うどんや

未結式

第1話 うどんや

「ずっと歩いて腹減ったな、うどんでも食べるか」

「いらっしゃいませー結婚式二次会予約で百名様の青木様ですねー」

「一人だよ、入んねえだろ」

「失礼しました、空いてる席にどうぞー」

――一時半だから人いないな。

「あ、奥の席以外はペンキ塗りたてなので気を付けてください」

「公園のベンチか」

「冗談ですよ、奥の席へどうぞ―」

「ふう」

「あ、うち食券なんですよ」

「なんで一回座らせた」

「冗談ですよ、うち食券機ないです」

「何のための嘘だよ」

「メニューどうぞ」

「マイペースだなおい」

「それがうちの売りですので」

「おすすめは?」

「あ、ここから三百メートル離れたところのラーメン屋の醬油ラーメンが美味しいです」

「この店のだよ」

「それなら横浜家形うどんですかね」

「……いやここうどん屋だろ」

「じゃあタヌキうどんですね」

「へーじゃあそれで」

「じゃあ今から狩ってくるので少々お時間をいただきます」

「待て待て待て、何する気だ」

「あ、猟銃で撃ってきます」

「狩り方は聞いてねえよ! 他のおすすめは」

「きつねうどんと山菜うどんですね」

「じゃあきつねで」

「じゃあきつね用の罠確認してきますね」

「またそのパターンか! 山菜うどん!」

「おじいちゃんの実家に行って取ってきます」

「かけうどんだ! かけうどん!」

「ご一緒につけ麺はいかがですか?」

「ポテトみたいな気軽さで勧めてくんじゃねーよ!」

「はいうどん一本!」

「速いな、ってうどん一本だけ?」

「お通しです!」

「聞いたことねえよ、うどんのお通し、しかもうどん一本」

「ちなみに本日のメニューは前菜のかけうどん、スープのかまたまうどん、魚料理の天ぷらうどん、肉料理は肉うどん、メインはかき揚げうどん、サラダは山菜うどん、デザートはカレーうどんになります」

「うどんの波状攻撃! というかうどんはサラダじゃねえだろ!」

「いいですか、うどんは小麦粉からできています」

「知ってるよ」

「小麦粉は植物です」

「そうだな」

「なのでうどんは野菜です」

「論理が棒高跳びしてやがる! その理論だとピザポテトもサラダじゃねーか!」

「え、ピザポテトは飲み物でしょ」

「食べ物のカテゴライズがバグってる」

「ちなみにこのコースのドリンクはそばつゆです」

「頑張れよ最後まで、あの手この手でうどんを食わせようとしてきたんだから、てか頼んだのはかけうどん並だけだよ」

「少々お待ちください」

「……はい」

「それにしてもいい店ですよね、ここ」

「それは客が言うセリフだろ」

「実はね、ここは父から受け継いだ店なんです」

「へーそうなのか」

「そんな父もね……」

「何か、すまん」

「去年『ラーメン屋に俺はなる!』って出ていきました」

「親父ぃ!」

「ここから三百メートルの所なんですけど」

「それさっきのおすすめの店じゃねーか!」

「あ、かけうどんです」

「もう今までの会話で完全に忘れてたわ」

「ごゆっくりどうぞー」

「……かけうどんだな、普通の」

「良かった~目を瞑って食材を選んだんですけど」

「ご飯を博打で作るな」

「きつねうどんを作ろうとして、アクアパッツァができることがありますよ」

「それはもはや別の才能だろ」

「まあまあ食べてみてくださいよ」

「いただきます」


――刹那、体に電流走る。

――うまあああああああああああああぞおおおおおおおおおおお!

――かつおだしのつゆに弾力のある麺。シンプルな味付けであるからこそわかる、このかけうどんが高水準にまとまっている。

――ああ、落ちていくうどんの渦に落ちていく……


「ありがとうございました」

「……今度親父さんのラーメン屋にもいってみるか」

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うどんや 未結式 @shikimiyu

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