第二七話 アジア作戦会議

 現在、8月28日、05時00分。


 俺はいつもこの時間に目を覚ます。

 昨日の夜は風呂から上がった後、全員が俺の部屋で寝た、布団は敷かないでそれぞれ雑魚寝だったが。

 

 早く起きた俺は、軽く荷物の整理をする。

 次の作戦命令があるまではここに待機なので、多少は散らかしておいても問題ないのだが、個人的に、あまり散らかっているのが好きではない。

 

 その後、物音で起きた部隊の面々を連れて、朝食を取りに食堂へと向かった。




「それで吹雪がさぁ~」


 朝食を取り終わった俺たちはうだうだと無駄話をして、時間を潰していた。


「それについては空が悪いでしょ! まるで私が悪いみたいに言わないでよ」


 先ほどから、空が吹雪に対する愚痴をだらだらと述べている、服の乱れがどうとか、洗濯物がどうとか、まるで姉妹のような会話だ。


「お前らほんっと仲いいな」


 コーヒーを飲みながら航大がぼやき、圭が笑う。

 そんな面々を見つめながら、俺は緑茶を啜っていた。


「ん? 彭城艦長からだ……」


 俺は、自身の腕時計が振動したことに気付いて左腕を見る。

 そうすると、新着のメールが届いていた。


「どうした、勇儀?」

「艦長からのお呼び出しだ……」



 

 現在、07時22分、作戦会議場。




 部隊の皆と別れ、俺は港の端にある小さな小屋、今は作戦会議場となっている小屋に向う。

 その小屋の中には、彭城艦長、浅間副艦長、大和、長門、赤城、零が待っていた。


「お待たせしました」

「来たな、それでは、たった今国連から来た指示を伝える」


 国連、もといWHS本部からの指示、それ即ち、どこか近隣の国が出した救援要請だ、2031年に結ばれた『WHS協定条約』の効果によって、助けを求められた場合それを拒否することは基本できない。


「インドの被害が甚大であり壊滅寸前、よって近隣国である桜日は、中華同盟所属国家、インドの救援要請を受領し援軍へ迎え。クロイツ、北欧の戦車部隊も後に合流させる、共同で大陸に展開するWAS陸上部隊に打撃を与えよ……とのこと」


 ……はぁ。


「中国を、インド一国で取り返せるとでも思ったんでしょうかね……」


 俺の心の声を、零が代弁する。


「ここの所インドは作戦が失敗続きで、他国からの信頼が落ちていたんだ、それを挽回しようと頑張ったんだろうな」


 副艦長がそう告げる。


「実際、最初は上手くことが運んでいたみたいだったが、ある時期を境に攻勢はストップ、そのままじりじりと押され、現在のような状況になったらしい」


 長門の補足を聞いて、俺は今度こそ、大きなため息をつく。


「軍人に休みはないってか……」


 本来、桜日軍は自ら積極的に攻勢に出る軍ではなく、桜日に危害を与える存在が確認された場合に打って出る存在であり、あくまでも自衛隊の延長でしかない。


 自衛隊には専守防衛を、軍には先制攻撃を任せる形で運用しようとしていたため、軍はそこまで立て続けに活動することはないと思われていたが……。


「仕方がないですよ、この大戦は、我々桜日という存在が大きく介入することによって、戦況は良くも悪くも大きく動きだしました、この流れはおそらく終戦するまで続くでしょう」


 赤城が、俺に諭すように言う。


 ……桜日の存在は、俺たちが思っている以上に、強大な物なのか? それとも、のどに引っかかった小骨なのか……。


「まあ、そんなことを言っていても仕方がない、隣国の脅威は我々にとっても脅威だ、インド救援、並びに打撃戦の作戦を考えるぞ」


 彭城長官の一言で、作戦会議が始まった。





「ふむ、まあこんなところだな」


 彭城艦長が、そう言いながら欠伸をする。


「これ、作戦って言えるほどのものじゃないですよ……」


 俺は、そんな艦長に呆れながら、机に突っ伏す。


「陸の上の作戦はよくわからないけど、流石に戦力不足なのは、私でも分かるよ?」


 大和も、呆れ気味にそう呟く。

 そんな俺達を横目に、浅間副艦長は煙草に火をつける。


「この作戦に必要なのは、要所要所の打撃力と展開速度だ、無駄に『チハ』など連れて行けんよ」


 浅間副艦長は、作戦会議場の窓を開けて、縁に寄りかかりながら言う。


 『九七式中戦車チハ』旧大日本帝国の主力戦車で、一言で言うならば、二次大戦中の主力戦車の中で最弱の車輌だ。

 もちろん、二次大戦に合っていなかった、もともと対戦車戦闘がメインの仕事ではない、と言うのは在るが、お世辞にも強いといえる車輌ではない。


「『チハ』じゃなくてですね、『90』や『10』を、陸自からちょこっと借りたいって話なんですけど……」


 WSの旧式戦車ではなく、現主力の戦車達の名を俺は言う。

 それに対して、煙草を吹かしながら副艦長が答える。


「それは無理だ、ただでさえ陸自から『74式』を八割方軍の管轄にして、陸戦隊を形成した際に、戦車の所有権で陸自と揉めたんだ、了承などしてくれなかったよ」


 あぁ……そういやそんなこともあったなぁ。


「まあ、その代わりと言っては何だが、どうやらインドが幻兵器を持ってくる用だぞ?」

「インドの幻兵器って……なんです?」


 正直、あまり思い当たらない。


「さあ? 詳しいことは軍機だそうだ、実際に見て確かめるしかないな」


 こちらとしては、まともな兵器が出てくることを願うばかりだ……。




大陸打撃、およびインド兵救出電撃作戦

 大陸までの物資、及び人員輸送

旗艦、戦艦『大和』空母『赤城』量産護衛艦三隻

護衛対象、輸送船四隻、他米空母一隻


 呉軍港をでて、スル海の機雷地帯を避けるため、パプアニューギニア方面に向かい、パプア国際軍港にて休憩。

 その後インドに向けて前進、輸送船より荷物を下ろし、パプア軍港に一時帰投。

 陸の状況に合わせて香港、もしくはインド軍港に再び向かい、上陸部隊、および物資を回収し、佐世保軍港に入港する    以上

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