真の二刀流

舞後乃酒乱

 真の二刀流

 おれがまだ大学生の時に世の中が大きく変わった。


 一つは、この国で「ベーシックインカム」の制度が導入されたことだ。


 国民一人当たり、毎月20万円の所得給付が為され、その代わり、通常の健康保険、雇用保険の制度がすべて撤廃された。


 勿論一時的な混乱はあったが、一度決まってしまえば長いものに巻かれる国民性もあってほどなく落ち着いた。


 もう一つは、世界中に「ダンジョン」と呼ばれる異空間が現れた事だ、「ベーシックインカム」よりもはるかにインパクトがある出来事だった。


 この「ダンジョン」、中に入ることによって人間に異能を与え、さらには様々な資源が産出されることが分かった。


 そこで国は16才以上の全国民に「ダンジョン」に入り獲得した異能を政府機関に登録することを「ベーシックインカム」給付の条件としたのだ。


 それは…獲得した異能で定期的な『収穫』を義務付けた。ほぼ全国民が国家公務員になった瞬間だった。


 そして今おれは、決められた期限ぎりぎりで「ダンジョン」に潜るための受付をしに職安ギルドに来た。そしてある出来事を目撃した。


 そいつは、判定水晶の結果に異議を唱えていた。


「ぼくは!剣術と魔術の両方を持っている!だから”魔剣術の剣魔”の二つ名を要求する。」


 おれから言わせれば、ただの勘違い坊やだ。職員も困惑して一向に騒ぎが治まらない。確かに二つ名持ちは、さまざまな優遇措置がある。収入の増加はその最たるものだ。


 しばらくすると、保安員に連れられてどこかに行ってしまった。


「あいつ、測定場せっかんしつ行きになったな。身の程を思い知ってくるかね?

 」


 そんなことを、誰かがつぶやいた。


 世の中は誤解している。「二刀流」の意味を。昨今の職安ギルドに来る若者はこの傾向が顕著だ。


 登録の時に、単純に二種類の技能を持ったいるだけで、「二刀流」を語る、おれから言わせれば、それは「二刀流」ではなく、単なる「二流」いや、「三流」だ。


 そもそも、一つを極めてもいないものが、もう一つ別の物を極められるなどと考えること自体烏滸がましい。


 いろいろなことが出来る。それは「器用貧乏」というやつだな。


 さて、そろそろ受付も空いてきた。しょうがないな。…おれは、選んだ仕事とカードを受付に提出する。 


「あっ! ”ニートのリュウ” さん お久しぶりです。今日の受付ですね。」


「またギリギリですか? もう少し回数増やしてくださいよ。二つ名持ちなんですから。」



 

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