第三六話 パプア港急襲


 俺と大和は墓場での一件を終え、パプア軍港への帰路についていた。


 そんな時、俺の腕時計から着信音が鳴った。


「ん、どうした航大」


 俺は通信が繋がった瞬間の爆音で、大体どういう状況か分かった。


「敵戦艦一、巡洋二、駆逐四だ」


 俺は少し考えて、『赤城』航空隊を出そうとしたが。


「今ここの軍港に止まっている艦隊が向かってる、明野さんが艦長のイージス戦艦が一隻、護衛艦が二隻だ」


 その言葉を聞いて、俺はその指示を飲み込む。


「了解、情況に変化があったら教えてくれ」

「了解」


 そう言って、通信は切れた。


「さて、飛ばすか」


 俺はバイクのスピードを上げ、軍港まで急ぐ。


 

 『大和』の止まる港までたどり着くと、ダッシュで階段を上がり、防空指揮所まで上がる、それと同時に航大から連絡がきた。


「ついたってよ」


 ただそれだけ、だが俺はその瞬間勝利を確信した。





「国籍色別……黒、IFF……応答なし、艦隊をWAS艦隊、標的と認識します」


 レーダー担当がそう伝え、それを受け取った私は、各艦に指示を出す。


「護衛艦『りくかぜ』目標駆逐艦四隻、イージス艦『まや』目標巡洋艦二隻、対艦ミサイルの発射を許可します、ただし、無駄撃ちは極力避けるよう」

「「了解」」


 私はそう指示を出し、自身の艦の目標を伝える。


「我々イージス戦艦『あめ』は、敵戦艦を目標とします」


 その後、艦長が大音声で指示を下す。


「了解、目標、敵戦艦、砲雷撃戦用意!」

「左、砲雷撃戦用意!」


 私の声が復唱される、その数十秒後に。


「左砲用意よし」

「正面砲用意よし」

「雷撃戦用意よし」


 そう声が返ってくる。


 この艦は全長190m全幅22m最速30ノットの、盾型と呼ばれる形の艦だ。

 

 少し尖った艦首に『20センチ60口径連装砲』一基が配置され、雛壇型の艦橋。

 艦首より少し低い位置に両舷に突出した部分があり、そこに『20センチ60口径単装砲』が配置。

 二段目の両側面に『32式墳芯魚雷発射管』が五基ずつ、ファランクス一基ずつ、そこに並んで、『サーペントミサイル三連装発射台』一基ずつ。

 艦後部は艦首主砲と同じ高さの甲板に『VLS』12セル二セット、その間にヘリポートを搭載している。

 最高段に存在する第一艦橋のすぐ前にもう一基のファランクスがあり、艦橋上部には『OTHMark7レーダー』、艦橋後部には『23号レーダー』を装備している。

 

 この艦は通常のイージス艦とは違い、攻撃に特化した対艦隊決戦用イージス艦、通称イージス戦艦と言われる。


「左砲戦、撃て!」


 艦長はそう下令した。


 その声と同時に二つの砲が敵戦艦へ向かって火を噴く。

 それを確認した敵戦艦は、陸に向けていた砲をこちらに向けた。


「敵弾来ます!」


 その声と同時に、周辺の海面から水柱が上がる。


「艦に異常在りません」

「砲撃続行!」


 艦長が指示を飛ばす。

 そうすると、もう一度左側で砲声が響き、画面に映る敵艦から爆炎が上がる。


「命中! 命中! ミサイル照準可能!」


 その声を聴き、艦長は私の方に振り返る。


「サーペントを使おうと思いますが、よろしいでしょうか」

「許可します」


 私は、艦長からの意見を許可する。

 

 イージス戦艦が使う『四式電磁弾』には特殊な電磁針が入っていて、敵に命中し付着すると、ある誘導ミサイルの着弾目標地点となってくれる優れものだ。


「サーペントミサイル、発射用意!」


 射撃管制の兵が。


「発射準備よし! 射線確保よし! 目標照準よし!」


 艦長はそのまま、新たに指示を飛ばす。


「ミサイル発射!」

「発射!」


 その瞬間左舷に設置された『サーペントミサイル三連装発射台』から煙が上がり、通常より大きい対艦ミサイルが敵戦艦に向かう。


 通常の対艦ミサイルはVLSから発射できるが、サーペントミサイルはVLSに入らないほど太い。

 威力は高いが誘導性能が低いため専用の発射台を用意し、誘導用の電磁針を内蔵した『四式電磁弾』とセットで活用するのだ。


 そんな通常より太い対艦ミサイルを撃ち落とそうと、必死に敵艦は対空機銃と対空砲を撃ちだすが、ほとんど意味はなくそのまま艦首に命中する。


「命中! 敵艦大破! 傾いていきます」

「目標撃破!」


 私は安心して背もたれに寄りかかる。


「ふう……終わった……被害知らせ」


 私がそう連絡を入れると。


「こちら『まや』、損害軽微、目標四隻撃沈」

「こちら『りくかぜ』、損害無し、目標二隻撃沈」


 私はその報告を聞き、もう一度息を吐きだし安心した。


「よかった、被害が最小限に済んで」


 さて、艦をドッグへ戻さないと。


「全艦反転、帰投します」




 現在、9月2日、04時03分、状況終了。




 俺は双眼鏡で海戦の様子を見ていた。


「ほえーやっぱ最新鋭のイージス戦艦は強いね~」


 そう感嘆の声を上げる。

 しかしこの艦は大量量産できず、一度大破すると修復が難しいという欠点がある、だからWSとして過去の兵器を蘇らせたわけだけど……。

 ちなみにイージス戦艦を世界で初めて設計、運用したのは日本だ。

 今ではアメリカとロシア、それに中国が研究し、アメリカでは『アイオワ二世』が誕生している。


「やっぱりミサイルを撃ち落とすのは、対空設備じゃ無理かなぁ」


 大和が嘆く。


「うーん難しいだろうなぁ」


 大和たちWSは、ある程度自身の機体や艦体を動かすことができるが優先順位がある。

 戦艦は主砲、巡洋艦は主砲か魚雷の特化している方、駆逐艦はもちろん魚雷、空母は対空設備、航空機は例外で、完全に自身が乗っているのと同じように操縦できる。


「と言うか、なんで基地こんなにきれいなの? 戦艦級の艦砲射撃を受けたら、もっと悲惨なことになってない?」


 大和が言う。

 確かに艦載砲をもってすれば基地の破壊はたやすい、実際それは二度の大戦でよく立証されている、しかしそれは撃たれた場合だ。


「通信で聞こえていた砲の音は艦砲だけじゃなくて、榴弾砲の音が主だ」


 この基地の海岸線には、対艦用の大型榴弾砲がいくつか設置されている。

 それを撃って敵艦の行動を抑制していたおかげで、敵艦は基地へ近づけず、大して有効な命中弾を出せなかったのだろう。


 それらの榴弾砲は全てアメリカ製の『K―28―255』255ミリ榴弾固定砲で、命中時の破壊力はかなりのものだ。


「なるほどねぇ」


 大和はわざとらしいほどの動きでうなずく。


「さて、俺は明野さんの様子を見てくる、お前はどうするんだ?」


 俺は階段からせっせと降りている中、大和はぴょんぴょんと艦橋の出っ張りを利用して降りていく。

 いいなあ楽そうで。


「私はちょっと疲れたから寝てるね」


 そう言って、姿を消した。


「自由な奴だな」


 俺はそんな風に思いながら海自用のドッグに向かう、海自の持つほとんどの艦は軍の艦より圧倒的に小さいので、ドッグも小さい。

 ただ、やはり軍のドックよりも近代的な見た目をしている。


「明野さん、お疲れ様です」


 俺は椅子に座って一息つく明野さんに声をかける。


「ああ有馬さん……私は何もしていませんよ、頑張ってくれたのは艦長以下乗員たちです」


 明野さんは「ははは」と笑いながらそう言う。


「というか明野さんは、どうしてここの提督やってるんですか?」


 純粋な興味から、俺はそう聞いてみることにした。


「親が私をここに推薦したんです、そのせいで現場をほとんど経験することなくスキップで昇進を繰り替えし中将まで上げられ、ここに着かされました……」


 今度は俺が苦笑いする番だった。

 つまり言い方は悪いが明野さんは、親の七光りでここの提督になった訳だ。


「いろいろ大変でしたね……」


 俺がそう言うと、明野さんは首を振る。


「いえ、ここの人達は皆さんお父さんの知り合いらしく、よくしてもらったおかげで不自由なくここで提督をできています、ここはオーストラリアに近く重要な拠点で暑いですが、それなりに良い所ですよ?」


 そんな話をしていると、俺の腕時計が鳴った。


「ん、なんだ」


 一体なんの用だろうか。


「所属不明艦がこちらに近づき、艦載機を発艦したのを確認しました、レシプロ機一機の為、まだ対処はしていませんが……迎撃しますか?」


 通信の主は電信課の兵なのか、後ろから電子音が聞こえる。


「いや、国籍識別とIFFで確認してから……」


 俺はそう言いかけて止める、海上からこちらに向かう航空機を見て、その必要はないと分かったからだ。


「やっぱり迎撃しなくていい、あれは合流する予定の空母だ」

「あ、了解しました警戒を解きます」


 そう言って通信は切れ、それと同時にドッグの上空を一機の機体が通り抜ける。

 その機体は『零戦』と対照的に、ずんぐりむっくりとした機体で青色の塗装、しかし『零戦』以上に信頼できる重量感。


「グラマン『F4Fワイルドキャット』……」


 明野さんもその機体を見上げ、周りに聞こえないよう小さな声で伝える。


「米空母のWSですね、迎えに行ってあげてください」


 俺はそれを聞き、今度は軍用のドッグに走った。





 『赤城』『大和』と並び、その隣にはちょうど今入港した大型の米空母が居座っていた。


「ああ、なるほど……」


 俺はその巨大な空母を見つめ、悪いかと思ったが階段を上り甲板に上がる、そして甲板に書かれたENの文字を読んで確信した。


「『ヨークタウン』級航空母艦『エンタープライズ』、別名灰色の亡霊、グレイゴースト」


 その艦の名前を俺は呼ぶ。

 そうすると、後ろから聞いたことのない凛とした声が聞こえた。


「私を呼んだか?」


 たった一言なのに、俺は確かに背筋を奔る悪寒を感じた。


 大和が戦闘中に向ける視線が獲物に跳びかかる狼の目なら、今俺の背後から送られる視線は、獲物を見定めている鷲の視線だ。


 しかしいつまでも恐れているわけにはいかない。

 心を落ち着かせ、その声の主を確認するため、俺はゆっくりと振り返った。


♢  ♢  ♢ 登場兵器紹介・味方 ♢  ♢  ♢

艦名:『あめ』 艦種:対艦隊決戦用イージス艦  所属:桜日国


  全長:190メートル  全幅:22.5メートル 

最大速力:30ノット 基準排水量:64,000トン


  主砲:60口径20センチ連装砲・一基二門

     60口径20センチ単装砲・二基二門 

  副砲:なし

  魚雷:32式墳芯魚雷垂直発射管・十基

 対空砲:40口径12.7センチ連装高角砲・十二基二十四門

対空機銃:CWLSファランクス・三基

ミサイル:サーペントミサイル三連装発射台・二基

     VLS・24セル

 搭載機:『SH60J』三機


同型艦:『はれ』『ゆきぐも』『はたぐも』 改級:『あらし』『こがらし』


 2039年より計画、建造が進められ、44年に全艦就役した『はれ』型イージス戦艦、その二番艦がこの艦である。高速性と打撃性を備え、守備ための護衛艦ではなく、攻撃のための戦艦として就役したこの艦は、現代ではかなりの大口径である20センチ砲を備え、ミサイルや魚雷などの設備を万全に積んでいる。一隻づつが高価なため、大量量産はできないものの、日本の各海域守護の旗艦として、働いている。

♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢

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