第五一話 吹雪の才能

「えっと、『隼』の改造と『七二型』製造の許可をいただきたく、有馬戦線司令長官及びWS管理者をお招きいたしました」


 そう、吹雪は俺に返す。

 まさか、管理者の方も言われるとは思わなかったな。


「で、許可しない」

「ええええ! なんでよ!」


 俺がそう言うと、吹雪は倉庫全体に響き渡る声で叫んだ。


「どうもこうも、お前どうせ作ってあるだろ」


 こいつのことだ、どうせ「改良しちゃえ! 製造しちゃえ!」で作ったはいいものの、後からそれが軍規違反なことを思い出し、俺に許可を求めたんだろう……。


 いや、流石にそれほどバカではないか……。


「すごい! 流石有馬中佐殿ですね!」


 そう言って、一人の整備員が奥からやってきて、俺たちの座る席にお茶を置く。


「自分は整備課の新井です!」


 そう敬礼をする。


 ん? まてまて、何が流石だ?


「中佐のおっしゃる通り、清原整備長もう作っちゃったんですよ! それで許可を誰から取ろうかと考え、中佐のもとに行ったという事です!」


 ほう、どうやら俺の予想は100%当たっていたと……。


「だって、有馬ならOK出すかなぁ~って……」


 俺は呆れてため息をつく。


「お前なあ……」


 しかし本当にこれで俺が許可を出さなければ、軍法会議で降格どころか追放処分だぞ……。


「分かった、許可は出すし作戦本部と彭城長官には俺が話を通しておく……」

「やったあ!」


 そう言いながらガッツポーズ、まずそこはありがとうじゃないのか?


「それで、『隼』の改良の件は納得だ、火力不足の改善とその他の防弾設備の増加、だが『零戦七二型』はどうした?」


 俺が乗った戦闘機『隼』、しかしその『隼』はキューブの研究が空襲で遅れ、機体だけが先にできていた。

 

 つい最近キューブを作成できたので、ついでに改良するのはまだ納得だ。

 しかし『零戦七二型』は設計図がなく、エンジンとなる幻の、三菱誉五四型エンジンに限っては、試験作成すらされていなかったはずだ。


「知ってる? 誉五四型エンジンは、設計図がないだけで、別に今作れないわけじゃないんだよ? それに、理屈だけ言えば、通常の誉の上位互換だし」

「お前……まさか……」


 吹雪は満面の笑みで布を被った荷台を押してくる、そしてその布を払うと。


「作っちゃった、誉五四型エンジン吹雪スペシャル、通称あさひエンジン!」


 そこには、いびつなパイプが並び、普通のものより少し大きめなエンジンが姿を現す。

 そして、パイプの一本に刻まれる旭の一文字。


「お前、絶対生まれる時代間違ってるよ」


 こいつが戦争の時代にいたら、日本勝てたんじゃねえのか?


「えっと、全体的に説明求めてもいいか?」


 そう言うと、吹雪は目を輝かせて倉庫の奥まで走り出す。



 暫く経つと、何人かの整備員の力を借りて何かを押し出してくる、形状的に戦闘機……。


「まさか、『七二型』のボディーも作っていたのか」


 東京に来たのは九月十一日、現在十四日、三日で新作の戦闘機作り上げたのか……アメリカじゃあるまいし、なんでそんなことやってんだよ……。


「乗ってみな」


 俺は言われるがまま『七二型』に乗りこみ、操縦桿を握る。


「見た感じ、内装はあまり変わらないな」


 『零戦』の内装は全体的に開けている。

 全面張りのガラスに正面の光学照準器、高度計等の細かな計器が正面に並ぶ。

 そして日本機に見られる特徴で、射撃用の発射スイッチ、操縦桿、爆撃用のレバーが別々に装備されている。


「まあまあ待ちなね」


 吹雪はエンジンを取り付け、プロペラを付け直す。


「『零戦七二型』、旭エンジン最高速度682キロ、巡行飛行320キロ、でも残念ながら、増補タンクをつけても飛行可能距離は1800㎞」

 

 吹雪は誇ったように言う。

 実際『五二型』と比べると性能差がよくわかる。

 『零戦五二型』の最高速度は565キロ、素晴らしいほどの速度アップだ。

 航続距離がかなり落ちたのは、おそらく追加武装などで機体の内部が変わったからだろう。


「武装はおなじみ7、7ミリ機首機銃二丁があまり意味ないと思ったから、破壊力と直進性の高い13、7ミリ機銃二丁に変更」


 そう言って、吹雪はエンジン部のやや後ろに着いた穴を指さす。


 7、7ミリ機銃は威力こそ小さいものの、弾のサイズが小さいため装弾数が多く、手数には優れているから、私的には短刀をイメージできる。

 逆に13、7ミリ機銃は効果的に敵機にダメージを与え、さらには弾速も早いため当てやすく、長距離から敵機に向かって攻撃できる、その特徴から長槍が思い浮かぶ。


「そんでもって、翼内に20ミリ機銃を進化させた、五式30ミリ機関銃四丁、脱着式追加弾倉を着けて装弾数を増やすこともできるよ、そうすると増補はつけられないけど」


 今度は、翼に着いた機関銃を指さす。

 

 日本が誇り、大戦中に猛威を振るった20ミリ機銃、その威力は敵機を空中分解させるほどの威力だった、しかし後半になれば、米軍の戦闘機や爆撃機はさらに硬くなり、20ミリでも容易に貫くことはできなくなる。


 そこで日本は20ミリを上回る30ミリ機銃を開発した、20ミリ機銃が最高に切れる刀ならば、30ミリは全てを打ち砕くハンマーのような機銃だ。

 その中でもいわゆる『五式機銃』というのは、なかなかの性能を持っていたらしく、大戦末期の幻の名機たちは、之をよく装備していた。


「翼下に二十五番二つ、もしくは増補タンクを着けられるよ」


 爆弾の搭載量も申し分ないようだ。


 俺は感嘆してため息をつく。


「ほんと、よく作ったな……で、どうせ乗るのはお前なんだろ?」


 吹雪は、もちろんと言わんばかりにⅤサインを作る。


「でも、本部は量産をご所望だから、少し作りやすくした量産型がこれ」


 そう言って俺に詳細を見せつける。

 従来の『五二型』と比べてみるとしよう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『零戦五二型』

栄三一甲エンジン搭載 1100馬力 最高速度565キロ

最高航続距離2560㎞

機首機銃7,7ミリ二丁 翼内20ミリ二丁


『零戦七二型』

旭エンジン搭載 1900馬力 最高速度682キロ

最高航続距離1900㎞

機首機銃13、7ミリ二丁 翼内30ミリ二丁

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 主に量産の『七二型』は30ミリ機銃の数が少なくなってるようで、細かいところを上げると、エンジン質力の調整幅やフラップ強度などが違う。

 

 しかしこうして見ると本当にすごい進歩だ、相変わらず装甲版は無いみたいだが……もはや『零戦』と呼んでいいのか疑問になるレベルだ。


「確かにこれなら、機銃と速度が進化した『零戦』ってだけで戦いやすいな」


 俺がそう返すと、吹雪は自慢げに「でしょでしょ」と胸を張る。


 そんな微笑ましい姿を眺めていたいが、突如として響いた報告でそんな気持ちはかき消された。


「滑走路に居る者は退避! 被弾機が降りてくるぞ!」

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