-二刀流-
岡田公明
形見と共に...
左手に一本の刀を握る。同じように右手にも...
恐らく、これは片手で持つには重くて、両手で持つには軽い。
ある程度の重さが無いと、人を斬ることは出来ないから....人を斬れる程度には重い。
右に持っている刀は、黒く光る。
その輝きは、眩しいものではなく、光を反射して光っているような錯覚を覚える。
左の刀は反対に、白く光る、それは恐らく自らの光だ。
元々、両方。
私の父が持っていた刀で、左の白竜は母が持っていたものを父が譲り受け
それを、私が貰った。
右の刀は正真正銘、父のもので、手元には、父の名が見える。
昔から、人より素振りをしてきた。
自分は戦場に立たないとは思っていたが、それをすることで自分が落ち着くことができた。
木刀による素振りは、常に手に豆を作った。
いつまでも、自分の限界を追求した。
そうすることで、心が強くなっている感触があった。
でも、実際は違った。
私が生まれた時には、母はいなかった。
聞く分には、相当強かったらしい、そして綺麗だったらしい、それしか分からない。
戦場で強く、家で優しいという母は、戦場で骨を埋めた。
そして、その刀は形見となった。
私は刀を握った。
その刀は、重かった。
自分の体より大きい刀を、私は握って、落とした。
父は、叱らなかった。
しかし、やめておけと、優しい顔で言った。
その父も、戦場で骨を埋めた。
その戦いは、未だに続いている。
代々、私の家系はこのような家業をしているらしく、この赤い血は戦場の色で染められている。
私は素振りをするとき、自分と戦っていた。
ふと、母の話を聞いた時も、楽しく雑談した後も、食後も、そして父が帰ってこなくなった日も、私は素振りをした。
私は、素振りをするとき、一つの刀を両手で握る。
それを、自分を斬るように、想像しながら超えてゆく。
昨日を、その前を、その前を
弱い自分を斬っていく。
それは、いつだって、乗り越える原動力になっていた。
だがあくまで、乗り越えるべきは自分だった。
この村にも、戦火が訪れた。
私は、女という理由で、選択が与えられた。
だが、私は刀を握った。
父の刀を...その刀は、父が帰ってこない代わりとして、帰ってきた。
その刀は、赤黒く汚れていた。
元々の血は乾いていた。
私は涙を流した。
しかし、泣かなかった。
その刀を拭いた。
そして、今その刀を握っている。
「母さんも一緒が良いよね」
初めて、母に向かってそういった。
母の刀に向かって
この刀は置いていけない、行くなら父と一緒が良いだろうから。
私は、それを手に取った。
白い刀は黒い刀よりも軽い。
しかし、それには物理的ではない重さがあると実感した。
―私は人を斬るのか...
乗り越える壁は、いつだって自分だった。
どんな時も、乗り越えてきた。
しかし、私が乗り越える壁は今は違う。
嗚咽感がした。
しかし、飲み込んだ。
私の血には、戦場の血が紛れている。
それを、絶やさないために。
私は、両手の刀を鞘に納める。
そして、私は家を出た。
-二刀流- 岡田公明 @oka1098
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