第九七話 露払い
私は、その声に押されて緊急通信を入れる。
「緊急事態、所属不明艦発見!」
私の通信が終わると同時に、『アリゾナ』に乗るコルト長官から声が入った。
「こちらのレーダーにも映った! 海賊船だ!」
海賊船、正式名称『UAS―29』、戦争が始まった直後、WASが世界中の海に放った、輸送船を襲うための無人特攻船を総じて、海賊船と呼ぶ。
正直、一隻の攻撃力で、戦艦を沈められるほどの力は無いが……。
「陸奥! 敵の数は⁉」
「今やってる! ……敵船の数、十隻部隊が三つ!」
陸奥は、『零式水観』からの情報を、通信で全艦に伝える。
「全艦、小型船攻撃用意! 実弾装填!」
数が多すぎる、一隻の性能的には、全長28メートルほどで、主砲は12センチ単装砲一門と非力だ。
輸送船を攻撃するには十分かもしれないが、対艦攻撃には低すぎる、しかし、問題なのは自爆機能があるということだ。
少し前、アメリカのフリゲートが、海賊船三隻の自爆で沈んでいるのだ、その事実が、私の心臓を鷲掴みにしていた。
「海賊船を近づけさせるな!」
陸奥が舵を切ったのは、長門達と互いの副砲が届く範囲に入り、カバーしあえるようにという事だったようだ。
「主砲、副砲、榴弾装填完了、撃ち方はじめ」
陸奥の掛け声とともに、全艦の全砲門が開いた。
私は、今ものすごく不安です。
この状況、スリガオ海峡に少し似ている……今沈むことはないかもしれないけれど、それでも、私は不幸だから……。
「誰も、傷つかなければいいのだけれど……」
そんな不安を感じながら、多数の副砲と、主砲を撃つ。
今のところは順調に数を減らせている、ビックセブン二隻に、米の古参の戦艦一隻、次いで、多砲の私が居れば、いくら足が速い小型船でも、近づかれる前に片付けることができる。
「陸奥? もうそろそろ、残弾が付きそうなのだけれど……」
今は、演習弾と通常弾で弾倉を埋めていて、現在は演習中のため、通常弾である榴弾の数が少なく、撃ちきるのが早い。
「そうね、私ももう、榴弾の残弾は残り少ないわ……もうじき、司令官が駆逐艦を連れてきてくれるはずだけど……」
そんなことを陸奥が言うと同時に、高い汽笛が響き、軽快な発砲音が鳴り響く。
「すまん、遅れた! 『Ⅽ型』駆逐艦三隻到着だ!」
通信から、そう声が聞こえる。
「有馬司令官!」
私がそう叫びながら、通信機に張り付くが声が返ってこない。
「あ、ああ、聞こえないのでした……」
「まったく、演習だからと言って、海峡警備を出さないのは失敗だったな」
俺はそう言って反省する、いつもは穴の無いように、いつも海峡警備班を出しているのだが、今は砲撃演習の邪魔にならないよう、この時間だけ出さなかったのだ。
「まったく、油断も隙もあったもんじゃない無いな」
しかし、これで戦艦の砲撃戦をしっかり見ることができなかった、本当にこれで、戦艦のWSが見えるようになるだろうか……。
「たっく、まぁた俺のヘリを勝手に飛ばしやがって、上から何言われるかわからないんだぞ? 今日で無断出撃二度目だ……」
相変わらず俺は、張本さんのヘリに乗って現場に向かった。
最初は『ブラックホーク』に乗っていたが、武装が無いため、駆逐艦を呼びながらヘリを乗り換えた、大和達の艦隊に向かった後、燃料の補給をしていた張本さんの『バッファロー』で、再び戦場に戻ってきた。
「全駆逐艦、対水雷艇戦闘開始!」
量産用の無人駆逐艦に、攻撃を指示する。
無人型量産駆逐艦、タイプⅭは、対艦に特化した量産駆逐艦で、主砲18、3センチ単装砲6門、93式61㎝酸素魚雷四連装二基、12、7ミリ機関銃八基、25ミリ連装機銃二基、最速43ノット。
対潜は全くできないものの、大型艦から水雷艇まで相手にできる武装を揃えている、近々、対艦用の短ミサイルも詰めるようにする計画が出ているらしい。
「まあ、問題なく終わりそうだな」
張本さんはホバリングしながら海面を見下ろす、海賊船たちは一気に数を減らし、すでに敗走を始めている。
「そうですね、駆逐艦はもともと、水雷艇を狩るための艦でしたし、小型船討伐はお手のもんですね」
駆逐艦、元の名前は水雷艇駆逐艦、大型艦にとって最大の脅威である魚雷を抱え、肉薄雷撃してくる小型水雷艇を倒し、大型艦を護衛するために作られた艦。
しかし時代は過ぎて、自らも魚雷を抱き、大型艦を沈めることができるようになったため、水雷艇は外れ、今の駆逐艦と呼ばれるようになった訳だ。
まあ近代の海軍では、その駆逐艦こそが主力なわけだけど……。
「よし、殲滅は終わったな」
しばらくたって、戦艦四隻は縦列に、駆逐艦はその後方、右、左を守るように展開した陣形を組んだ。
「さて、こう組んだということは演習をやめて基地に帰るのか……」
現在位置は小笠原海溝周辺で、時刻は午後三時半、艦隊が基地につくのは夜になるかな……。
ちなみにだが、駆逐艦は八丈島の駆逐艦を連れてきたから、こんなに早く到着できたのだ、まあ俺は、一度横須賀に戻ったのだけれど……。
今日の俺は、ほとんどヘリに乗って過ごしていたような気がするな……午前中から空襲の対策をして、潜水艦に囲まれた艦隊を助けに行って、そのまま戦艦四隻の演習を見に行って……。
ヘリの乗り換え、一日で四回もしたのか……。
「次の演習から、『ブラックホーク』じゃなくて、俺のヘリに乗るか?そうすれば、何かあっても対応できるだろう」
ああ確かに、次からはずっと、『バッファロー』に乗ることにするか……。
「にしても、演習の時に限って、どうしてこんなに敵が攻めてくるのか……」
今の日本の警備は鋭い、世界でも、トップレベルの警戒網が領海、領空に張り巡らされ、少し手薄いものの、南はフィリピンの頭、北は占守の少し先、東はウェーク島までもが警戒範囲に入っている、だが、重要な欠点が一つ。
「あともう少し、迎撃できる艦と航空機が居ればなあ……もっと迎撃線を広げられるのにな」
圧倒的な兵器不足だ。
軍で使うような大型艦を、警備や小型艦の処理に使うのは、完全に資源の無駄遣い、WSの駆逐艦と軽巡も、現在は、『阿武隈』『矢矧』『夕張』『雪風』『陽炎』『綾波』『夕立』『吹雪』の八隻のみで、そこに量産駆逐艦が約六十隻、海自の護衛艦二十八隻、合計で八十八隻ちょっと。
之に、潜水艦を足しても百十六隻近く、毎日毎時間臨戦態勢でいられるわけも無く、遠征や輸送艦の護衛艦にも出ているため、実際に臨戦態勢でいるのは三分の一ぐらい、さらに全国に散らばるため、一部方面に、至急駆けつける部隊は十分の一にも満たない。
「まったく、いることはわかっても手を出せないって、どんなお人好しだよ」
結果日本は、警戒範囲の半分以下の迎撃エリアを展開せざるを得ないのだ。
「はい、張本です」
張本さんが、無線のマイクを入れて何やら会話を始めた瞬間。
「うおわ!」
ヘリが大きく揺さぶられ、後ろにいた『長門』の左舷に、水柱が上がった。
「なんだって!」
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