈夫です、その内、服はもとに戻りますから」


 いや、俺が良くないの。


「良いから、今はちょっと消えていて! 後で、二人の時に話は聞くから!」


 そう言って、俺は扶桑を押しやった。


「なんだ、もう少しあの扶桑の体を、眺めていたかったのに」


 艦長が鼻の下伸ばしながら、堂々と変態発言をするもんだから、俺は脇腹に肘打ちを入れた。


「ぐっは! 君、上官に向かって何してるの……」


 艦長はプルプルしながら俺の肩をつかむ。


「WSの管理者としては、貴方みたいな変態からも、WSを守ってあげないといけませんからね、無罪です」


 俺はそう言って、艦長を立たせる。


「まあいい、とにかく、皆と話したうえで、範囲で、改装の件を話し合っておいてくれ、戦艦も見えるようになったことだしな」


 そう言って、艦長はその場を離れた……脇腹をさすりながら。

 そんなに痛かったかなぁ。


「て、それより……」


 俺は思い出す、そう言えば、今、俺は。


「戦艦のWSが見えていた……」


 西村さんは、ため息をつきながら資料をまとめ、俺に言った。


「このドッグに、全戦艦は集まっています、貴方が呼べば、皆集まってくれますよ」


 そう言って西村さんはドッグの水が張ってある方へ向かって行く。


「お前ら! 扶桑の修復急げ! ひとまず、骨組みだけでも直すぞ!」


 俺は、ドッグの端にある控室に戻る。


「……長門、陸奥、扶桑、アリゾナ、武蔵! いるなら出てきてくれ!」

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